この記事をまとめると
■フランス車では「ZEN(禅)」という言葉が使用されることがある■フランスではスタイル(様式)を指す意味合いで使われている
■現地の人たちにとってちょうどいい「便利なひと言」として扱われている
フランスでの「ZEN」がもつ意味とは
ルノーのグレード名やシトロエンの内装デザインなど、フランス車にはけっこうな確率で「ZEN」というネーミングが出てくる。
ZENとひとまず音で聞けば、日本人的には「禅」ひいては「禅宗」に自然と繋がっている。禅寺で静かに座って雑念を払う座禅であるとか、禅問答だとか、あるいは達磨大師や一休さんを連想する人もいるだろう。
ごく一部の、東洋文化や宗教学の専門家でもない限り、「禅」の何たるかがフランスで一般的に広く深く理解されているかといえば、もちろんそんなワケはない。ただし、禅もしくは「ZENなるもの」に付随するイメージは浸透しており、かなりメジャーに通じる外来語であることは間違いない。しかもフランスでは、インドや中国がオリジンというより、日本の仏教の宗派のひとつとして受け止められている。
使われ方としては、瞑想を実践する元ヒッピーな人も無論いるが、現地ではインテリアやファッションの業界では内装や着こなしを指して、「ça, c’est très zen.(それってとてもゼンだね) 」だとか、「un look zen (ゼンな見た目)」とか「une ambiance zen(ゼンな雰囲気)」とか「zen attitude(ゼンな態度)」などといったりする。

つまり、形容詞っぽくも使われるのだが、スタイル(=様式)を指していわれることが多い。様相としては、ただ簡素なだけでなくざっくり感のある素材のメリハリ、ナチュラルカラーの同色グラデがベースの、リラックスした雰囲気というところだ。
フランス人にとって必要な単語に
フランス式のいい趣味というと、その昔でいう「BCBG(bon chic, bon genreの略)」の通り、社会的にほどほどハイソ志向で品よく見えるものが好まれやすく、それが自然な雰囲気で本人に溶け込んでいればなおさらよし、だった。
ただ、部屋でも服でも、素材やら柄やら色やらが極度に洗練され過ぎていくと、ゴテゴテと要素も増えがちで、ノンシャランと似合っているのは難しい。それでいて、スッキリしたスタイルというのはビンボー臭いか、ナイーブ過ぎるのと紙一重でもあった。
逆に、携帯電話や生命保険のような月々の支払い商品でも、条件面でごちゃごちゃしない安心パッケージ的なものが「formule zen」として売られていたりもする。修道院暮らしのような清貧さではなく、静寂や安堵を伴いつつシンプルで質の高い暮らし方として、フランス人にはエキゾチックなZENはちょうどよく映るのだ。

ちなみに上っ面だけ、簡素でオリエンタルなものを、何でもZENといいがちなフランス的視点も当然ある。
クルマの内装インテリアにも、そのまま当てはまることがわかるだろう。昨今のシトロエンの内装はë-C3やë-C4さらにはC5 Xなど、水平基調のダッシュボードで素材感や色合いの優しいコントラストは大事にしつつ、広々した寛ぎ感を重視している。

煩雑でなしに、エッセンシャルにまとまったものを美しいと感じる感性は、フランスではむしろ根強く、「シンプル」や「ピュア」といった概念はあるにもかかわらず、要素少なめの美しさと快適さをセットにしてポジティブに定義する「便利なひと言」というのが見当たらなかった。この空白を見事に埋め合わせてくれる言葉あるいはスタイル(=様式)が、ZENだったという訳だ。

いわばZENは、フランスではスタイルのある暮らしための積極的引き算のように、だからこそクールなものとして受け止められている節がある。
ラーメンのトッピングも軽自動車の便利装備も、全部のせがベスト・プラクティクスになった日本でいえば、断捨離を楽しむ感覚と遠からぬところにあるはずだ。