―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

「老けた」と感じる瞬間は、誰にでも訪れる。鏡に映るほうれい線、増える白髪……そうした悩みを抱える48歳男性から一通の相談が届く。
「白髪をピンセットで抜いてしまう」――老化に抗う男性の悩みに、”外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報・外交のプロ・佐藤優が、自身の体験もふまえて答える!

もう中年ですが、これ以上老けたくない

白髪をピンセットで抜く48歳男性に伝えたいこと…アンチエイジ...の画像はこちら >>
★相談者★きなこ(ペンネーム) パート 48歳 男性

 僕は年齢ではもう中年のおじさんですが、どうも周囲よりすごく年を取りたくないという思いが強いです。だいぶ老けてきて、ほうれい線が目立ってきたことが嫌で嫌で仕方がありません。白髪もだいぶ増えてきて、よくピンセットで抜いています。これからもっともっと老化によるものが見えてきます。この気持ちをどうやり過ごせばいいですか?

佐藤優の回答

 私の周辺でも老化を嫌がり、アンチエイジングに毎年、数百万円をかけている人もいます。70代ですが、見た目は50代です。しかし、思考や発想は70代のままです。心の年齢と体の衰えはバランスが取れていたほうがいいように思えます。ドイツの文豪ゲーテの『ファウスト』は若返りがテーマです。あらゆる学術に通暁し、蓄財もしたファウスト博士は、若返り、青春を謳歌したくなります。そして死後の魂を悪魔に売って、魔女が作った若返りの汁を飲みます。

〈ファウスト こういう馬鹿げた魔法仕掛けは真っ平だ。/この狂気の沙汰の中で己の気を晴らしてみせると君は請け合おうというのかね。
/己がばばあの教えを乞うのか。/そして、この汚ならしい料理が、己を三十歳も若返らせてくれるのか。/君に知恵がないのには呆れるね。/まず万事望み薄だ。/自然や偉い哲人が、これまでに何か霊薬を見つけ出しておいてくれなかったものだろうか。〉(『ファウスト(一)』174~175頁)

 ファウストは若返り、マルガレーテという恋人ができます。しかし、ファウストとの子を孕んだマルガレーテは心身に変調を来し、子を殺し、逮捕され、死刑になります。この例からわかるように自然の流れである老化には逆らわないほうがいいと私は考えています。あなたも老化を意識しないほうが幸せになると思います。

 確かに老化にはツラい面があります。私の事情について話します。11月25日から目の調子がよくありません。
物が二重に見え、世界が歪んでしまいます。複視という症状です。翌26日になって、症状が重くなったので、近所の眼科に行きました。網膜剥離の場合も症状として複視が出ることがあります。この場合、放置しておくと比較的短期間で失明するおそれがあります。

 検査の結果、視力も落ちておらず、網膜剥離や眼底出血もなく、眼圧も正常なので、恐らく眼精疲労だろうということでした。この日の夜、私は池袋で「トランプ時代のインテリジェンス」という講義をしていましたが、途中で教室の天井や床がねじ曲がって、シュールレアリズムの絵のような景色が浮かんできました。原因が目ではなく脳ではないかと思い、かかりつけの病院でMRIの検査をしてもらいました。当直医からは「脳梗塞や動脈硬化の症状は見られませんが、僕は専門が内科なので、さらに眼科、脳神経内科、神経内科の専門医に診てもらったほうがいいでしょう」ということでした。これから検査が続きますが、前向きに生きていこうと思います。

★今週の教訓…… 検査が続く日々を私は前向きに生きています

白髪をピンセットで抜く48歳男性に伝えたいこと…アンチエイジングに数百万かけても変わらないもの/佐藤優
世界の根源を究めようとするファウスト博士の前に悪魔が現れ、若返りの秘薬を飲ませると……。60年の歳月をかけて完成された大作の第一部。’10年刊
※今週の参考文献 『ファウスト(一)』(ゲーテ〔高橋義孝訳〕 新潮文庫)

―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。
在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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