この記事をまとめると
■2025年4月1日の道交法の一部改正で教習所ではAT車による教習がメインとなる■運送業界にはいまだMT車が多く大型車・中型車のAT免許導入にはリスクがある
■トラック・バス全車を短期間でATに移行するためのバックアップ施策も必要だ
大型車・中型車へのAT免許導入は業界を救えるのか?
2025年4月1日施行となる、道路交通法施行規則の一部改正により、自動車教習所で運転免許取得のための教習を受ける際はAT(オートマチックトランスミッション/自動変速機)車による教習がメインとなる。MT(マニュアルトランスミッション車/手動変速機)車の運転をしたい場合は、追加して教習を受ける必要があり、学科試験を受ける際にはATとMTそれぞれの修了証の提出が求められ、試験に合格すると現状での「AT限定免許解除」のような状態となってMT車の運転が可能になるとのことである。
このような改正の背景には、大型(2027年予定)、中型車(2026年予定)でもいよいよAT免許が導入されることを受け、運転免許取得のための教習をAT車のみとし、追加教習を受けることでMT車も運転可能(限定解除)とするのが現実的ということになったようだ。
ただ、免許の種類でAT限定免許の設定にタイムラグもあるし、教習所の投資(AT教習車の増車など)や教習車の入れ替えなどもあり、改正後への対応には移行期間が設けられている。ただちに厳密に改正後の流れで教習が行われるということでもないようである。
2023年版警察庁統計によると、2023年中の運転免許試験実施状況における普通免許では、合格者数ベースでみると普通免許合格者数116万4801人のうち、AT限定免許での合格が78万9713人となり、全体の67%がAT限定免許合格者数となっている(意外に少ないような……)。もちろん必要があってMTで免許を取るひともいるだろうが、「選べるのなら」とMTでの教習を選ぶひとも目立つようなので、そもそもATとMTの選択肢がなければ、「追加教習を受けてまで……」というひとは減り、かなり絞り込むことができるとの判断もあったように感じる。
ただ、4時間とされる追加教習のなかで、クラッチ操作を伴う手動変速について学ぶことに異論も出ている。AT限定免許導入予定の中型や大型車、つまりトラックやバスといったプロドライバーの世界を心配する声もある。

確かにトラックやバスといった車両でも2ペダル、つまりAT仕様車の導入が進んでいる。ただ、走行距離で100万kmになるのも当たり前といわれるトラックやバスの世界では、日々の使用状況が一般乗用車と根本から異なるとはいえ、長期保有するケースも多く、日本全国津々浦々を見渡せば3ペダル、つまりMT車がいまもなお現役で活躍していることは珍しくない。
「働き方改革」のもと、AT車の導入は今後さらに進んでいくことになるだろうが、その過渡期にはどうしてもATとMTが混在する事業者のほうが目立ってくることになるだろう。「このような状況下ではAT限定免許で事業者へ入社後、新人研修を受けたとしても実際のオペレーションでの不具合も懸念されているようです。また、たった4時間ともいえる追加教習でのみMT車の操作を学んで限定解除というのも、安心・安全な運行という面でもリスクが高まるとの声が出ています」とは事情通。
車両導入と人材教育により事業者の負担が増える
トラックやバスでのMT車といっても、「フィンガーシフト(フィンガーシフトコントロール)」というシフトストロークの短い電磁エア式の変速機となっている車種が圧倒的に多く、これは疲労軽減やシフトミス防止に効果を発揮するものがほとんどとなっている。ただ、バスではいまだに床から生えるロングストロークとなる「通称:竿」と呼ばれるシフトを採用する車両もまだまだ見かける。AT限定免許導入後もMT車も運転できる(使いこなす)人材を必要とする事業者も残りそうである。

また、操作が簡易となったフィンガーシフトだが、聞くところによるとメーカーにより、その操作に「クセ」のようなものがあり、ずいぶん印象が異なるようである。事業者の現状を考えれば、補助金を手厚くしても、全国レベルですべてのバスやトラックを短期間でAT化するのは財政的な問題のほか、車両供給体制という観点でも厳しいように見える。
プロドライバーが荷物やお客を乗せて運転するからこそ、「MT車でのしっかりした教習経験を踏まえ、そしてAT車も使いこなす」という流れも必要のような気がする。

また、ひとことでATといっても、ある現行路線バスでは2ペダルの一般的なATのほかに「2ペダルMT」ともいえる「AMT(オートマチック・マニュアル・トランスミッション)」も選択可能となっており、同型車でも事業者によって異なる2ペダルシフトになっていることもある。これがBEV(バッテリー電気自動車)となれば、ますます勝手が異なってくる。
「働き方改革」、「働き手不足」というキーワードでいけば、その解決策のひとつとして「AT限定免許」というものが思い浮かぶが、今後は運転士として独り立ちさせるため、法令にのっとったこと以外の領域での教育に負担がかかっていくようにも思える。
「ならば自動運転」ともなるが、数年前よりはかなり状況は前進しているものの、すべての問題をいますぐ解決するというところまでは残念ながら到達していないのもまた現実といえよう。

「全部AT車にすれば問題解決」とも考え中型車や大型車でもAT限定免許を導入したようだが、そこだけ変えてもなかなか想定通りにものは運ばないような気がする。全車ATになるまでの移行期間を短めにするためのバックアップも、あわせて充実させる必要があるのではないかとも考えている。