この記事をまとめると
■スズキのクルマが安いのは行動理念のひとつである「美」が関係していた■スペーシアはスズキらしい作り込みにより価格を抑えている
■登録車のコスパの高さも他メーカーよりも総じて優秀だ
スズキの新車価格が安いのには理由があった!
自動車メーカーには、それぞれブランドイメージがある。多くのケースで、独自技術やモータースポーツ活動に由来するものだ。そのなかで、スズキには「とにかくクルマを安く仕上げる」という印象があるようだ。
はたして、スズキがコストパフォーマンス(以下、コスパ)に優れたクルマをリリースしているというイメージは事実なのだろうか、事実だとすればその理由はどこにあるのだろうか?
そのヒントとして注目したいのが、スズキの行動理念として一番に挙げている「小・少・軽・短・美」という言葉だ。
もともとは生産現場における、ムダを省いた効率的で高品質なものづくりの基本方針から生まれたという言葉で、「小さく」「少なく」「軽く」「短く」「美しく」をつなげたものだという。
スズキのホームページから引用すると、それぞれの漢字には以下の意味合いが込められている。とくにポイントとなるのは、「小・少・軽・短・美」の最後にあり、もっとも大事な要素である「美」であろう。
「小」はコンパクトにまとめる方が効率アップにつながり、
「少」はムダを省き必要なことには適切に資源を配分し、
「軽」は効率アップのためにスリム化を図り、
「短」は意思決定と実行や報連相をスピードアップするという意味があります。
「美」にはすべての活動がお客様のためにあるという意味が込められており、性能、品質、コスト、信頼、安全・安心、コンプライアンス、すべてを満たして初めてお客様満足が得られるという考えにつながっています。
ともすれば、素人目線では「安く作ればコスパがよくなる」と思いがちだが、「安かろう悪かろう」では満足度が低くなってしまい、結果的に「安物買いの銭失い」になりかねない。それではユーザーが満足できないのは自明。コスパの評価をする以前に、単にランクが低い工業製品となってしまう。
しかしながら、最近のスズキ車が受けている高い評価からすれば、自動車として満足いくものながら期待値より安価に仕上がっているという、真の意味でリーズナブルな工業製品が生み出されているのはご存じのとおりだ。
細かく見ていくとスズキの企業努力が見えてくる
たとえば、日本一売れているクルマの座をホンダN-BOXと競い合っているスペーシアの設計や作り込みを見れば、結果的に「コスパがよい」と感じさせる、スズキならではのアプローチが見えてくる。
せっかくなのでスペーシアギアとN-BOXジョイというSUVテイストの2台から、最上級グレードの2トーンボディのターボ車(FF)をピックアップして比べてみよう。
メーカー希望小売価格は、スペーシアギアが209万7700円、N-BOXジョイは212万7400円となっている。わずかな価格差だが、N-BOXジョイは純エンジン車だが、スペーシアギアは、小さいながらリチウムイオン電池を搭載したマイルドハイブリッド仕様なので、そこを加味するとかなり割安といえる。WLTCモード燃費はスペーシアギアが21.9km/Lで、N-BOXジョイは20.2km/L。わずかな差ではあるが、ハイブリッドの効果は数字にも表れている。
タイヤサイズはどちらも14インチながら、スペーシアギアはアルミホイールを標準装備。N-BOXジョイも凝ったスチールホイールなので豪華さでは互角といえるかもしれないが、ここでもスペーシアギアのコスパのよさは際立つ。
両モデルとも渋滞対応ACCや電動パーキングブレーキを標準装備しているが、スペーシアギアは単眼カメラとミリ波レーダーを併用するシステムで、N-BOXジョイは広角カメラだけを使うタイプ。センサー数が多いほうがエライというわけではないが、スズキがセンサーをケチって安く仕上げているわけではないことがわかる。
ただし、細かい部分を見ていくと、スズキらしい工夫がみられる。その最たる例がメーターだ。両車ともフルデジタルメーターだが、スペーシアギアは3桁のデジタル表示の速度計+4.2インチ・カラーマルチインフォメーションディスプレイを組み合わせている。一方、N-BOXジョイは7インチのカラーディスプレイによるフルデジタル仕様。
こうした細かい部分での工夫を知れば、スズキの「コスパのよいクルマづくり」を支えていることが理解できるのではないだろうか。
さらにいえば、スペーシアギアには後席オットマンモードなどを実現するマルチユースフラップや、キャビンの空気を循環させて空調効果を高めるスリムサーキュレーターといった快適機能も標準装備されている。まさにスズキの高コスパを実感できる好例といえる。
ただし、スズキのラインアップからコスパのよいクルマを探そうと思ったときに軽自動車ばかりに注目する必要はない。古くは「泣く子も黙る79万円」という語呂合わせ的キャッチコピーで一世を風靡したスイフトSE-Zのように、登録車にもスズキの「小・少・軽・短・美」なクルマづくりが実感できるモデルが多く存在してきている。
現行ラインアップでいえば、1.2リッターエンジンを積んだ後席スライドドア車ながらスターティングプライスが164万7800円という「ソリオ」が、スズキらしい高コスパカーの代表といえるだろう。また、「スイフトスポーツ」についても、そのパフォーマンスと価格のバランスから圧倒的な高コスパ系スポーツカーとして知られている。
いずれもモデルチェンジがウワサされているが、次期型に進化してもスズキらしいコスパのよさは守られるだろう。それこそがスズキの高コスパというブランドイメージを守るために最重要になるからだ。