この記事をまとめると
■第7世代のフォード・マスタングには「ドリフトブレーキ」が用意されている■ドリフトブレーキは油圧式サイドブレーキを電子的に模倣したデバイス
■電子的に制動力や引きしろを設定できるためきめ細かなコントロールが実現した
制動力の微調整を可能にしたドリフトブレーキ
クルマの運転が好きな方はドリフトにも興味があるかと。すでに国内はおろか、世界中でドリフト競技が盛んに行われていますから、興味を惹かれるだけでなく、豪快にドリフトを決めたくなるのも不思議ではないでしょう。
が、ドリフトとひと口にいってもさほど簡単ではないこと、ご承知のとおりです。
フォード・マスタングの7世代目がデビューした2023年、同社のカスタマイズを担うRTRヴィークルズ(日産にとってのNISMOのような存在)との共同開発によって「ドリフトブレーキ」なる新装備が発表されました。これは、従来の油圧式サイドブレーキの機能を電子的にエミュレート(模倣)したデバイスで、RTRがドリフト競技用に使用していた従来型サイドブレーキに比べ3倍の制動力をもたされています。

じつはフォードがドリフトを可能にするために電子機器を使用したのはこれが初めてではありません。以前のフォーカスRSにドリフトモードを導入し、クルマの全輪駆動システムを使用して後輪、とくに外側の後輪により多くのトルクを送ることでスライドを誘発させることに成功しています。
また、2017年には、2024年のマスタングのドリフトブレーキと同様のコンセプトのアクセサリーであるドリフトスティック電子ハンドブレーキもコンセプトワークとして発表されています。もっとも、マスタングのようなハイパワーFRに特化したデバイスというのは今回が初のことといっていいでしょう。

ちなみに、マスタングの2.3リッターターボ4は315馬力と350lb-ftのトルクを発生し、5リッターV8はGT仕様で480馬力と415lb-ft、2024年の新型マスタングダークホースに至っては500馬力と418lb-ftという設定。ドリフトブレーキは、10速ATまたは6速MTの両方と組み合わせることができますが、ターボ4エンジンはオートマチックでのみ使用可能とされています。
ドリフトのプロが開発に全面協力
なお、フォードのワークスチームとしてアメリカのフォーミュラ・ドリフトに参戦しているRTRですが、ドライバーはチーフ・エクゼクティブを務めるヴォーン・ギッティンJr.その人。

ギッティンJr.によれば、「従来のサイドブレーキに比べ利き方がリニアであるだけでなく、電子的に制動力や引きしろを設定できるためコースに合わせたセッティングなどきめ細かなコントロールが実現した」とのインプレッション。

もっとも、彼の開発ムービーではいともたやすくドリフトしているので、ドリフトブレーキの参考にはならないかもしれません(笑)。
また、フォードによれば「初心者は電子ドリフトブレーキを使用してドリフトを学び、あとでシステム設定を変更してサーキットでの競技で使用することができる」としています。たしかに、ドリフトブレーキは長いレバーではなく、ジョイスティックとかガングリップのような形状で、ゲーム世代への馴染みも良さそうです。

これが普及するようなことがあれば「リリースボタンを押しながらレバーを引く」といった動作はアナクロ扱いされることも避けられないでしょう。サイドブレーキを使ったターンとか、ややもすればヒール&トゥなんてテクニックまで時代遅れといわれてしまいそう(笑)。
ドリフト好きには朗報に違いありませんが、旧型世代にとってはまたしても微妙なニュースかもしれませんね。