学級崩壊という言葉では片づけられない事態が公立校で起こっている。ヨーグルトが飛ぶ。
教師が生徒になめられる。修学旅行すら危うい……。この異変を察知した家庭は、早々に私立へと流れ、逃げ場のない家庭だけが荒れた教育環境に取り残されていく。崩壊末期状態である公立校で、いま何が起きているのか。
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教育現場を襲う異常事態の数々

文科省の最新調査で、小中学校の不登校は約35万人、暴力行為も約12万件と、いずれも過去最多を記録した。追い打ちをかけるように、公立学校では教員の負担が膨らみ、精神疾患による休職者も7000人超の高止まり。こうした教育現場の崩壊は、着実に信じがたい異常事態を招いている。

実際、筆者の暮らす大阪府内でも、その深刻さをうかがわせる出来事が相次いでいる。昨年、中学生が小学生の首を絞め、海に突き落とす、壮絶ないじめ動画が流出するほど極めて深刻な状態にある。公立中学に中1の息子を通わせる母親・井上真紀さん(仮名・41歳)も、そんな崩れゆく学校現場に強い不安を募らせている一人だ。

「入学した頃は元気よく登校してたんですが、一ヶ月もせんうちに暗い顔をするようになって……。理由を聞いたら、『ヨーグルトが、飛んで来るんやもん』って言うから、最初は何のことかわかりませんでしたわ」

子どもの話によると、給食時間には、食べ物が教室中を飛び交うというのだ。

「幼稚園の話とちゃいますよ。
中1の子どもたちが食べ物を投げて遊ぶんですって。特に、ヨーグルトは頭とかにベチャっとなりますやん? それを見て悪ガキ連中がひっくり返って笑うとか。先生もお手上げ状態らしいです」

にわかには信じられないが、その一件以来、教室には<ヨーグルトを投げて遊んではいけません>という注意書きが張り出されるようになったとか。また、この学校では、とりわけ中1の学級崩壊がひどく、その混乱はついに上級生にまで波及していると、井上さんは打ち明ける。

「上の学年に通わせてるお友達のママから聞いたんですけど、先生から『トラブルのもとになるから、中1の校舎には入らないように』って、注意されたんやそうです。上級生を守るための苦肉の策やって言うてたらしいですけど」

修学旅行が近所の公園に?

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井上さんの息子が通う中学校の近くにあるカラオケ。大量の落書きやステッカーのせいで、まるで廃墟のようだ
実際、この学年は周辺エリアでも群を抜く凶暴さで、他の学校から“良からぬ依頼”が届くというのだ。

「近所の子ども達に聞いたことなんですけど、依頼を受けて相手をボコボコにするヒットマンみたいなこともしてるらしいんですよ。子ども同士のしょうもない揉め事が起こると、『あの学校のあいつをやってくれ!』と依頼が届くと出動ですよ。学校終わりに待ち伏せして、ボッコボコ。反抗できないようにすると聞きました」

これほど崩壊が進んだ学年を立て直すことはできるのか? 井上さんは先生の“ある言葉”を聞いて以来、その希望も捨ててしまったという。

「校外学習の時に近くの緑地公園でレクリエーションをしたそうです。案の定、勝手に走り回る子もおるし、後ろから突き飛ばしてケガをさせた子もおるし。その時に先生が『修学旅行も、この公園にせなアカンかもしれん。
ホテルなんか、とても宿泊させられへん……』って、ポロッと言うたのを聞いた生徒がいたんです。もう先生もあきらめてるんでしょうね」

こうした現実を前に逃げられる家庭は私立へ向かい、逃げられない家庭は荒れた現場に取り残されていると井上さんは言う。今や教育格差は、静かに拡大しているのだ。

教師への侮辱と土下座の強要

このような異変は、この学校だけの特殊な事情ではない。大阪府内にある公立学校のあちこちで、同じような事態が広がり始めているという。中学校で音楽教師を担当する宮守恭子さん(仮名・32歳)は、もはや改善の余地はないと半ばあきらめてしまったと話す。その思いを決定づけたのが、彼女に対して行われた、ある仕打ちだと打ち明ける。

