3月の米CPIが前年比3.3%上昇と、2月の2.4%から大きく伸びを拡大させました。中東情勢悪化によるエネルギー価格の上昇が背景です。
米国CPI上振れでインフレ懸念再燃か
米労働省労働統計局(BLS)が10日に発表した3月の米消費者物価指数(CPI)は、総合指数が前年比3.3%上昇と、2月の2.4%からプラス幅を大きく拡大させました(図表1)。米国とイスラエルによるイラン攻撃でガソリン価格が高騰したことが背景にあります。食品とエネルギー除くベースでは前年比2.6%上昇と、2月の2.5%から小幅の拡大にとどまりました。
<図表1 米国の消費者物価指数(前年比)>
背景については、分野別に季節調整済みの前月比を見れば明確です(図表2)。食品とエネルギーを除く「財」が前月比0.1%、「サービス」が同0.2%と小幅な伸びに止まったのに対し、「エネルギー」は10.9%と、全体の伸びの約4分の3を占めました。
<図表2 3月の米消費者物価指数(前月比)>
11日にパキスタンの首都イスラマバードで開催された、米国とイランによる戦闘終結に向けた協議が物別れに終わり、12日にはトランプ米大統領がホルムズ海峡への船舶の出入りを封鎖すると表明するなど、再び原油相場高騰によるインフレ懸念が再燃する気配を見せています。
両国は立場の大きな隔たりを認めつつも、交渉継続に含みをもたせており、米国時間の7日に合意した停戦期限の22日までに何らかの動きが出る可能性はあります。しかし、原油相場が再び騰勢を取り戻し、インフレ懸念が再燃するようなことになれば、米連邦準備制度理事会(FRB)の次の政策変更は、利下げではなく、利上げになる可能性があります。
その分かれ目が何なのか、どのようなポイントを注意して見ておけば良いのか。以下では、インフレが特定の分野に止まらず、広範なインフレ(Broad-based inflation)になるかどうかが重要であることを、改めて指摘しておきたいと思います。
利下げか利上げか、その分かれ目は広範なインフレになるかどうか
上のBroad-based inflationの「broad」という言葉は、FRBの米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文や議事要旨などでよく見かける単語ですが、特に2022年から2023年にかけて実施された利上げの際に頻繁に使われました。その含意は、当時と2008年を比較するとよく分かります。
図表3は、左が2008年前後、右が2020年以降のCPI前年比を分野別に見たものです。これを見ると、エネルギー価格の高騰という共通点のある2008年と2022年で、エネルギー以外の分野の動きに歴然とした違いがあることが分かります。
<図表3 広範なインフレ(Broad-based inflation)かどうか>
すなわち、新興国ブームによって原油相場が高騰した2008年は、他の分野の価格がエネルギー価格の影響をほとんど受けていない一方で、2022年から2023年にかけては、新型コロナウイルスによるパンデミック後の過剰流動性と、サプライチェーン混乱による供給制約が重なり、財からサービスまで広範に(broadly)価格が上昇しました。
人々のインフレ予想が高まったからこうなったのか、こうなったからインフレ予想が高まったのかは詳しく検証する必要がありますが、いずれにせよ2022年から2023年にかけての状況は、FRBがビハインドザカーブ(利上げが後手に回ること)に陥ったとみることができ、利上げを急がざるを得なかったのも理解できます。
このように、広範なインフレ(Broad-based inflation)になるかどうかが重要なポイントであり、図表2で示したとおり、現在はまだそこまでの状況ではないとみることができます。ただ、そのリスクが燻(くすぶ)っているのも事実で、景気鈍化懸念とあわせ、市場はFRBの次のアクションが利下げなのか利上げなのか、諮りかねている状況です。
金利先物が織り込む利下げ・利上げ確率を見ると(図表4)、この先3回のFOMCは9割以上現状維持で、利下げと利上げは低い確率で拮抗(きっこう)しています。
<図表4 金利先物が織り込むFRBの利上げ・利下げ確率>
補助金でインフレ懸念を覆い隠す日本政府
日本でも、川上・川中物価のエネルギー価格が3月に高騰しています。
まず、川上の物価である輸入物価(円ベース)を見ると(図表5)、総平均が前月比3.3%上昇と、2月の0.1%からプラス幅を大きく拡大させました。中でも「石油・石炭・天然ガス」が7.8%上昇と大幅に伸び、全体を押し上げました。
<図表5 日本の輸入物価(円ベース)>
これを受けて川中物価である国内企業物価も(図表6)、総平均が前月比0.8%上昇と、2月の0.1%からプラス幅を拡大させ、「石油・石炭製品」が7.7%の大幅上昇となりました。
