「おかわりしたい!」と思わせるようなホンダアクセス渾身の1台!
フィットのチューニングコンプリートモデルであるモデューロXが6月に登場した。今回はその実力を一般道から高速道路、そして群馬サイクルスポーツセンターにおけるスポーツ走行まで通じて、その良さをじっくりと体験してみる。
そもそもこのモデューロXというブランドは一貫したコンセプトが貫かれている。
それを色濃く表しているのが開発体制で、アドバイザーに土屋圭市さんを迎えて開発陣全員で北海道鷹栖のホンダテストコースや、今回走る和製ニュルブルクリンクと称される群馬サイクルスポーツセンターを走り込みセッティングが行われている。エアロは削っては走り、削り過ぎたとなればまたそこを手直しして再び走るということも行ってきたという。足まわりやホイールに対しても同じようにトライ&エラーを繰り返したというから興味深い。

実車を見てみると、前後バンパーが基準モデルとは明らかに違う形状をしているバンパースポイラーであることが理解できる。車体下部を覗けばエアロスロープやエアロボトムフィンといった拘りの形状が施されている。エアロスロープは跳び箱のようなスロープ形状のものが中央部に備えられており、その中央にはフィンが与えられている。これにより車体中央部に速い空気の流れを生み、直進安定性に寄与するというもの。

エアロボトムフィンは、両サイドのタイヤの前に存在する細かい突起物が連続したものだが、これはホイールハウス内を通る空気の流れをスムースにして、内圧を低減。旋回時に上質なステアフィールを生むという狙いがあるそうだ。

また下部にはエアロフィンをタイヤの前に置き、小舵角時にタイヤが側面へ飛び出した時に、タイヤ周辺に乱流を与えないという考えが盛り込まれている。さらにヘッドライト下の立体感あるラインや、フード先端も空気を跳ね上がるように改められるなど、基準車と見比べるとかなり違うラインを描いている。
一方でリヤ側も専用テールゲートスポイラーとバンパーが備わる。スポイラーは長さや角度を変更。リヤバンパーはコーナーにエッジを効かせて乱流を断ち切るような形状となっているほか、センター下部はディフューザー形状となり車体下部に流れる空気の流速を高めることで安定性を得ようとしているところがポイントだ。基準車は前ばかりが下がり、リヤが低速域から浮き上がって行く傾向だが、モデューロXでは前後のリフト量は高速域までほぼ等しくなったという。

改良されたのは空力だけではない。足まわりは専用のダンパーチューニングが行われている。以前はスプリングもセットで変更するパターンだったが、今回はダンパーだけでどこまで変化が見られるのかが注目だ。フリクションの低減、リニアな減衰特性に拘ったというバルブも見どころ。

また、専用のアルミホイールを採用し、ベースとなるLUXEに対して1本あたり2.9kgもの軽量化を実現したホイールにも注目だ。

このホイールは剛性バランスにも気を配り、ホイールのしなりをコントロールすることで、タイヤの接地面圧を高めているという触れ込みも気になるところだ。
乗って実感! これはホンモノのコンパクトスポーツだ
モデューロXの良さを体験するために、まずは都内から埼玉までLUXEに乗って、ノーマルの乗り味を体感。その後、モデューロXに乗り換えるという行程で試乗をスタートした。

乗り換えてまず感じたことは、高速道路におけるフラットな乗り味だった。前後のタイヤ&ホイールのバタつきを一切感じることなく、車体がフラットに保たれるクルージングはかなり快適に仕上がっている印象で、基準車で振られていた身体の動きが収まっていると感じる。チューニングモデルにありがちなキビキビすぎる印象はなく、上質な乗り味を実現できているところは有難い。

言い方は悪いが「これがフィット?」と呟いたくらいだ。ただ、路面が荒れた状況だとリヤ側がワンダリングを受けてヨロっとするシーンが若干見えた。ベースモデルでもその傾向はあったが、モデューロXはほかが良すぎる分、少しそこがクローズアップして見えてしまった。おそらくトーションビーム付け根などのブッシュなどが動いているのだろうが、ベースが持つクセが際立ってしまったのはもったいないようにも感じる。

高速道路から一般道へ入り、速度レンジが低いところを走って行くと、ダンパーが引き締められたところが良くも悪くも感じられる。フラットな乗り味は相変わらずといった感覚だが、対して若干硬さが感じられる部分があることも事実だ。入力に対して収束は素早いために、ドライバーとしては気にならないレベル。
だが、試乗会に参加していた何人かはその硬さを指摘していた。スポーツモデルにしては十分すぎる乗り心地だと思うのだが……。すべてを満たすのであれば、可変ダンパーなどの投入しか方法はないだろうが、そうなればコストが跳ね上がる。フィットというクルマの価格と特性を考えれば、これでも十分に許容できるレベルだと個人的には感じるが、ファミリーカーとして考えれば許せない人もいるのだろう。

さて、最後はメインイベントとなる群馬サイクルスポーツセンターにおける全開走行だ。試乗当日は雨と霧でコースが覆われているという悪条件だったが、果たしてどうか? ここでもまずはノーマルから走り始め、その後モデューロXに乗り換えるというプログラムである。まずはLUXEから走ると、気になるのは対角ロールがとにかく大きいことだった。路面のアンジュレーションが激しく、しかも速度レンジが高いために、ダンピングしきれずボディがゆらゆらとしがちなノーマルモデル。狙ったラインをトレースしずらく、ハイブリッドならではの一発のトルクが発生すると、一気にリヤが沈み込んでしまうことが操りにくくさせている。あくまで安定方向の動きではあるが、アプローチを間違えば谷底へとなりそうな危うい雰囲気が漂っていた。

だが、モデューロXは走り出しから安心感がかなり高い! 無駄なボディの動きが排除され、微小操舵角からクルマ全体が応答して行くことで、低μ路であっても狙ったラインをトレースしやすいのだ。

現状の仕上がりはかなり好感触。ただし、ここまでシャシーや空力が良くなってくるとパワーがもう少し欲しくなってくるのも事実。筆者は現行フィットのハイブリッドでレースに参戦し、そこではパワーユニットの制御変更によって更なるハイブリッドの面白さを知った。同じユニットでも制御の仕方によっては一発のトルクは数段上がるのだ。

あの乗り味とモデューロXが組み合わされたのなら……。次なるマイナーチェンジでは、ハイブリッドの改良にも着手して欲しい。そんなことを思わせるほど、現状のモデューロXの煮詰まり具合は最高だった。