郵便配達“専用”だからスゴかった 初代「MD」

家の外から聞こえてくる「トコトコ、コトコト」というバイクの音。その音が途切れるやいなや、家のチャイムが鳴り、郵便局職員が速達などの郵便物を直接届けてくれます。

受け取ると、バイクは再び「トコトコ、コトコト」とかわいらしい音を立てながら去っていきますが、真っ赤な外見がなんとも愛らしく、肝心の郵便物そっちのけで、バイクの姿が見えなくなるまで眺めていたものです。

【超カッコいい…!】これが真っ赤な「郵政カブ」の歴史だ!(写真)

 この真っ赤なバイクこそが、昭和・平成・令和の郵便を支えた、いわゆる「郵政カブ」です。日本の日常風景に溶け込むバイクとしては、筆頭の1台といえるでしょう。

 1960年代、すでにホンダはスーパーカブをベースとした「郵政省向け特別仕様車」を開発し、郵政省(当時)に納めていました。しかし、当時の郵便配達業務は自転車やスクーターが主流で、後のMD(メールデリバリー)シリーズほど目にする機会はありませんでした。

 しかし1970年代前後、日本の高度経済成長に伴う郵便物取扱量の増加に合わせて、自転車やスクーターよりも耐久性・信頼性を持つ配達専用バイクが求められるようになります。これを受けて、当時の郵政省はホンダ、ヤマハスズキ各社に「郵便配達専用モデル」の開発を打診しました。こうして、従来のスーパーカブシリーズとは異なる、完全な「郵便配達専用モデル」として、スーパーカブデリバリーMD90が1971(昭和46)年に誕生したのです。

 1960年代にホンダが郵政省に納めていた「郵政省向け特別仕様車」は、スーパーカブをベースにしながらも、大型キャリアの装備やヘッドライトのハイマウント化といった変更にとどまっていました。

 しかし、この時代の「郵便配達専用モデル」は、他社モデルも合わせて納入される状況だったこともあり、エンジンこそ90ccのカブをベースにしながらも、ホンダはほぼ「作り下ろし」でMDの開発に取り組みました。

 具体的には、テレスコピック式のフロントフォーク、鞄をワンタッチで掛けられるフロントキャリア、バーハンドル、横スライド式のフラッシャースイッチなど、従来のスーパーカブにはない仕様を実現。ヤマハの「メイト」やスズキの「バーディー」をベースとした競合モデルが既存車種の改造だったのに対し、ホンダのMDは「唯一の専用設計車」として郵政省内で最も重宝されました。

時代とともに進化、そして迫りくる「電動の波」

 そして、初代MD90登場の翌年、1972(昭和47)年にはタイヤ径を14インチとしたモデルが完成し、さらに翌1973(昭和48)年には50ccと70ccモデルを追加。1986(昭和61)年頃まで、これら3車種が郵便配達で使われることになりました。

「郵政カブ」もはや風前の灯火か!? 日常に溶け込みすぎた“超...の画像はこちら >>

2019年の初納入以降、「郵政カブ」から転換されつつあるBENLY e:PROの「郵便配達専用モデル」(画像:ホンダ)。

 1986年には、6Vだった電装系が12Vへとブラッシュアップされます。1999(平成11)年にはMD70が廃盤となり、50ccと90ccの2モデルが以降長らく活躍することになります。また、2009(平成21)年にはスーパーカブシリーズ全体のインジェクション化に伴い一時的に生産が縮小されますが、2010(平成22)年にはフルモデルチェンジを果たしました。

 以降、50ccと110ccの2車種が「郵便配達専用モデル」として採用されることとなり、従来モデルは2012年に生産終了に至ります。以降の「郵便配達専用モデル」は、新聞配達など向けに開発されたスーパーカブProシリーズがベースで、初代MDほどの専用設計ではない点が、ファンにとっては少々残念にも感じられるところです。ただし、配達現場での活躍ぶりは初代同様で、今日に至るまで採用され続けています。

 他方、2019(令和元)年からは電動スクーター「BENLY e:PRO」が「郵便配達専用モデル」として採用され始め、今日まで少しずつガソリン車のMDからの転換が進んでいます。

 これはMDやスーパーカブProベースの「郵政カブ」と違ってギアチェンジがなく、音や振動も少なく、さらにシート高が低いステップスルー式のため、郵便局内でも「バイクに不慣れな職員でも扱いやすい」と高評価を受けているようです。

 近い将来、ガソリン車の「郵政カブ」は完全に姿を消すことになりそうですが、昭和・平成・令和にわたって活躍し、冒頭で触れたような「日常風景」でもあった存在が消滅するのは、やはり残念に思います。

 「せめて中古車で購入して手元に置いておきたい」と筆者は考えてしまいますが、ひと昔前の比較的ゆるやかな時代には中古車市場に「郵政カブ」が出回ることもあったものの、現在は払い下げ業者が一括購入するケースが大半で、入手はかなり困難です。やはり「郵政カブ」をリアルで目にする時間は、残りわずかのようです。

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