誰もが口にする食材が原因不明の不調を引き起こすことがある。内科医の本間良子さんは「小麦の過剰摂取により腸の細胞の間が開きっぱなしになり、毒素をどんどん体内に取り込んでしまう」という――。
(第1回)
※本稿は、本間良子『小麦抜きのすすめ』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■小麦を食べ続けると腸壁に穴が空く
みなさんは、「リーキーガット」という言葉を聞いたことがありますか?
英語でガットは「腸」、リーキーは「漏れる」を意味します。つまり、日本語に訳すと「腸漏れ」。最近では、英語の情報だけでなく、日本語でも「リーキーガット症候群」とインターネットで検索すれば、多くの情報が得られる状況になってきました。
「腸漏れ」とは、腸の粘膜の細胞が傷ついて炎症を起こし、その細胞と細胞の間に隙間ができることで、腸壁(ちょうへき)にごく微細な穴があいたような状態を指します。
微細といえども、隙間は隙間。腸壁に隙間ができると、そこから腸内にいる細菌や毒素、未消化の食べものなどがどんどん「漏れ出て」しまうのです。
本来は、腸の細胞と細胞の間はしっかりと閉じられており、この状態を「タイトジャンクション」といいます。
ただ、そもそも人間は食べものから必要な栄養素を吸収しなければならないので、腸壁の細胞と細胞の間は開くようにできています。しっかりと栄養を吸収できるように、細胞と細胞の間をオープンにする働きが備わっているのです。
■腸漏れを引き起こす物質「ゾヌリン」
そして、この腸壁の細胞と細胞のつなぎ目の部分をオープンにするのが、「ゾヌリン」と呼ばれる物質。ゾヌリンは、小麦を食べたときに、グルテンを構成するグリアジンによって分泌されます。

ゾヌリンが分泌されると、細胞と細胞の間が開いて、食べもの(栄養素)の吸収がよくなるため、本来はとても重要な働きを持つ物質です。
しかし、ここで小麦が問題を引き起こします。小麦を毎日食べていると、ゾヌリンが大量に分泌され、腸の細胞と細胞の間が開きっぱなしになってしまうのです。
小麦に含まれるグリアジンは、体のいたるところでエラーや炎症を引き起こす「やっかいもの」だと先に書きました。このグリアジンが腸壁の細胞に結合して刺激し、ゾヌリンを分泌し続けるのです。
すると、どうなるでしょうか? まるで鍵をかけずにドアが開けっぱなしの家みたいに、悪い泥棒がそこから次々と入ってきてしまうような状態になります。
つまり、本来ならタイトジャンクションで守られているのに、細胞の間が開きっぱなしのため、毒素や未消化の食べものまで入ってきてしまうのです。
■漏れた毒素が全身を駆け回る
そうして炎症が起きると、ますます腸内環境が乱れて、しかも乱れの原因となる毒素を、どんどん体内に取り込んでしまう悪循環になっていきます。
これが恐ろしい、「腸漏れ症候群」です。
そして、それはまさに、毎日食べている小麦によって引き起こされているのです。
朝はパン、昼はパスタ、夜はシチューといった食事を続けていると、小麦に含まれるグリアジンが腸壁の細胞に結合して、ゾヌリンが分泌され、腸壁の細胞が開きっぱなしになります。そして、異物が体にたくさん入ってきて、炎症が起きてしまう。

すると、「これは大変だ!」と免疫システムが働いて「抗体」(※抗原の侵入を受けた生体がその刺激によって合成するタンパク質の総称)がつくられ、この抗体が異物を攻撃しはじめます。
もちろん、このとき免疫機能が働くことは、とても大切な体の機能。でも、開きっぱなしのドアから次々と入ってくる毒素や異物と戦っていると、過剰な攻撃となって、まわりの腸壁の細胞まで傷つけてしまうのです。
その結果、炎症がますます増えてしまって、アレルギー反応などを引き起こしながら、体を疲労させていきます。
■ゾヌリンは脳のバリアもこじ開ける
しかも、小麦は腸にカビの一種である「カンジダ」を増殖させるため、免疫機能はこれに対しても攻撃しなければなりません。
結果、ますます腸内の粘膜を傷つけてしまって、炎症がひどくなり、副腎疲労のステージが悪化に向けて進んでしまうわけです。
「腸漏れ症候群」が恐ろしいのは、その悪影響が腸にとどまらない点にあります。なぜなら、小麦を食べることで、ゾヌリンが血管を通じて体の中に入っていくと、体内にある、あらゆる細胞と細胞のつながりのある部位を開きやすくしてしまうからです。
ゾヌリンは血流に乗って脳にいたる場合があります。すると、脳には「血液脳関門(のうかんもん)」といわれる、脳の血管に不必要なものを入れないためのバリアがあるのですが、その血液脳関門のつなぎ目にもゾヌリンが作用して、その関門を開きやすくしてしまうのです。
そして、「脳漏れ」といわれる状態になります。小麦を食べ続けていると、「腸漏れ」が「脳漏れ」へと広がっていく状態を招きます。

