技術の進歩でATでもダイレクトな走りが味わえるように進化
かつてトランスミッションといえばマニュアル(MT)式かフルオートマチック(AT)しか選択肢がなかった。MTはクラッチを備えるスリーペダルが当たり前で、ギヤ段数は3~4速。タクシーなどはコラムレバー方式を採用。
ATはといえば、トルコン方式で段数は3~4速。AT専用免許もない時代のシェアは3割以下。なによりトルコンスリップによるエネルギーロスが大きく、燃費の悪化と加速の鈍さ、変速の遅さなどが不人気の主要因となっていた。

だが現代では2ペダルのATがほぼ9割のシェアを獲得するなど、ユーザーの嗜好も大きく変化している。それはAT専用免許制度が設けられ免許取得がしやすくなったからだけではない。
運転好きのクルママニアはこぞってMTを好むといわれるが、僕自身はそうではない。僕がレースをしていた時代、ツーリングカーもフォーミュラカーも3ペダルのMTが当たり前だった。しかしハイスピードでMTを正確に操作するのは大変で、ヒール&トゥは当たり前。コーナリング中の強烈なGが発生する場面でもシフト操作しなければならず、パワーステアリングも装備しないレーシングカーのドライビングは本当に大変だった。金属製のシフトレバーで手の平の皮が向け、レーシングシューズは1レースで穴が開く。

MTにシーケンシャルシフトが導入され、Iパターンのシフトが登場するとイージドライビングへと一気に進化し始める。シーケンシャルでドグクラッチのMTは走行中のクラッチ操作から解放され、2ペダルでドライビングに集中できた。そうなると、アクチュエーターを装備しステアリングパドルで操作するようになるのに時間はかからなかった。ラリーマシンを中心にステアリングパドル化が進み、現在ではF1マシンも2ペダルのパドルシフト方式になっている。
一方、ATも乗用車をベースに進化する。レースカーに比べ一般的な乗用車の開発費は莫大だ。それまで安全性や耐久性に多くのコストがかけられてきたが、時代は省エネ性を強く求めATの燃費も改善されることになる。ATの進化のファーストステップは、ロックアップ機構の採用だっただろう。5速、6速と多段化するのはもちろんのこと、トルコンスリップを最小限に抑え、走行中はクラッチをロックアップしてMT車と変わらぬ走行燃費を獲得できたことが大きい。

ATがスポーツドライビングに適さないと言われた理由のひとつに、変速レスポンスの悪さがある。1速から2速、2速から3速へと変速する過程においてタイムラグが大きく、ロックアップクラッチが外れる瞬間のエネルギーロスも問題視された。
DCTの登場で2ペダル化が劇的に加速していく
そうしたネガティブ要素を払拭したのはDCT(デュアルクラッチトランスミッション)だろう。ポルシェがレーシングカー向けに開発したPDK(ポルシェ・ドッペルクップルング)がその起源とされるが、MTと同じ歯車ギヤをツインクラッチで瞬時に切り替え、MT同等の伝達効率と素早い変速レスポンスで一気にスポーツ性を高めることになった。

ただ複雑なシステムでコストが高く、重量もかさむ。そこで乗用車用に安価で高効率なトランスミッションとしてCVT(連続可変トランスミッション)も登場する。CVTはエンジニア目線主体で効率を最優先にして作り出された。その結果、燃費やコストには優れるが運転感覚との乖離(かいり)が激しく、運転好きなユーザーからは嫌われる対象となった。

ATにおいては、変速を制御するプログラムの重要性も認識されるようになる。たとえばDレンジに入れた状態でも、車速やアクセル開度などから走行状態を算出し、最適なギヤを選択したりロックアップを作動させたりする。その制御でもっとも優れていたのはポルシェ社が開発したティプトロニックだ。

ティプトロニックではアクセル開度だけでなく車速や横G、ステアリングセンサーなどからもフィードバックし、たとえばコーナリング旋回中に余分な変速をしないように制御。またアクセル操作量、操作速度などで仮想キックダウンスイッチを作動するようにして、サーキット走行にも適するような制御を完成させている。DCTも同様に制御プログラムの如何で良くも悪くも評価されることになる。
総じてドイツ車の搭載するDCTは制御に優れ、扱いやすいものが多い。メカニズムだけでなく制御方式においても特許権が存在し、各メーカーが自由にプログラムを導入できるわけではなくなってきている。
MTは自動ブリッピング機構を備えてシフトダウンを正確に行えるようになるなど、まだまだ進化している。最新のトレンドとしてMTは7速、DCTは8速、トルコンATは10速などと多段化していて、エンジンとのマッチングやプログラミングは増々難しくなっているが、HV(ハイブリッド)やBEV、PHVなどの電動化モデルではトランスミッションをもたないなど、時代の大きな変革点にあることも間違いない。
