この記事をまとめると
■スズキが2025年から2030年までの中期経営計画「By Your Side」を発表



■発表会場には日本初公開の量産BEVモデル「eビターラ」の欧州仕様車を展示



■グローバルな商品展開の拡充の方針と今後の電動化技術に関する計画についても言及



スズキの中期経営計画「By Your Side」の中身

スズキが2025年2月20日に発表した、2025年から2030年までの新たな中期経営計画「By Your Side」。都内で開催されたその発表会会場では、スズキ初のBEV量産モデル「eビターラ」欧州仕様(左ハンドル)の実車が日本初公開された。



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スプレンディッドシルバーパールメタリック×ブルーイッシュブラックパールの2トーンボディカラーに包まれたその車両は、フロントに最高出力135kW、リヤに同48kWのモーターを搭載し、最大トルク300Nmを発生する4WDモデル。



彫りが深く前後フェンダーの張り出しも大きいデザインと、225/50R19 96Vのグッドイヤー・エフィシェントグリップ2 SUVを履く大径ホイールも相まって、実車を間近で見ると、全長×全幅×全高=4275×1800×1635mmのBセグメント(コンパクト)サイズとは思えないほどの迫力と力強さが、そのエクステリアからは感じられた。



スズキにとって「日本は成長市場」! トヨタに次いで国内新車販売2位のスズキが語る「明るい未来」
スズキeビターラ(欧州仕様)のタイヤハウスまわり



一方で、2700mmという4275mmの全長に比して非常に長いホイールベースは、BEVらしい伸びやかさとともに、室内の広さも想像させる。そして、室内をドアガラスから覗くと、インパネやシートは黒を基調としつつブラウンをアクセントとした、上質感とアクティブさを両立させた仕上がりで、このまま日本へ導入されたとしても何ら不思議ではないクオリティ。



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スズキeビターラ(欧州仕様)のリヤスタイリング



BEVのグローバルモデルとして、2025年春よりインドのグジャラート工場で生産を開始し、同年夏ごろよりインド、欧州、日本など世界各国で順次販売を開始するというが、一日も早い日本導入を期待させるものであることは間違いない。



そのほか、2025年1月にインドのバーラト・モビリティ・グローバル・エキスポで発表された二輪BEVスクーター「e-アクセス」、アメリカでマリン用サステナブル燃料の実証実験を行うのに用いられた船外機「DF140B T(X)」、2025年1月にアメリカのCESで発表された「電動モビリティベースユニット」、そしてスズキの祖業である織機のひとつ「A56片側四挺杼織機」(1955年)も展示。



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スズキの中期経営計画発表会での二輪、マリン、新事業領域を代表する展示品



スズキが四輪、二輪、マリン、さらには新事業領域においても、新技術や新商品の開発へ積極的に取り組んでいく意気込みをうかがわせていた。



では、鈴木敏宏社長体制へ本格的に移行した2021年度から2025年度までの現行中期経営計画が1年前倒しで達成されつつ、スズキを取り巻く事業環境が大きく変化したことを受けて制定された、2025~2030年度の新中期経営計画「By Your Side」の中身は、一体どのようなものだったのか。



経営目標としては、2030年度までに年間の売上収益8兆円、営業利益8000億円(営業利益率10.0%)、ROE(自己資本利益率)13.0%の達成を目指す。このうち四輪事業の目標は、グローバル販売台数420万台、営業利益7000億円に設定された。なお、6年間累計での設備投資と研究開発費はいずれも2兆円とされ、これにより「BEV比率の増加や労務費の上昇、原材料費上昇のなかでも、しっかり収益体質を改善」(鈴木社長)させることで、2030年代前半にROE15%以上を達成する計画だ。



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スズキの自動車工場内の様子



説明会の冒頭では、鈴木社長が「スズキが2030年に向けて目指す姿をイメージした」という映像が披露されたが、そのエンディングでは「『移動を支える』から『生活に密着』へ」「より近く、より長く、そばにいる。あなたのちょうどいいパートナーであり続けたい」というメッセージの後に「By Your Side」のフレーズが。



鈴木社長はこの「By Your Side」を「スズキの社是を完璧にわかりやすく表現したもの」と説明し、今後スズキのコーポレートスローガンとしても使用することを発表した。なお、現在のスズキグループの社是は、このようになっている。