「お祭りが盛んなエリアにある学校なので、その時期になると、男子たちはずっとお祭りの練習みたいなことをやってるんです。授業時間になっても、まだやってたので注意すると、『先生も参加してや!』って、掃除用のホウキ2本を私の股に差し込んで、神輿みたいにワッショイ、ワッショイって担がれて……。中3の男子でしたから、力付くでは止められないしね。屈辱的な経験でした」

宮守さんによると、こうした悪ふざけは、まだ序の口にすぎないとか。むしろ深刻なのは、保護者を含んだ問題に発展した時だという。

「つい先日も、学年全体で行う行事練習で数名の生徒がずっと暴れていて。
昔なら厳しく注意するんでしょうけど、今は見て見ぬフリ。保護者が出て来ると、『なんでウチの子どもを叱ったんや!』って怒鳴り込んできたり。ある先生は、職員室で土下座を強要されたこともあるくらいです。だから、優しくなだめることしかできないんですよ……」

いじめ動画を見た担任教師は…

こうして対応を続けている教師は、まだマトモと言える。指導に悩み、精神的に追い詰められた末、犯罪にも似た行為に出る教師もいるのだ。前出の井上さんは、自身の体験を交えながら、さらに耳を疑う話を明かしてくれた。

「いじめっ子が、大人しい男の子をボコボコに殴って服を破いたり、地面に叩きつけたりしたことがあったらしいんです。それを、ウチの子どもがスマホで撮影して、担任の先生に報告したら……『プライバシー侵害になるから、早く消しなさい!』って、逆に叱られたって。そんな先生じゃなかったのに、もう面倒を起こすのは嫌なのかなと思って悲しくなりました」

ここまで紹介した学校現場の混乱は、いずれも大阪府内の公立学校で起きていたものだ。教育行政に携わる関係者、田中和也氏(仮名・48歳)は、「大阪は所得格差が大きく、もともと問題が生じやすい地域です。それに加えて教育改革に伴う教員の負担増や、講師・非正規教員に頼らざるを得ない状況が重なり、現場の余裕が失われ、一部の学校では荒れが深刻化しているとみられます」と眉をひそめる。

管理教育が招く、負の連鎖

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おおたとしまさ氏
その一方で、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は「荒れた学校」の原因は、「遊びの不足」と指摘する。

「教育関係者と話をすると、本来であれば幼児期に経験し、学んでおくべきことを学齢期になっても引きずっているのではないかという指摘が出ます。
例えば、砂場でお友達と意見の衝突や行き違いを経験する中で、トラブルを解決したり、喧嘩をしてもどこまでなら許されるのかを学んだりします。一方で、学校現場では『トラブルを防ぐ』というプレッシャーが強いあまり、教員は心の余裕を失ってしまい、結果として管理教育的な体制が強くなる。そうした過剰な管理体制によって、子どもの自発性は削がれ、かえって問題行動に走ることもあります」

「私立より公立が荒れやすい」という見方についても、「慎重に考えるべき」と、おおた氏はこう解説する。

「公立にしろ私立にしろ、学校が荒れる原因は一つではありません。それを家庭環境のせいや、偏差値の問題にしてしまうのは短絡的です。貧困やひとり親家庭の子どもを勝手に『問題を抱えやすい』とみなすのは偏見ですし、『偏差値の低い学校は荒れる』という発想も、結局は差別的なまなざしだと思います」

原因は単純化できなくても、子どもも教師もここまで追い詰められている現実は重い。いま本当に必要なのは荒れた生徒への場当たり的な指導ではなく、崩壊を食い止める教育体制そのものかもしれない。

<取材・文/橋本未来>

【教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏】
男性の育児や、子育て夫婦のパートナーシップ、受験など幅広いジャンルで活躍。著書に『中学受験「必笑法」』(中公新書ラクレ)など

【橋本未来】
主に関西圏で広告関係やマガジン系の仕事をしながら、映像の企画・構成なども手掛ける。芸人さんやちょっと変わった経営者さんなどの話を聞くのがライフワーク Twitter:@h_mirai1987
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