もとはフロントグリルに装着するものだった
1980年代には、多くの国産車でも見かけたフードマスコットを最近はほぼ見かけなくなった。そもそもフードマスコットとは、ボンネット先端についているものではなく、戦前のクルマではラジエーターを覆う金属グリルのトップ部分に付けられていた。
というよりも、もともとはラジエーターキャップの上につけて、冷却水の温度上昇を知って暖機の目安にするためという機能的な意味もあったという。
フードマスコットにはコーナーポールのようにノーズ先端位置の把握を容易にするためという機能的な目的もある。現在でもメルセデス・ベンツSクラスにはボンネット先端に同社のエンブレムであるスリーポインテッドスターのフードマスコットを確認できるが、ドライバーから見たときのフードマスコットが白線に重なるように走ることで、車線の中央を維持する目安となったりもする。
そうした機能から生まれたフードマスコットは、ロールスロイスやメルセデスが採用しているというイメージから高級車に欠かせないアイテムとして認識されるようになり、一時は国産車でも見かけるアイテムだった。いまでも光岡ガリューに装着されているほか、ドレスアップアイテムとしてもサードパーティ製のアイテムを見かけることがある。

とはいえ、国産車、輸入車ともフードマスコット装着車は減っている。
ボンネットの突起物は歩行者保護のためにNGとなった
それは安全面の配慮が関係している。21世紀になってから交通事故における歩行者保護のために、ボンネット上の突起はNGというルール(保安基準)が世界的に広がっていった。
そのためボンネットはエンジンフードではなく、歩行者保護のアイテムとなった。頭部をぶつけたときの攻撃性を低減するためボンネットとエンジンの間に一定の空間が必要になったり、その空間が確保できない際にはボンネットを浮かせる工夫がなされたり、はたまた歩行者保護用エアバッグを備えるクルマまで登場している。

そうした流れにあって、立派なフードマスコットをつけていることは、歩行者保護を軽視しているような悪いイメージにもつながりかねない。

なお、歩行者保護の観点からフードマスコットについては禁止というわけではなく、可倒式とするなど対策しておけばいいのだが(実際、メルセデスのフードマスコットは根元がバネで動く)、そういう対策をしてまでしてフードマスコットを残そうというトレンドにはならなかったことが、現状につながっているのだ。