スズキグループ社是



1)お客様の立場になって価値ある製品を作ろう



2)協力一致清新な会社を建設しよう



3)自己の向上につとめ常に意欲的に前進しよう



つまり、「四輪・二輪・マリンといったモビリティを軸に、お客さまの生活に密着した商品・サービスを作り、お客さまの生活をよりよくして、生活を支える存在になりたい」(鈴木社長)という、今後のスズキの目指す姿を、極めてシンプルかつ明確にひと言で表現したのが、「By Your Side」ということになる。



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スズキのコーポレートスローガン「By Your Side」に至る理由を説明する資料



それでは、どんな「By Your Side」な商品を展開していくのか。実際の中期経営計画には各部門の計画が示されていたが、ここでは四輪部門に絞って見ていこう。



技術については、2024年7月に発表された「10年先を見据えた技術戦略」のとおり、スズキの行動理念のひとつである「小・少・軽・短・美」に基づいたエネルギー極小化を引き続き目指すとしている。



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2024年7月に発表されたエネルギー極少化技術戦略を示した資料



そして、市場別に見ると、まず日本は「まだまだ成長市場」(鈴木社長)。「登録車の販売を伸ばし、収益を高めていく」ことに加え、「お客さまと社会に必要とされる存在となり、乗用車シェア2位を維持するとともに、日常の足として軽自動車をお使いのお客さまの生活を支えていきます」という。つまり、登録車と軽自動車双方で「フロンクスに続いて、日本のお客さまの嗜好、市場に合った商品を日本市場に投入し、ラインアップを拡充していく」ことによって、台数のみならず収益も伸ばしていく狙いだ。



スズキにとって「日本は成長市場」! トヨタに次いで国内新車販売2位のスズキが語る「明るい未来」
スズキの中期経営計画での日本市場における今後の取り組みに関する資料



また、電動車に関しては、次世代48Vマイルドハイブリッド「スーパーエネチャージ」投入により、ハイブリッドカーの商品力を強化。さらに、2025年度内発売予定の「eビターラ」と軽商用バンBEVを含め、2030年度までにBEV6モデルを投入する計画を明らかにしている。



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ジャパンモビリティショー2023で公開された軽商用バンのコンセプトモデル



ただし、「日本で販売する商品の生産場所はグローバルに見て最適な工場といたします」と注釈を入れたことから、とくに登録車の生産拠点は、基本的にインドが中心になると見てよいだろう。



顧客がほしいと思わなければそれは優れたものではない

一方で、販売やアフターサービスについては、「チームスズキが商品に込めた想い・こだわりを丁寧に発信、ブランド価値を向上させ、商品価値に見合う適正な価格で商品を販売していきます」と述べ、値引きはもちろん価格設定自体もいたずらに低くしすぎない方向性を示唆。



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スズキディーラーでの整備様子



また、「お客さまに寄り添った営業活動により、新たなお客さまの獲得、代替とサービス売上の増加により利益を増やし、お客さまとともに成長していきます」と説明しており、販売・サービスの質的向上を起点として収益拡大を図る狙いが見て取れた。



こうした背景として大きいのは、やはり日本におけるフロンクスの成功体験だろう。スズキとしては異例なほど入念に実施された、日本仕様正式発表前のティザー告知や展示イベントなどが功を奏し、バックオーダーを抱えるほどの人気となっている。



スズキにとって「日本は成長市場」! トヨタに次いで国内新車販売2位のスズキが語る「明るい未来」
スズキ・フロンクスのフロントスタイリング



これらの施策によって、日本での販売台数を2024年3月期の67万台から、2031年3月期までに70万台にアップ。また、前述のとおりBEVを6モデル投入し、乗用車のパワートレイン比率をBEV20%、HEV80%にする商品計画を明らかにしている。



そして、スズキにとって核となるのが、最大のボリュームゾーンであり、最重要市場と位置付けるインドである。



スズキにとって「日本は成長市場」! トヨタに次いで国内新車販売2位のスズキが語る「明るい未来」
インド国内にいたスズキ車



その説明のなかで、鈴木社長は何度か「まだ届かない残りの10億人」というフレーズを掲げていたが、現時点でスズキの四輪車を購入できるのは、中間層以上の約4億人なのだという。この中間層が今後ますます増えていくとの見通しのなかで、初めて購入するクルマにスズキを選んでもらうべく、エントリーモデル商品作りの強化に取り組んでいくことを、とくに強調し説明している。



と同時に、「最大のセグメントとなったSUVと、今後伸びるMPVセグメントで商品力を強化」(鈴木社長)。また「お財布と環境に優しい製品をご使用いただくため」、BEVやHEV、CNG(圧縮天然ガス車)、CBG(圧縮バイオメタンガス車)、FFV(フレックス燃料車)などの選択肢を提示することも明らかにした。



