点火プラグ先端を小さな容積で覆った構造を指す
HKSが東京オートサロン2021に代わりに実施した、「HKSプレミアムサロン オンライン2021」で、旧車に最新の技術、未来の技術を取り入れたヘリテージパーツの開発が発表された。その第一弾が『RB26アドバンスドヘリテージ』。
「出力と燃費を高次元で両立したRB26エンジンの開発」がコンセプトで、目指すは“600馬力で燃費20km/L(WLTC)”という驚きのスペック。
それを実現させるテクノロジーとして、
・プレチャンバ
・デュアルプレアムインテーク
・バーチカルターボチャージャー
・デュアルインジェクション
といった最新技術が紹介されている。
このなかでとくに注目したいのが、「プレチャンバ」。
プレチャンバとは、点火プラグ先端を比較的小さな容積で覆った構造のこと。簡単にいうと主燃焼室の一部にもうひとつ小さな副室(=プレチャンバ)を設け、まずこのプレチャンバで混合気に点火し、プレチャンバ先端の複数のオリフィスからジェット火炎を噴出させて、主燃焼室(メインチャンバ)の混合気を燃焼させるという仕組み。
プラグのように火花で着火するのではなく、ジェット火炎を点火源にすることで、薄い混合気でも確実に燃やせるようになり、超希薄燃焼を可能にする。
それだけでなく、燃焼期間は一般的なイグニッション点火に比べ、約半分に短縮され、ノック限界が向上し、燃焼効率もアップする。また、燃焼安定性も格段に上がり、薄い混合気にもかかわらず短時間できれいに燃焼するので、排気ガスもクリーンになる。
まるでホンダCVCCの再生のようだ
ホンダが1972年に発表した、世界ではじめてマスキー法をクリアしたクリーンエア エンジン、CVCC(複合渦流調速燃焼)も、副燃焼室式だったのは覚えているだろうか?

その後、触媒の技術の向上で、しばし表舞台から消えていた技術だが、2014年にF1のパワーユニットが1.6リッターV6ハイブリッドターボエンジンになった際、メルセデスAMGがプレチャンバを採用。その後、フェラーリ、ルノー、ホンダと、F1マシンのすべてのパワーユニットがプレチャンバを取り入れた。WECやスーパーGTのGT500のエンジン=NREにもプレチャンバの技術は投入されている。
量産車では、マセラティが2020年に発表した新型スポーツカー「MC20」に搭載した、3.0リッターV6エンジン=「ネットゥーノ」(ネプチューンの意)がプレチャンバを採用したと公表。

F1に燃料流量規制が導入され、限られた燃料からパワーを引き出すために各メーカーがこぞって採用したプレチャンバ。
600馬力で20km/Lの燃費をRB26エンジンで実現するための切り札になるテクノロジーといえるだろう。

余談だが、CVCCエンジンを搭載した初代シビックは、主燃焼室と副燃焼室にそれぞれ別のキャブレターを取り付けて、有害物質のHC(炭化水素)を減らすのに成功しているが、HKSは『RB26アドバンスドヘリテージ』で、「デュアルインジェクション」を採用。これは各気筒ごとではなく、各ポート(各吸気バルブ)に独立したインジェクターを設け、噴霧の微粒化を可能にし、エンジンレスポンスのアップと有害物質の排出を抑制するというもの。約50年前のCVCCの技術が、大幅にブラッシュアップされ、蘇ってきたようにも思えてくる。