この記事をまとめると
■アストンマーティンは1970年代以降「V」で始まる車名を多用してきた



■ヴァンテージやヴォランテなどの車名にはこだわりが込められている



■Vは「Victory(勝利)」を象徴するブランドの哲学に根付いたものだといえる



「V」の頭文字はアストンマーティンの歴史とともにある

「アストンマーティンの車名には、なぜ「V」の文字で始まるモデルが多いのですか?」と担当の編集者に聞かれ、そのテーマで原稿を書けといわれ、改めてその事実に気づいた次第である。



ちなみにアストンマーティンが初めて「V」の文字を車名に掲げたのは1970年代初めのこと。当時の同社はそれまでのリーダーであるデイビッド・ブラウン(ちなみに、Vと同様に現在車名の冒頭に掲げられるDBの名は彼のイニシャルにほかならない)が、アストンマーティンを含めた企業グループの根幹である農業トラクター部門の経営を誤り、莫大な損失を計上。

結果、ブラウンはトラクター部門を売却したばかりか、同グループの経営からも撤退することになったのである。



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彼の後継として、わずか100ポンドでアストンマーティンの経営権を手にしたのはカンパニー・デベロップメンツ社で、彼らがもっとも魅力的な輸出市場として意識していたアメリカを制覇するために、新型V8エンジンを開発することが最初の課題とされた。だが、そのためのコストの大きさなどを理由に、アストンマーティンは再び経営的な危機を迎え、1974年にはニューポート・パグネルの工場もその稼働を停止せざるを得なかった。



しかし、ここでもアストンマーティンのもとにはエンジェルが舞い降りる。それは何人かの裕福な彼らのカスタマーで、ここに現在まで続くアストンマーティン・ラゴンダ社が創立されたのだ。



デビッド・ブラウンは、かねてからDBS用に新開発したシャシーに、5.3リッターのV型8気筒エンジンを搭載したモデルを市場に投入することを企画していた。その開発の遅れから「DBS V8」とネーミングされたそれが、実際に市場に投入されたのは1969年のこと。彼がアストンマーティンを去ったあとの1973年には、やはりVを頭文字とする高性能版の「ヴァンテージ」も生産された。



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アストンマーティンDBSヴァンテージのフロントスタイリング



1972年にカンパニー・デベロップメンツ社から発表された新型車は、「AM V8」と命名されている。その高性能版はやはり「AMヴァンテージ」で、さらにアメリカ市場からの強い要望により、オープン仕様の「AMヴォランテ」も1978年には誕生した(実際にはDB6にもヴォランテの設定はあった)。



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アストンマーティンAMヴォランテのフロントスタイリング



ちなみにここまでアストンマーティンが好んで使用してきたヴァンテージには、英語で「優越」、そしてヴォランテにはスペイン語で「空を飛ぶことができる」という意味がある。



その後も「V」を冠するモデルが多数

次にアストンマーティンが、「V」を頭文字とするニューモデルを発表したのは1988年。

翌1989年からデリバリーを開始した「ヴィラージュ」がそれで、これは「コーナー」や「旋回」といった意味をもつ。ただし、アストンマーティンがヴィラージュの車名を使用した期間は短く、1996年にはそれをV8に変更。2011年にはV型12気筒エンジンを搭載するモデルでその名前を復活させている。また、2013年にはDB9のビッグマイナーチェンジ版が登場したことで、再びヴィラージュの名は消滅している。



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アストンマーティン・ヴィラージュのフロントスタイリング



その後もアストンマーティンからはさまざまな「V」を車名の先頭に掲げるモデルが誕生した。2015年に24台のみが限定生産されたサーキット専用車の「ヴァルカン」(ローマ神話に登場する火の神であり、またイギリス空軍の爆撃機の名称でもある)。そのデザイン・コンセプトやメカニズムをさらに進化させた、ワンオフモデルの「ヴィクター」(勝者)、そしてアストンマーティン初のミッドエンジンPHEVスーパーカーで999台が限定生産される、「ヴァルハラ」(北欧神話における主神・オーディンの宮殿)など、彼らが車名には大きなこだわりを持っていることは明確だ。



よく考えたら「V」ばっかり! 「ヴァルハラ」「ヴァンテージ」「ヴァルキリー」とアストンマーティンの車名がみんなVから始まるワケ
アストンマーティン・ヴァルハラのフロントスタイリング



なぜアストンマーティンはVの頭文字にこだわるのか。それはやはり「V=Victory」という意識が常にそのクルマ作りの根底にあるからではないだろうか。

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