コーナリングなどで車体に負荷がかかる際のきしみを抑える
新型車が登場するたびに解説資料には「従来比剛性30%アップ」などといった文言多く並ぶ。
年々20~30%のアップを果たしていくモデルもあり、10年前のモデルと比べたら2倍にも3倍にもなっていることになる。
実際、剛性とは何を意味しているのだろうか。
捻り剛性が高まることで、コーナリング中など車体に負荷がかかった時に車体がきしまず、サスペンション取り付け位置のズレが小さくなり稼働時のフリクション(抵抗)が減少して設計値通りのジオメトリーが発揮できるようになる。
近年は捻り剛性だけでは車両の操縦特性を支配できず、縦曲げ剛性(ホイールベースなかほどで上から荷重をかけて車体前後端の上下曲げ応力を測る)や横曲げ剛性(後輪車軸を固定し、車体前部を左右にふって車体の横曲げ応力を測る)も多く語られるようになってきている。
テストドライバーは走行中の前後タイヤの接地性や応答性、破綻特性などから車体剛性の弱い側面を指摘してきたが、計測ベンチ機械で定量的に図れることができるようになったことで「従来比○%アップ」というような表現ができるようになってきているわけだ。

車体剛性と衝突時に損傷を抑える強度は視点が異なる
ではこの車体剛性は高ければ高いほどいいのだろうか。よく勘違いされやすいのは車体剛性が高いから衝突時に安全だという考え方だ。衝突時には車体を順次潰して衝撃力を緩和させていくクラッシャブルストラクチュア(衝撃吸収構造)を有していることが大事で、捻りや曲げ剛性といった剛性論とは視点が異なる問題だ。また衝突時にクルマの損傷を最小限にするには強度が必要で、剛性と強度は論点も視点も異なってくる。たとえば一般的なモノコックの車体でみると、剛性は確保しやすいが、強度を確保するのには板圧を厚くして強度を高めたり、衝突想定部位に補強を加えるなどの手法が必要になる。

ただ強度を高めていくと衝撃の吸収性が低下するので、衝突エネルギーによる車体の変形は抑えられるが、なかに乗っている乗員に大きな衝撃が直接伝わってしまい、重篤な身体障害を負わせてしまうことになる。
しかし、車体変形による衝撃吸収性が低下するので乗員は5点式以上のフルハーネスのシートベルトで強固なバケットシートに固定し、ヘルメットにHans(ハンス)などの頭・頚部損傷を最小限にとどめる装置の装着が求められる。ただロールケージの組み方によって捻り剛性や縦・横曲げ剛性を高めてハンドリングにも寄与させようというのが現在は一般的で、自動車メーカーはCADなどを駆使して最適な組み方を検討している。
生存空間の確保という点では効果的なロールケージだが、一般車に張り巡らすことは日常的に安全装備を乗員が着用しない観点から採用されない。また鉄製ロールケージは重量も重く、室内スペースも犠牲になる。そこで適材適所の材料置換技術が進み、強く強度が高いハイテン材(超高張力剛板)を主要メンバー部位に配し、変形していい部分は軽量な薄い板金を充てるなどの工夫を各社しているわけだ。また剛板の接合部に強力接着材や連続溶接技術など最新に接合技術を用いて剛性と強度、重量とコストのバランスを取っているのである。

高価でも軽量で剛性が高く、速く走れればよいレーシングカーならカーボンモノコックのシャシーを採用できる。だが以前某自動車メーカーがレーシングカーのカーボンモノコックで捻り剛性を計測したら市販乗用車の半分にも満たなかったという。これは計測値の取り方の問題で車体に捻り応力をかけていくと乗用車の場合は車体各部で変形が起こり、徐々に変形度が増して最終的に破断点に達するが、レーシングカーのカーボンモノコックは少しの変形も起こさず限界点で突然破断するという特性の違いによるものといえる。
常に正確なタイヤの接地性とコントロール性を求めるレーシングカーは少しのたわみも許容できないので強度を高めていく必要があるのだが、市販車乗用車はサスペンションにブッシュなどたわみを許容する部品が多く介在しているので強度よりもクラッシャブルストラクチュアを確保するほうが重要になっている。
結果として捩じれながら応力を吸収していく構造となっていて最終的な破断点は高くなる。
テストドライバーの間で「いなす」という言葉のやり取りが多く使われるが、これは車体にかかる応力をいかにサスペンションなどの動きに影響を与えずに機能させながら吸収していくかという部分を感応的に表現している「ワード」といえるのだ。
ぶつかったときには衝撃を上手く吸収して乗員を守り、走行中には捻りや縦・横曲げ剛性をいなしてハンドリングレベルを引き上げていく。それでいて軽量かつ低コストで、生産性も高くデザインの自由度が大きいことも望まれる。車体設計はじつに難しいのだ。