インドの現状では都市部であっても電気自動車の普及は難しい

世界的に猛威をふるう新型コロナウイルス。日本国内でもシビアな状況が続いており、政府や自治体がさまざまな対策を進めている。そのなか、報道のなかでは「政府や自治体と一般市民との間で、新型コロナウイルスに対する認識が異なるのではないか」などという意見がある。

これは新型コロナウイルス以外の話題であってもそうだ。しかし、これは何も日本に限ったことではなさそうである。



今年2月、インドの首都デリー近郊で行われる、「AUTO EXPO 2020(通称デリーオートエキスポ)」取材のためデリーを訪れた。その時現地で聞いた話では、「インド政府は一気にBEV(純電気自動車)の普及を進めようとしている」とのこと。インド政府は2017年に2030年までに販売される自動車のすべてをBEVにすると発表した。



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しかし、インドを訪れた外国人の多くは、首都デリーの市内を見てもそれがかなり厳しいことを短時間で実感することになる。

“カオス”と呼ぶにまさにふさわしい、喧騒に包まれた街なかを見渡すと、BEVの充電にまわすほど電力供給に余裕があるとは到底思えない風景が広がっている。多くの建物の屋上には、工業用自家発電機が置いてあり、ショー会場にさえも大型の自家発電施設あり、とてもではないが電力供給事情にそれほど余裕があるとは思えない。そのなかでインド政府の「2030年までにすべてをBEVに……」というのは、あまりに無謀と考えるひとが大半である。余談だが、携帯電話の電波状況も不安定で、4Gがすぐに3Gになるなどというのはざらである。



ただ事情通氏に聞くと、「政府はかなり真面目に考えており、自動車業界から考え直してはどうかとたびたびアプローチしても、譲ろうとしないそうです」とのこと。別の事情通氏は「インドのエリート官僚は、上流階級のひとが多いでしょうから、大国意識がかなり強いといえます。

それだけに一般大衆レベルまでにいたる、自国についての現状認識ができず(認めようとしないのかもしれない)、ミスマッチのようなことが起きているのではないか」と語ってくれた。



BEVといえば、世界的にもその普及率が著しく高い中国。ジャブジャブと補助金漬けにし、ナンバー発給規制地域であっても、お構いなしにナンバープレートがあっという間に発給されるなど、かなり手厚いインセンティブもその普及に一役買ってきた。しかし、昨年秋に補助金交付額が引き締められると、急激にBEVの販売が頭打ちとなった。



筆者が北京や上海、広州などの街かどで見かけるBEVは路線バス、タクシー、ライドシェア車両が圧倒的に多く、さらに日本では“ライトバン”などと呼ばれる商用車、つまり“はたらくBEV”ばかりとなっている。一般乗用車では、ポルシェ カイエンやレンジローバー、テスラなどの超高級PHEVやBEVが結構目立っていた。



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事情通氏によると、「中央政府の若手エリート官僚は、『所詮補助金ありきでBEVを普及させること自体無理があった』と内々に語ってくれました」と話してくれた。中国でも、一般大衆レベルと支配階級の間では、思い描く地図は大きく異なるようである。



タイでは生活環境の違いが公共交通機関の発展にも影響

次はところ変わってタイのお話。首都バンコク市内の移動手段として日本人観光客でもお馴染みなのが、BTSと呼ばれる高架鉄道とMRTと呼ばれる地下鉄。日本では、たとえば東京では交通系ICカードのSUICA(スイカ)1枚を持って入れば、東京メトロや都営地下鉄、都営をはじめ各事業者が運行する路線バスなどで、幅広く運賃の支払いができるが、バンコクではそれぞれ専用のICカードが用意されており、東京などのように相互利用することができない。



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そのなかで、筆者が確認した限りでは、間もなく(ひょっとしたらすでに運用開始となっているかもしれないが)BTSやMRTだけでなく、路線バスなど幅広く使うことができるICカードの運用がようやくスタートするとのことである。



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また、バンコク中央駅を建て替えるのではなく、まったく新しい場所に新バンコク中央駅を建設しているのだが(2021年開業予定)、そこから歩くには少々距離のある場所に高速バスターミナルがある。前出の事情通いわく「日本人の発想ならば、ICカードを事業者の枠を越えて使えるようにして、利便性を高めるとか、駅とバスターミナルを徒歩圏内に近づけて利便性を高めるでしょう。新バンコク中央駅近くの高速バスターミナル付近にも十分な土地があるのですが、そもそも近づけようという発想がないようです」。



「ここバンコクではたとえば最寄り駅からショッピングモールまで微妙に離れていて不便などというケースは数多くあります。バイクタクシーなど、新たなビジネスが発生するので良いのではないかとの話もありますが、タイのエリート官僚は上流家庭で育ったひとが多いので、子どものころからすべてクルマで移動しています。ですので駅とバスターミナルを徒歩移動できるように建設すると便利になるなど、公共交通機関の利便性の向上などは考えもつかないようなのです」と語ってくれた。



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政治家やお役人などと一般大衆の感覚にずれがあるのは、何も日本に限った話ではない。ASEANやインドなど、アジア地域は日本よりはるかに露骨な格差社会となっていることもあり、状況は日本を超えたレベルのように見える。日本も格差社会は広がる一方となっているので、今後さらに一般大衆感覚は政治家やお役人には届かなくなっていくのではなかろうか。