―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは秋保温泉の名物スーパーで買ったおはぎ。
果たして、お味はいかに?

夕飯が「おはぎ」の家、ちょっとどうかしてる?…『孤独のグルメ...の画像はこちら >>

孤独のファイナル弁当 vol.25「お茶の足湯で、おはぎという最後はどうだ!?」

 仙台の郊外、秋保温泉に初めて行った。

 ここには地元では有名な「さいち」というスーパーマーケットがある。この店で一番人気なのが、なんとおはぎなのだ。なんと一日1万5000個も売ったことがあるという。おはぎってそんなに売れるものなのか。

 ボクは普段おはぎは食べない。が、子供の頃実家では時々出た。しかも夕飯に。

 夕飯がおはぎって、どうだろう。食卓のテーブルの真ん中に大きなお皿が置いてあり、そこにあんこのおはぎときなこのおはぎが2対1くらいで盛ってある。一個がでかい。

 そして家族各自には空のお茶碗が配られ、箸で各自、一個ずつおはぎを茶碗に取って、食べるのだ。
それが夕飯。

 今考えると、ちょっとどうかしているような気がする。茶碗と箸でおはぎの夕飯。

 確かお吸い物がついていた。味噌汁はさすがに合わないと母も思ったのであろう。いつもの自家製の糠漬けもあった。それだけの夕飯。やっぱり変なウチ。

 ボクら兄弟は、きなこのほうが好きだった。甘いし。でもあんこのも食べた。でも一人2個食べればもうお腹いっぱいという感じに大きかった。
変だけど、子供だったから、どこか不自然とは思ったけど、なんか楽しかった。いつもの夕飯と違うところが。

 しかし、それを還暦過ぎてお昼にやるとは思わなかった。茶碗には取らないけど。

 さいちの店内に入ると、ごく普通のスーパーだったが奥にあるおはぎのコーナーには驚いた。横3mくらいの商品ケース3段が全部おはぎ。壮観。こんなに売れるんですか? 2個3個6個入りと、いろんなパックが売ってる。種類はあんこときなこと、珍しい納豆! 納豆のおはぎは初めて見た。ぜひ食べたかったが、翌日酒蔵の取材だったので納豆はご法度なのだ(納豆菌が強すぎるので、酵母に害を及ぼす可能性がある)。白いおはぎの上に大粒の納豆が一面だけのっていた。食べてみたかった。


 ボクはあんこときなこを1個ずつ買って、その日のお昼の弁当にしたのである。

 食べる場所は温泉だからと、屋外の足湯コーナーにした。しかもその足湯はお湯が薄い緑茶なのだ。面白いけど入り心地の違いはわからず。

 いい天気だが仙台はまだまだ寒かった。だから足湯はジーンとあったまって、最高。

 そしてパックを開いて、付属の割り箸でおはぎを食べ、ようとしてやっぱり掴みにくいので手で食べた。大人だからまず基本のあんこから。……あぁ、甘さ控えめで、塩も感じられ、押し付けがましさのひとつもない、おいしいおはぎだ。なるほど。この普通さが人気なのだろう。そして大人だから餅米がおいしいのがわかる。


 きなこは、やっぱり懐かしかった。素朴においしい。でもジジイだからあんこのほうがうまいと思った。足が湯に浸かっているのが変。

 軽く平らげたが、あとから腹の中で膨らんだ。実家ほど大きくはないが、2個で十分。その後飲食店取材があるのに、腹が減らず困った。

夕飯が「おはぎ」の家、ちょっとどうかしてる?…『孤独のグルメ』原作者が懐かしの味を秋保温泉で再発見/久住昌之
秋保温泉の足湯で「さいち」の名物おはぎ(2個入り350円)を頬張る。ジーンとする温かさと素朴な味を感じながら、子供の頃の食卓に並んだおはぎがふっとよみがえる

夕飯が「おはぎ」の家、ちょっとどうかしてる?…『孤独のグルメ』原作者が懐かしの味を秋保温泉で再発見/久住昌之
孤独のファイナル弁当


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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