<図表6 国内企業物価>
では、川下の消費者物価はどうなのかというと、現在3月のデータが確認できる東京都区部の消費者物価は(図表7)、エネルギーを含む総合指数の前月比(季節調整済)が0.1%上昇と、落ち着いた状態が続いています。
<図表7 東京都区部消費者物価指数>
ちなみに、エネルギー価格の前月比(原系列)は2.4%とわずかな上昇にとどまりましたが、4月は、「中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置」によって、いわゆるガソリン補助金が3月19日から増額されたことを受けて、前月比マイナスになることが予想されます。
このように、財政支出によってガソリンなどの小売価格を直接抑制するというのが、日本政府が講じている物価対策の姿です。需要抑制効果がないとか、ガソリンを使用する国民の海外への所得移転を、ガソリンを使わない国民が肩代わりしているといった問題はさておき、今のところ広範なインフレに発展する気配はうかがわれていません。
日銀の植田総裁、サプライチェーンへの影響を懸念~遠のく4月利上げ~
むしろ日本銀行の植田和男総裁は、中東情勢の深刻化がサプライチェーンに及ぼす影響を気にし始めています。
13日に行われた第101回信託大会で総裁は、「資源輸入国であるわが国にとって、原油価格の上昇は、交易条件の悪化を通じて景気を下押しする要因となるほか、中東情勢の緊迫が長期化した場合には、サプライチェーンへの影響を通じて、企業の生産活動に下押し圧力がかかるリスクもあります」と、サプライチェーンに対する懸念を初めて口にしました。
これを受け、60%以上だった翌日物金利スワップ(OIS)市場が織り込む4月利上げの確率は、30%程度まで低下しています。
筆者は4月1日のレポート「日銀の3月『主な意見』が織り込めていない中東情勢を巡る深刻なリスク」)で、サプライチェーンに及ぼす影響が懸念されるため利上げは待つべきだと指摘しました。そんなこともあり、総裁の発言には全く違和感がありません。4月支店長会議による情報収集を経て、そうした意識が日銀内で強まったのだとみています。
2026年4月1日: 日銀「主な意見」が織り込めていない中東情勢を巡る深刻なリスク(愛宕伸康)
従って、4月に利上げがあるかどうかは、植田総裁が述べるとおり、「中東情勢がなお不透明な状況にあることを踏まえ、その帰趨や、それが経済・物価・金融情勢に及ぼす影響を注視しつつ」、判断されることになるのでしょう。4月利上げの可能性は確実に低下したとみています。
10年金利2.5%は単なる通過点?
4月利上げの織り込みが低下しても、長期金利の上昇ペースは勢いを増しています(図表8)。イラン革命防衛隊がホルムズ海峡封鎖を宣言したのが3月2日。そのとき2.088%だった日本の10年金利は、インフレ懸念の高まりを受けて4月13日現在、38bp(ベーシスポイント、1bp=0.01%)高い2.467%を付けました。
<図表8 日米10年金利>
ちなみに、1月7日のレポート「2026年1月、日本自動車エンジン始動!~日銀の利上げと長期金利~」で紹介した10年金利の推計式を使って、現在の10年金利の水準が理論的に説明可能か調べてみました。
2026年1月7日: 2026年1月、日本自動車エンジン始動!~日銀の利上げと長期金利~(愛宕伸康)
その推計式とは、政策金利(コールレート・オーバーナイト物)、景気動向指数、消費者物価上昇率、日銀の国債買入額、日銀の長期国債保有残高、民間の長期国債保有残高を説明変数としたもので、国債の需給バランスが悪化すると10年金利が上昇するよう説明変数に工夫を加えています。
図表9が、その推計結果を利用して外挿推計した2026年の予測値(図中の点線)と、10年金利の実績値を比較したものになります。外挿推計の前提として、(1)景気が緩やかな回復傾向を続ける、(2)消費者物価上昇率が2%に向けて縮小していく、(3)政策金利が2026年4月と12月に0.25%ずつ引き上げられる、(4)日銀の国債買い入れは日銀の計画通り減額される、と仮定しました。
<図表9 日本の10年金利の推計値と実績値>
これを見ると、4月13日の10年金利は図表8にも示した2.467%ですが、予測値とほぼ重なっていることが確認できます。つまり、2.5%近辺まで上昇してきた10年金利の現在の水準は、単なる通過点に過ぎないことを示唆しています。
中東情勢悪化でさらにインフレリスクが高まれば、推計値より高い水準にオーバーシュートする可能性があるということを、意識しておくべきかもしれません。
(愛宕 伸康)

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