■脱・小麦で全身の「漏れ」を防ぐ
また、その過程で、体のあらゆる部分に「漏れ」を起こす状態になってしまうことも。
たとえば、皮膚に「漏れ」が起これば、皮膚はつねに炎症を引き起こし、アトピー性皮膚炎などになります。これは、「リーキースキン」と呼ばれます。そして、体内の臓器は血管によってつながっているため、臓器そのものが「漏れ」る状態になる場合もたくさんあるのです。
これらは「リーキーオーガン」(オーガンは臓器の意)と呼ばれ、それこそ肺を専門とする医師のなかには、「リーキーラング」(ラングは肺の意)と呼ぶ人もいます。
ちなみに、私がアメリカで学んだ経験をもとに、「腸漏れ症候群」に警鐘を鳴らしたとき、日本ではまだ研究が進んでおらず、多方面から「そんな病気はない」と否定されました。
しかし、現在では、専門の学会誌にはっきりと「リーキーガット症候群」と病名が出ており、ようやく広く認知されるようになってきました。

(参考文献)

1. グルテンフリーによる抗炎症作用、インスリン抵抗性の改善、減量効果

論文名: Gluten-free diet reduces adiposity, inflammation and insulin resistance associated with the induction of PPAR-alpha and PPAR-gamma expression

掲載誌: J Nutr Biochem 2013 Jun; 24(6):1105-11

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23253599/

2. グルテンフリー・カゼインフリーによる自閉症スコアの改善

論文名: The ScanBrit randomised, controlled, single-blind study of a gluten- and casein-free dietary intervention for children with autism spectrum disorders

掲載誌: Nutr Neurosci 2010 Apr;13(2): 87-100

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20406576/

3. グルテン関連する疾患のカテゴリー グリアジンのアミノ酸配列

論文名: Spectrum of gluten-related disorders: consensus on new nomenclature and classification

掲載誌: BMC Med. 2012 Feb 7: 10: 13

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22313950/

4. 非セリアックのグルテンに関連する疾患

論文名: Non-Celiac Gluten Sensitivity: The New Frontier of Gluten Related Disorders

掲載誌: Nutrients. 2013 Sep 26; 5(10): 3839-3853

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24152744/

5. グルテン不耐症の症状など

論文名: An Italian prospective multicenter survey on patients suspected of having non-celiac gluten sensitivity

掲載誌: BMC Med. 2014 May 23: 12: 85

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24885375/

6. グルテンフリーによる免疫反応

論文名: Effect of gluten free diet on immune response to gliadin in patients with non-celiac gluten sensitivity

掲載誌: BMC Gastroenterol. 2014 Feb 13: 14: 26

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24524388/

7. グルテン関連疾患の分類およびグルテン不耐症に関する臨床症状など

論文名: Non coeliac gluten sensitivity - A new disease with gluten intolerance

著者: Grażyna Czaja-Bulsa

掲載誌: Clin Nutr 2015 Apr; 34(2):189-194

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25245857/

8. 消化器症状、過敏性腸症候群とグルテン不耐症

論文名: US perspective on gluten-related diseases

掲載誌: Clin Exp Gastroenterol. 2014 Jan 24: 7: 25-37

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24493936/

9. アルツハイマー型認知症とグルテン不耐症

論文名: Diet Associated with Inflammation and Alzheimer's Disease

掲載誌: J Alzheimers Dis Rep. 2019 Nov 16; 3(1): 299-309

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31867568/

10. グルテン不耐症の症状、自己免疫疾患などの関連性

論文名: Extra-intestinal manifestations of non-celiac gluten sensitivity: An expanding paradigm

掲載誌: World J Gastroenterol. 2018 Apr 14; 24(14): 1521-1530

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29662290/

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本間 良子(ほんま・りょうこ)

医師、スクエアクリニック院長

米国発達障害児バイオロジカル治療学会フェロー。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大学病院総合診療内科入局。副腎疲労の夫をサポートした経験を活かし、米国で学んだ最先端医療に基づく栄養指導もおこなう。また、日本で唯一、副腎疲労、グルテンフリー外来を開設している。

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(医師、スクエアクリニック院長 本間 良子)

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