販売台数は少ないもののEV=テスラの印象づけは大成功
米国の電気自動車(EV)メーカーであるテスラが、6月に株式の時価総額でトヨタ自動車を超え自動車業界で世界一となった。時価総額とは、株価と、発行済み株式を掛け算した企業価値をいう。
たとえば、企業価値が高く株価が高い企業が、発行済み株式の数は少なくても、両者を掛け合わせた時価総額で優良企業とみられる。
トヨタは、1937年に創業し83年の歴史を積み上げた自動車メーカーであり、ドイツのフォルクスワーゲンなどと世界一位を争う企業である。これに対し米国のテスラは、2003年に設立されてまだ17年という若い自動車メーカーだ。昨2019年の世界販売台数は約36万台で、トヨタの約970万台(グループとしては1000万台超)に比べ4%弱でしかない。それでいて、時価総額がトヨタ超えをしたため世界は驚いた。
国内では、まだEVはすぐには普及しないだろうとの見方が強い。そして普及のための障害となる集合住宅における管理組合問題という大きな課題がある。しかし、欧米や中国では、EV普及へ着実に前進しており、テスラの地元米国では、EVの販売占有率でテスラが他社を圧倒している。テスラはまた、中国やドイツへも生産工場を構え、中国と欧州の市場においても米国と同様の成果を得るべき足掛かりをつけ始めている。

そのことからも、販売台数の増加が期待されるうえ、たとえば世界に名だたるスポーツカーメーカーであるドイツのポルシェの販売台数が2019年に約28万台であったように、販売台数の規模としてはそれを上まわる実績を持ち、ブランド力を持った自動車メーカー(テスラはEV、ポルシェはスポーツカー)の視点でみれば、決して小さなメーカーではなくなってきている。
クルマ以外のさまざまな分野にも進出し成果を上げ始めている
さらに、テスラはEVだけでなく、太陽光発電事業へも力を入れており、生活と移動の両面で排ガスゼロ化を推進している。

また、燃料電池車(FCV)が普及しないのは、EVと同じモーター駆動で排出ガスゼロではあっても、社会構造の総合的な管理に組み込まれた電力網との効率化や安定供給に寄与できないためだ。クルマ単体で環境性能や優劣を評価する時代は終わっている。
環境のために単にクルマをEV化するという近視眼的な事業活動ではなく、EVであるからこそ広がる可能性を総合事業にまとめ、快適で幸福な未来の生活を包括的に求めようとする21世紀の総合企業として、テスラは時価総額を高めてきたのだと思う。

それに対し世界のほかの自動車メーカーは、EV化への道は進むにしても、従来のエンジン車の設備や従業員の雇用を一気に整理できないため、次第に時代に置いていかれる懸念を払拭しきれない。その時代は、あと10年もしないうちにやってくるのではないか。