「かつて天才だった俺たちへ」のMVに注目が集まる

 MCバトル「ULTIMATE MC BATTLE」で2012-2014年と3連覇を果たした日本一のラッパー・R-指定と、「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019」で優勝した世界一のDJ・DJ松永の2人からなる人気ヒップホップユニット、「Creepy Nuts(クリーピーナッツ)」。



 今月には日本武道館でのワンマンライブを成功させるなど、音楽活動はもちろんのこと、ラジオやバラエティ、ドラマなど多方面で活躍している(WEB CARTOP 中の人のおすすめはラジオ番組「Creepy Nutsのオールナイトニッポン0」だ)。



 そんな彼らが今年リリースした楽曲、「かつて天才だった俺たちへ」のMVがファンやクルマ好きから注目を集めている。

先代プリウスがドリフトをしながら、彼らの周りを駆け回っているのだ(まだ見ていない人はYouTube公式チャンネルをチェックしてみてほしい!)。



 エコカーがワイルドな走りを見せる様はインパクト大だが、ノーマルのプリウスでドリフトをすることは可能なのだろうか? レーシングドライバー兼モータージャーナリストの中谷明彦さんに解説をお願いした!



ドリフトはD1やワイルドスピードの流行によって広まった!

ドリフトとは、もともとは船舶や航空機で用いられているワードだ。船なら潮の流れに乗って進行方向とは別に横に流されて行く状態を指し、航空機なら横風気流に乗って横方向にスライドしている状態だ。それがクルマの走行状態にも用いられるようになった。モータースポーツでは悪路のラリーシーンでクルマがスライドし、カウンターステアを当てながら走るシーンや、サーキットレースでも駆動後輪をパワーで滑らせ、カウンターステアを当てて走るのが当たり前だった。クルマが横方向にもスライドして走る姿から「カニ走り」と表されることもあった。



ドリフトが一般的に広まったのは、競技としてのD1が流行ったことや、映画「ワイルドスピード」などでドリフト走行シーンが派手に取り上げられたことで世界的なブームとなったのだ。ドリフト走行シーンは逆ハンドルのカウンターステアを当てて、派手なタイヤスモークを上げながら走るので、見る人に強く印象付けられる。



FF車の「先代プリウス」のドリフトが衝撃の「Creepy N...の画像はこちら >>



一般的には後輪駆動のハイパワー車でLSDを装着していれば、特別なテクニックを使わなくてもドリフト走行姿勢に持ち込むことができる。しかし、今回話題となっているMVではFF(前輪駆動)でけしてハイパワーとは言えないプリウスがドリフトしているシーンが収録されていることから「どうやっているの?」と不思議に思っているユーザーも多いだろう。



アンダーパワーのFFでもドリフト出来るの? その答えは「イエス」であり「ノー」でもある。



FR化するほどの大改造は施されていないと考えられる

イエスの部分はテールスライドさせてカウンターステアを当てるというシーン。FFといえども4つのタイヤが地面をグリップして走行している意味では後輪駆動と同じだ。

その前後のバランスを意図的に崩し、前輪の旋回力(CFf・フロントコーナリングフォース)>後輪のグリップ力(CFr)となればテールスライドが誘発されカウンターステアを当てる必要が生じる姿勢に持ち込める。



映像を確認すると、路面に水が撒かれていてミューを調整している。低ミュー路に高速で進入し前輪は乾いた路面を選んでステアリングを切れば車体にヨーモーメントが発生し、スピンモードに入る。それをカウンターステアで抑えていれば、一見ドリフト走行しているように見えることになる。だがこの状態を長く続けることはできず、後輪がグリップを回復すればヨーが収まりスピンモードから回復し安定姿勢になるだろう。



FF車の「先代プリウス」のドリフトが衝撃の「Creepy Nuts」のMV! CGじゃなく本当に可能かレーシングドライバーが分析



そもそもプリウスにはスピンモードを自動で回避できる電子制御のVSC(ビークルスタビリティコントロール)が装着されているので、スピンモードに持ち込むにはVSCを解除しなければならない。プリウスのVSCはスイッチで簡単に解除できるものではないので、専門家の協力を得る必要があっただろう。



また何らかの仕様変更や改造、チューニングが加えられている可能性もある。簡単な方法としては前輪にハイグリップタイヤを履き、後輪にはグリップの低い低燃費タイヤなどを装着することだ。これでCFf>CFrのバランスにすることができ、スピンモードに入りやすい状態にすることができる。さらにサイドブレーキを手動の後輪ブレーキ化し、ブレーキターンの状態からドリフト姿勢に持ち込んだり、後輪のトーをトーアウトに調整するのも有効と言える。



FF車の「先代プリウス」のドリフトが衝撃の「Creepy Nuts」のMV! CGじゃなく本当に可能かレーシングドライバーが分析



以前、D1競技に参加していたチーム・オレンジは4WDのランサー・エボリューションのフロントドライブシャフトを外してトランスファーをロックし、後輪駆動に仕上げてドリフト走行可能な後輪駆動のマシンに仕上げていた。

映画「ワイルドスピード」でもその技術が採用されていたと思う。



今回のプリウスには、後輪駆動化するほどの大改造は施されていないだろう。それは後輪がパワーで空転しているような状態が確認できなかったことから推察できる。また360度のドリフトターンは収録されておらず、ドリフト走行区間が90~180度前後であることからCFf>CFrを可能とする程度の調整で収録していると思われる。



FFのプリウスで後輪からタイヤスモークを撒き上げるような派手なパワースライドによるドリフト走行は不可能だが、ドリフト走行しているかのようなシーンの撮影は可能ということだ。

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