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ジャパンモビリティショー2025のスズキブースに展示されていたCBG車両



そのために、現地法人であるマルチ・スズキの商品開発能力を高め、「インドのお客様の嗜好に合った商品をタイムリーにご提供する体制」を構築。

販売においては、フロンクスやジムニーノマド、eビターラなどが属する上級チャンネル「ネクサ」と、幅広い層をターゲットにする「アリーナ」の役割をより明確化する。



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インド国内のスズキディーラー外観



そして、インドでの需要をまかないつつ、グローバル輸出拠点としての役割も担うべく、年産400万台体制構築を「何が何でも2030年に400万台にするのではなく、市場の状況を見ながら適切なタイミングで実施」していく考えを述べた。



それらの結果として、インド市場での年間販売台数を2024年3月期の179万台から、2031年3月期までに254万台にアップ、シェア50%を目指す。商品計画としては、BEV4モデルを投入し、全体のパワートレイン比率をBEV15%、HEV25%、CNG(CBG)35%、エタノール20%混合燃料対応FFV20%とする見通しだ。



ほかにも欧州、中東、アフリカ、ASEAN、パキスタン、中南米、大洋州(オセアニア)の各地域・国での四輪車事業戦略を紹介。トヨタとのアライアンスについても、「互いに切磋琢磨する競争者であり続けながら、イコールパートナーとしての協業を継続」していく意向を示している。



スズキにとって「日本は成長市場」! トヨタに次いで国内新車販売2位のスズキが語る「明るい未来」
スズキが発表した中期経営計画でのトヨタとのアライアンス関係についての資料



一方、とくにBEVやエタノール混合燃料、CASEなどの新技術に対しては、「新しい技術をかじっておくことは必要ですが、それをお客さまがほしいと思わなければ、それは優れたものではありません。その見極めが今後に生き残るうえで大事になります」と鈴木社長。また、「技術が理解され受け入れられるには、それがデファクトスタンダード(事実上の標準)にならなければ無理で、それに沿っていく必要があります」とも質疑応答の場で述べ、あくまでユーザーのニーズに寄り添った、まさに「By Your Side」な技術・商品開発と市場展開をしていくという慎重な姿勢を崩さなかった。



また、燃費・安全規制の強化などによる車両価格の上昇に対し、中間層以下の収入上昇が追いついてない状況が続き、一方で富裕層の高価格帯シフトも続いており、これは「インドも日本も同じ状況」(鈴木社長)なのだという。今後、インドを中心に開発・生産されたスズキのエントリーモデルを含むコンパクトカーが、次々と日本を含む世界各国に導入され、世界的なヒット作となっていく。そんな未来が想像に難くない。



スズキにとって「日本は成長市場」! トヨタに次いで国内新車販売2位のスズキが語る「明るい未来」
インド市場で販売されているスズキ車



だがそのためには、開発・生産能力の拡大はもちろん、自動車運搬船などの海洋物流網やPDI(納車前検査)、ディーラー、整備・修理工場といった、製品を迅速に供給し受け入れていく土台をより一層充実させていくことが、必要不可欠だ。



近年のスズキはヒット作を連発する一方、発表からわずか5日で受注停止となったジムニーノマドをはじめとして長納期化する車種が少なくない。これは決して「By Your Side」とはいえないのではないか。



スズキにとって「日本は成長市場」! トヨタに次いで国内新車販売2位のスズキが語る「明るい未来」
スズキ・ジムニーノマドのフロントスタイリング



スズキは前述の「小・少・軽・短・美」に加え、「現場・現物・現実」と「中小企業型経営」を行動理念に掲げている。このうち「中小企業型経営」は意思決定の速さ、人と人との距離の近さ、変化に対応できる柔軟性を持ち続け、企業規模が拡大しても決して大企業病に陥らないよう努めることを目指したものだが、「中小企業型経営」という言葉だけがひとり歩きし、本来の意味から外れ、過剰なまでの謙虚さ、慎重さをスズキ全体に根付かせてしまっているようにも見受けられる。



インドでは圧倒的シェアNo.1、そして日本国内においてもトヨタに次ぐシェア第2位という数字の意味をより正確に認識し、実際の規模が小さいのでなく大きいという意味で、身の丈に合った経営を目指してほしい。それこそがユーザーにとっても「By Your Side」になるのではないだろうか。

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