この記事をまとめると
■キャノピーと補助翼が備わった戦闘機のようなクルマがオウッソ・パルスだ■カワサキGPZ500のエンジンとミッションを流用
■パルスを設計したのはアメリカの飛行機エンジニアのジム・ビード
いまにも飛び立ちそうなまるで戦闘機のようなクルマ……?
音速の壁を越える戦闘機なら、地上で走ってもチョッ速に違いない! クルマ好きなら誰しもこんな妄想を浮かべてニヤつくのでは。そんな想像力が生み出した「地上を走る戦闘機」がオウッソ・パルスという冗談みたいなクルマ。生まれ故郷のアメリカでは300台以上が販売され、現在でもその多くが路上を走っているとのこと。
オウッソ・パルスはご覧のとおり戦闘機かのようなキャノピーと補助翼が備わり、あたかも空飛べるんじゃないかというスタイル。ですが、13インチの前後タイヤに加え、サイドには8インチの補助輪をつけたれっきとしたクルマ。
エンジンはカワサキのGPZ500というバイクから流用した並列2気筒、54馬力ほどの出力で後輪を駆動しています。また、ミッションもバイクから流用しているそうで、噂によると日本国内では大型二輪免許があれば路上を走れるとのこと(四輪車登録の個体もあり)。

飛行機と同じく、キャノピーを後ろにスライドさせると前後タンデムのシートにアプローチできます。お世辞にも広いとはいえないコクピットに乗り込むと、これまたバイクから流用されたメーターパネルがあるものの、丸いステアリングがかろうじてクルマ感を醸しているかと。
とはいえ、キャノピーからの視界は飛行機のそれであり、気分があがること間違いなし。また、エアコンやCDプレーヤーも装備されているなど、路上を走る際の快適性も心配ありません。

オーナーによる走りのインプレッションは、それはもうエキサイティングなものだそうで、あたかも滑空している気分に浸れるのだそうです。4輪を装備しているものの、コーナリングを除けば遠心力によって前後2輪のみで走るため、バイクのような感覚も味わえるとか。
そのコーナリングについても、軽量なFRP製ボディや飛行機と等しい運動性能をもたらす設計でもって、思わず歓声をあげたくなるのだそうです。
設計したのはアメリカの有名飛行機エンジニア
実際、このパルスを設計したのはアメリカ航空機業界でその人ありと言われたジム・ビードという飛行機エンジニア。当初はセスナに対抗するキットエア「BD-1」という組み立て式軽飛行機で大成功を収め、その後も画期的なエアクラフトを連発。なかでも有名なのはBD-5と呼ばれる超小型飛行機で、007映画「オクトパシー」でもアクロバティックな飛行を見せています。

しかし、ビードの設計にはいささか雑なところあり、公表した性能が発揮されなかったり、発売前の手付金をほかのプロジェクトに流用してしまうなど、なかなか破天荒な人物だったようです。
そんなビジネス上の失敗から、ビードは一時期エアクラフト事業に携われなくなってしまったのでした。が、そんな時期でも彼に手を差し伸べる物好きがいて(笑)、1986年、オウッソ・モーターカー・カンパニーがパルスの設計を依頼。ちょうどBD-5の構想があったものだから、「あれ、クルマにしちゃおうよ」と大胆というか、めちゃくちゃなプロジェクトが完成したわけです。

パルスは、プロトタイプともいえる前身のライトスターと呼ばれる機体(車体?)と合わせて356機が販売され、オーナーズクラブによればそのほとんどが動態保存されているとのこと。シンプルな設計や、多くのパーツが既存製品からの流用だったこともあって、メンテナンスやカスタムがしやすいという理由もあるでしょう。が、とにかく熱烈なファンに恵まれているのが最大の要因かと。

毀誉褒貶に絶えないビードを毎年のオーナーズミーティングに招くなど、イベント自体もじつに楽しげ。
残念ながらビードは2015年にこの世を去っていますが、数々のエアクラフトはもとより、オウッソ・パルスを遺していったことは大きな業績に違いありません。惜しむらくは、本当に空を飛べるようなクルマを作ってほしかったと思うのは、決して筆者だけではないでしょう。