この記事をまとめると
■2025年1月20日からドナルド・トランプ氏が正式にアメリカ合衆国大統領に就任した



■トランプ大統領はBEVの普及策を廃止についての大統領令に署名した



■いまやアメリカの「伝統工芸品」となっているV8 OHVエンジンの復権に期待



トランプ大統領によって変わるアメリカ市場

2025年1月20日ドナルド・トランプ氏が第47代アメリカ合衆国大統領に正式就任した。2016年に1期(4年)就任してからバイデン氏を経て、大統領に返り咲いたのである。



就任直後、トランプ新大統領はさっそくWHO(世界保健機関)からの脱退、パリ協定からの離脱を表明した。

とくにパリ協定は、気候変動問題に関する国際的枠組みとして55か国以上が批准している国際協約となっているが、これは大統領就任前から離脱についてはすでに表明している。さらに、トランプ新大統領はアメリカ国内おけるBEV(バッテリー電気自動車)の普及策の廃止についての大統領令へも署名している。



アメ車ファンが密かに期待! BEVに待ったのトランプ政権でV...の画像はこちら >>



アメリカといっても、全米レベルでいえばBEV導入に積極姿勢を見せるのはその筆頭のカリフォルニア州をはじめ少数の州となっているともいえる。そのカリフォルニアは、2035年(2035年モデル)からのICE(内燃機関)車の販売を禁止する方針を撤回していない。



段階的に2026年(2026年モデル)から新車販売におけるBEVなどZEV(ゼロエミッションビークル/PHEVも含む)の販売義務付けが始まろうとしているなか、まさにその比率達成の「地ならし」のようにカリフォルニア州では、すべてのブランドとはいわないものの、BEVの「投げ売り」や「たたき売り」という表現がわかりやすいような乱売が行われている。



アメ車ファンが密かに期待! BEVに待ったのトランプ政権でV8が再び注目される?
フォード F-150 ライトニングの充電様子



また、同クラスICE車に対して割高なことにより、爆発的な普及のために避けて通ることのできない、より所得の少ない層へのZEVの普及をどうするのか(ICE車同様に中古車に頼るのか?)という課題が残る。



中古車から中古車しか乗り換えることのできない層では、環境負荷低減モデルの普及にはタイムラグが発生し、所得の少ない層ほど大排気量で燃費性能がよくないモデルに乗る傾向もあり、環境問題だけではなく高値安定の続くガソリン代負担もより所得の低い層を直撃している。



アメ車ファンが密かに期待! BEVに待ったのトランプ政権でV8が再び注目される?
アメリカのガソリンスタンドの外観



気候変動対策などの面では真逆をいくかのようなトランプ新大統領の動きだが、ZEV普及に前向きなカリフォルニア州ロサンゼルス市とその周辺では、物価高騰による家賃の値上げで住む家を失った「普通の人々」がホームレスとなって街に溢れ、また日本の比ではない狂乱的な物価高騰が日々庶民層を直撃している。国民生活、とくに大多数の庶民層の生活にフォーカスすれば、トランプ新大統領の動きを全面的に否定することはできないだろう。



と、やや固い話はここまでとして、ここのところのバイデン政権のBEVへ傾倒した政策のなかでアメリカ車は非常に元気がなかった。アメリカの人たちも主にガソリン代負担の軽減を狙い、トヨタをメインとしたHEV(ハイブリッド車)に注目し、これがよく売れた。トヨタもいままでのコンパクトHEVだけではなく、フルサイズSUV(セコイア)やピックアップトラック(タンドラ)にまでHEVの設定を広げている。



アメ車ファンが密かに期待! BEVに待ったのトランプ政権でV8が再び注目される?
トヨタ・タンドラ(3代目)のフロントスタイリング



2代目や3代目プリウスが注目されていたころは、サンタモニカなどビーチ沿いなどに住む「感度高い系」が好んでHEVに乗っていたが、いまは「HEVに乗っている人は……」などとその傾向を語ることができないほど幅広い人へ普及が進んでいる。



アメリカンV8の復権に超期待

そのなか、筆者の予言とまではいかないが、期待としてトランプ新政権となり「アメリカンV8の復権」をぜひともと願っている。アメリカのV8といえば、過去には日本国内を走っている、ある現行路線バスと同じ7000ccオーバーといったビッグブロックエンジンが乗用車に搭載されていた。冗談半分で「燃費はリッター当たり500メートル」などと揶揄されることもあるように、燃費性能とは無縁の存在であった。



現行モデルに搭載されるV8エンジンは、GM(ゼネラルモーターズ)系とステランティス傘下のクライスラー系ブランド車ではスモールブロックながら6000cc前後で、しかもいまでもOHVとなっている(フォードはOHC)。



あるメーカーのエンジニアからは、「V8エンジン、とくにOHVエンジンが奏でるエンジンサウンドは人間の耳に心地よく聞こえる音域となっている」という話を聞いたことがある。筆者もたまに日本で信号待ちをしている、ダッジ・チャレンジャーを見つけると、信号が青になって発進するのを待って、その加速音に聞きほれている。



アメ車ファンが密かに期待! BEVに待ったのトランプ政権でV8が再び注目される?
ダッジ・チャレンジャー SRT スーパーストックの走行写真



ドイツ車でも日本車でもV8エンジン搭載車はあるが、それらは結構緻密な設計がされたものになっている。筆者個人としては、アメリカのまさに「伝統工芸品」とでもいうべきものがV8 OHVエンジンであり、ドイツや日本車ほど緻密ではない、普及品ともいえるややラフな感じのするその特別な存在がアメリカンブランドのV8 OHVエンジンであると考えている。



例として、シボレーブランドのフルサイズSUVとなる「サバーバン」の市街地とハイウェイを組み合わせた燃費は16MPG(マイル/ガロン)。これをリッター当たりの燃費に換算すると、約7.1km/Lとなる。サバーバンが5300ccV8エンジンなのに対し、3500ccV6ツインターボとなるのであくまで参考比較にしかならないが、レクサスLXの燃費はエグゼクティブ仕様で8km/Lとなっている。

V8 OHVエンジンは、昔のように「ガソリンを捨てながら走る」というレベルにはなっていない。これはV8 OHVながら気筒休止システムを採用するなど、燃費性能のケアもしっかり行われていることにある。



アメ車ファンが密かに期待! BEVに待ったのトランプ政権でV8が再び注目される?
シボレー・サバーバン(12代目)の走行写真



残念ながら、いまどきのアメリカ車でV8エンジンを搭載するモデルは限定的となりつつある。アメリカンブランドとしてラインアップされているモデルの多くは、排気量の小さい直4エンジン搭載車ばかりで、しかも欧州由来やなかには中国や韓国から完成車輸入されているものもある。



トランプ新大統領の掲げる「アメリカ第一主義」の旗印の下、一部の皆さんからは筆者の想いにお叱りを受けることもあるかもしれないが、クルマ好きとしてはその歴史のなかでも、アメリカンブランドにしか作ることのできないV8 OHVが、「悪者」としてではなく注目を浴びるようになってもらいたいと思っている。

編集部おすすめ