この記事をまとめると
■ナラン・オートモーティブは2024年6月に「ハイパークーペ」を発表した■フロントエンジンを採用したハイパークーペはスポーツカーの伝統的な美しさを具現化する
■ナラン・ハイパークーペはまもなく限定生産に入る
スポーツカーとしてほぼ完璧なスタイリング
久々に、スタイリッシュなFRスポーツの姿を見たような気がする。最近のスーパーカー、ハイパーカーの主流は、エンジンをリヤミッドに搭載する、いわゆるミッドシップカーであるから、フロントノーズは極端に短いことがほとんどだ。そのなかでロングノーズをもつモデルは、それだけで伝統的な美しさを我々に感じさせてくれる。
ここで紹介する、その名も「ハイパークーペ」を開発し、昨2024年6月にプロトタイプをスイスで公開したナラン・オートモーティブは、アメリカに本社を置く新興勢力だ。
同社を率いるジンバブエ出身のアメール・ナラン氏は、4歳のときにはすでにハイパフォーマンスカーのブランドとポートフォリオを作ることを夢見ていたといい、幼少期にシングルシーターのチャンピオンシップレースに出場したあと、その起業家としての野心を、まず高級なプライベートジェットに向けることになる。
そのディーラーとしての経験、そして資金をもとに設立したのが、自らの名を掲げた「ナラン」社なのであり、彼が選択した次なるビジネスは、かねてからの夢であったハイパーカーの開発と生産にあった。

ナランが世に送り出そうとしたハイパーカーは、世界でもっともホットな、そして美しいと注目を得るモデルだった。もちろんそのためのチームも一流である。リードデザイナーはここ数年、数々の美しいハイパーカーを生み出してきたウィンデザイン。パフォーマンスとシャシーダイナミクスに関しては、これまでニュルブルクリンクのノルドシュライフェで数々のラップレコードを達成したモデルのビークルダイナミクスを担当してきたEY3社のダニエル・メンセ。さらに、トレンドの洞察と予測を専門とするkwmスタジオのコンサルタント、ケイト・モンゴメリーがプロジェクトの全体像を常にチェック、的確な指示を与える。
それにしてもナラン・ハイパークーペのスタイリングは、あらゆる意味で妥協のない、じつに美しい仕上がりだ。その流麗なラインとアグレッシブでモータースポーツにインスパイアされたスタイリングは、すでに高い評価を得ているデ・トマソP72やアポロ・インテンサ・エモツィオーネを手がけたウィンデザインのジョウィン・ウォンと、創始者たるナランのコラボレーションによるものだ。

ナランは、ナラン・オートモーティブを設立する前に、イアン・カラムやエイドリアン・ホイドンク、オラチオ・パガーニなどとディスカッションするチャンスを得て、それを確実に実車のデザインに生かしてきたのだ。ちなみに同社のエンジニアリング部門は、アメリカのほかにイギリス、ドイツにも拠点が置かれている。
美しく高性能なハイパーカー
ナラン・ハイパークーペのフロントミッドに搭載されるエンジンは、5リッターの排気量を持つV型8気筒ツインターボ。最高出力は1048馬力、最大トルクは1036Nmと発表されており、駆動方式は4WDが基本となるが、RWDを選択することもできる。

組み合わせられるミッションは8速AT。このエンジンはドイツのレーシング・ダイナミクス社が開発、製作を担当したもので、結果0-96km/h加速を2.3秒で走り切る加速性能が実現されている。
リヤの大型スポイラーが象徴しているように、エアロダイナミクスにも優れており、最大のダウンフォースは1377kgを達成した。

モータースポーツから着想を得たアプローチでダイナミクスの開発を進めているのも、このモデルの大きな特徴だ。レースで培った知識を融合させ、次世代のアナログ・ドライビング・エクスペリエンスを創造。油圧ステアリング、4ウェイ調節式ダンパー、鍛造カーボンセラミックブレーキ、ダブルウイッシュボーンサスペンション、ハイブリッドカーボンホイールなどは、その代表的な例だ。
とりわけ鍛造カーボンセラミックブレーキは、もともと24時間耐久レース用に開発された390mm径のもので、特注の冷却システムにより摩耗も大幅に低減されるという。

ハイパーカーとして誕生したナラン・ハイパークーペだが、キャビンはリヤにも2名分のシートをもつ4シーターの設計だ。生産台数は前でも触れたとおり39台。独自の仕様にエクステリアそしてインテリアをカスタマイズできるのは当然だ。

まもなくその限定生産に入るハイパークーペだが、じつはすでにそれをドライブした者は多い。2022年にはビデオゲームの「アスファルト9」に登場し、すでに多くのファンを魅了しているからだ。
アメリカの地に、また一台の美しく高性能なハイパーカーが誕生した。その成功を心から願いたい一台だ。