一部のスポーツカーに標準装着されているリヤウイングだが……

日産GT-R(R35)やスバルWRX STIなど、一部のスポーツカーに標準装着されているリヤウイング。サーキット走行ならともかく、速度域の低い一般道や、高速道路を法定速度(MAX120km/h)で走る程度なら、あってもなくても大して違いがないのでは? 事実、リヤウイングなんてついていないクルマのほうが圧倒的に多いわけだし……と思っている人もいるだろう。

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たしかに、空気抵抗は速度の二乗に比例するので、エアロパーツの効果を速度域の低い一般道で実感するのは難しいかもしれない。

しかし、燃費などの兼ね合いもあり、自動車メーカーによる空力面の研究は進んでいて、その効果は折り紙つき。じつは空力的には決して小さくはない仕事をしているといっていい。



ウイングの効果というと、“ダウンフォース”というのが頭に浮かぶが、そのダウンフォースの反対は、リフトフォース=揚力になる。揚力を発生させるエアロといえば、飛行機の翼が代表的だが、飛行機の翼は上面が凸状で、下面がほぼフラット。こうした形状をしているために、翼の上面を通る空気の流速は、下面を通る空気の流速よりも速くなり、ベルヌーイの定理によって、上面側に負圧が生じ、揚力が発生する。

単なるカッコつけ? 市販車が標準装着するリヤウイングは公道しか走らなくても意味はあるのか



セダンやクーペのボディも、飛行機の翼と同じように側面から見ると、上側が凸状で下側が平らな形をしているので、基本的には揚力を発生しやすいカタチになっている。そのため、空力パーツがついていない普通の乗用車は、100km/hで走行すると約60kgのリフトフォースが発生するといわれている。

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つまりタイヤにかかる荷重がそれだけ減るということで、高速になればなるほど、フワフワとした頼りない手ごたえになっていく……。そうしたクルマにリヤスポイラーやリヤウイングをつけると、揚力が軽減できるので、操縦安定性は確実に向上する。



スポーツカーだけでなく燃費重視のエコカーも空力を重視している

たとえば、純正で4段階の可変リヤウイングを装着した、日産スカイラインGT-R(R33)の場合、ウイングを一番寝かせた状態でも、後輪の揚力係数(CLr)は、-0.03。揚力をゼロにするだけでなく、わずかだがダウンフォースを得る仕様になっている。ちなみにウイングを一番立てた場合のCLrは、ー0.14。

その代わり、空気抵抗係数(Cd)も増えて、Cd値は最低0.35、最大0.39となる。
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レーシングカーでもそうだが、空力の難しいところは、空気抵抗とダウンフォースが、トレードオフになってしまうところにある。とはいえ、100km/h走行時に、リフトフォースがゼロkg=ゼロリフトと、リフトフォースが60kgもあるクルマでは、操縦安定性は大きく違うわけで、レーシングカーのようにダウンフォースまでは得られなくても、ゼロリフトの空力特性というのは、乗用車にとってもありがたいこと。



最近ではスポーツカーだけでなく、燃費重視のエコカーも空力チューンに力を入れているので、トヨタのプリウスなどは2代目の20プリウスから、ゼロリフトを達成。日産リーフも2代目 ZE1型でゼロリフトを実現している。

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余談だが、国産車初の「ゼロリフト」を達成したのは、ホンダの初代シティのシティターボ。トールボーイといわれた初代シティが、ゼロリフトのパイオニアだったのはちょっと意外だったのでは? (Cd値は0.40)

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少々話が逸れてしまったが、空気の抵抗は、前述の通り速度の二乗に比例する。70km/hで走った場合でも、クルマの全走行抵抗の1/4~1/3は空気抵抗になるので、まともなリヤウイングなら、70km/hぐらいから操安性に貢献してくる。



また、標準でリヤウイングを装着しているクルマは、リヤウイングがあることを前提にサスペンションのセッティングやタイヤのチョイスを行っているので、それらとウイングが一体になって、シャシー性能を支えているということを覚えておこう。

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