この記事をまとめると
■EVには1000馬力にも達するハイパーカーが何車種も存在する■クルマの歴史はスピードへの挑戦という側面もある
■筆者は環境性能に優れているとはいえないハイパワーEVも長期的な目線で意義があると考えている
EVハイパーカーを作る理由とは
電気自動車(EV)は、何のために存在するのか?
EVが、発明されたのはエンジン車より早かったとされ、時速100kmを超えたのも、EVが先だとされている。
自動車というものが普及するのは20世紀に入ってからだ。多くの人が手にできるようになった理由は、米国でフォードがT型を流れ生産によって製造したからである。
そうしたなか、カール・ベンツがエンジン車として初となるパテント・モトール・ヴァーゲンを発明して以後、後続の自動車技術者たちは、自らの力量を世に示すため、高性能化に躍起になった。19世紀の末には、自動車競技が始まっており、当初は蒸気機関自動車が勝ったが、間もなくエンジン車が勝ちだす。
そのように、クルマが誕生してから人々を魅了したのは、速さへの挑戦だったといえる。したがって、EVになっても、速さへの憧れが消えるわけではない。
そうしたなか、世界有数のGTカーとして知られるドイツのポルシェは、EV時代を見越してタイカンを生み出した。その後は車種も増え、最高出力は300kWから760kWまで選択肢がある。760kWといえば、1000馬力近い。

気候変動対策としてEVの普及が望まれるなか、電力消費が多くなるであろう高性能EVの存在意義はあるのか? との疑問があるかもしれない。
なおかつ、国や地域によって電源構成比はさまざまで、火力発電への依存度が高い国や地域では、たとえ走行中に排出ガスを出さないとしても、走行エネルギーの源になる電力は二酸化炭素(CO2)の排出に負うとの考えもあるだろう。
しかし、EVの存在意義は、気候変動対策に止まらず、大気汚染防止にも役立つ。

排ガスを出さない点が何よりもメリット
また、世界の電源構成は次第に脱二酸化炭素の方向へ動いている。たとえばAI(人工知能)の活用を狙う企業は、原子力発電への投資を考えている。再生可能エネルギーによる発電への期待も高い。21世紀が電気の時代と考えられるのは、そうした未来への投資が背景になる。
そして今からEVに乗り出せば、廃車になるまでの長い年月において排出ガスを出さないことと、電源構成が改善されていくことが並行して進行し、環境は改善されていくことになる。

ところが、エンジンを使い続ければ、10年後20年後も排出ガスを出し続けることになる。クルマの価値は、新車のときにだけ決まるのではない。数十年という長い年月を通じた価値を見極める必要がある。
クルマが誕生して間もない時代から人間が追求したり憧れたりしてきた高性能化の動きが、EVで起きても不思議ではない。それを、ブランド力とする企業があり、それを選ぶ消費者が存在する。

そのためにも、電力の脱二酸化炭素は急ぐ必要がある。
安定的に電力を利用するには、原子力発電が欠かせない。それに際し、課題解決に負担の多い軽水炉ではなく、トリウム溶融塩炉への転換が期待される。メルトダウンを起こさないなど、より安全であることによる電気代の低減は、安定した電力供給とともに経済の発展をもたらす期待がある。
すでに中国は、先手を打ち、トリウム溶融塩炉の実証炉を稼働しはじめている。新エネルギー車の躍進とそれは、連動することになる。