車内を豪華に演出してくれる本革シートだが……

かつては高級車にしか採用されていなかった本革シートが、今では国産コンパクトカーでも選べるようになっている。本革シートは見た目の豪華さを演出でき、車内の高級感、デザイン性を格段にアップしてくれる装備だ。



しかし、体形、体重によっては、むしろファブリックシートのほうがかけ心地がよい、シートのサポート性で上まわるケースもあるのだ。

何故か? それは本革シートの表皮の張りの強さが影響している。つまり、たわみという点で、比較的ソフトな生地のファブリックシートが有利になることもあり、座り心地がよいと感じ、お尻の沈み込みによって、サポート性が得られ、運転姿勢が崩れにくくなることがあるというわけだ。



たとえば、人間のバランス能力を引き出す、骨盤を立たせた姿勢を保てるシート設計、レイアウトが自慢のマツダ3のファブリックシートは、お尻を絶妙に沈み込ませ、体重でサポート性が得られるシートで、上半身に自由度がありつつ、お尻と腰がしっかりとホールドされ、なおかつ頭の動き最小限のドライブが可能になる。



「本革シート」なのに座り心地が悪い! 布のほうがいいこともあ...の画像はこちら >>



ところが、身長172cm、体重65kgの筆者がマツダ3の本革シートモデルに乗り換えると、本革の張りの強さによって、ファブリックシートほどのお尻の沈み込みが得られず、サポート性、頭の動きという点で、やや後退する印象なのである。



そうした現象は、ホンダ・フィットでも同様だ。先代に比べ、より自然で心地よいかけ心地が得られるフィットの前席だが、やはり、「かけ心地にこだわった」という本革シートになると、個人的にはファブリックシートのような、ふんわりお尻が沈み込むような快適感、落ち着いたかけ心地が得られなかったのである。



「本革シート」なのに座り心地が悪い! 布のほうがいいこともある「高級装備」に潜む難しさ



また、本革シートの張りは、輸入車のほうが強い傾向がある。かつてボルボでファブリックシートと本革シートを乗り比べたことがあるのだが、本革シートにはリラクゼーション機能(マッサージ機能)などが付加され、インテリアのスカンジナビアデザインが一層際立ち、ぜひとも選びたくなるものの、筆者の体重では、かけ心地がやや硬い感じが否めなかった。



「本革シート」なのに座り心地が悪い! 布のほうがいいこともある「高級装備」に潜む難しさ



モダンリビングのソファに腰掛けて空間移動するような感覚、心地よいかけ心地では、ベースグレードのファブリックシートが上まわるということだ。



だから、自動車ディーラーでファブリックシート仕様の試乗だけを経験し、しかし注文するのは未試乗の本革シート……というのは、ちょっと危険でもある。本革シートが希望なら、実際に本革シート仕様の試乗車に試乗し、できるだけ長い距離、時間の試乗をすることが望ましい。シート、そして自身の体形、体重によっては、ファブリックシートのほうがかけ心地、ホールド性が良かった……なんてことも起こりうるのである。



最近はふんわりとしたソファ的なかけ心地の本革シートも登場

筆者はずいぶん昔、W124と呼ばれたメルセデスベンツEクラスの本革シートモデルを所有していたことがあるのだが、ビシッとしたシートの張りの強さは数年乗っても解消されず、その前に乗っていたマセラティのファブリックシートのかけ心地に良さと比較して、それ以外はすべて満足していたものの、手放すまでシート選びに関しては後悔したものだった。



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以来、自身の愛車は、国産、輸入車を問わずファブリックシートと決めていたのだが、ここにきて、本革シートでもファブリックシートと変わらない、ふんわりとしたソファ的なかけ心地と、お尻をじんわり沈み込ませることで絶妙なサポート感、ホールド感が得られるシートに出会ってしまったのである(だからこの記事を書いてます)。



それは、日産ノートオーラのレザーセレクショングレードの本革シートである。一目見て、これは座り心地が良さそうと思えたのも本当で、人間工学に基づいて疲労が低減するゼログラビティシートを基本に、深いうねのある表皮=キルティングラインの向きで体の滑りを抑えた、ワディング10mm(低反発層)ソフトウレタン20mm 高級車並の30mmのソフト層による3層構造の肌触りもいい本革シートである。



「本革シート」なのに座り心地が悪い! 布のほうがいいこともある「高級装備」に潜む難しさ



かけ心地はふんわりソフトで、しかしノートのように「かけ心地はソフトだけど底付き感がある」のとは違い、フランスの高級ソファのような、ソフトでありながら、お尻の沈み込みと背中のやさしいホールド感ある、底付き感のない、高級感あるデザイン性も光る、小柄、体重の軽い人でも満足できるリッチなかけ心地が得られるプレミアムな本革シートだったのだ(同じ表皮デザインのファブリックシートもなかなかのかけ心地のよさがある)。



しかも、肩まわりのホールド感をあえて適度に逃がすことで(ガッチリと包まない)、ステアリングを左右切った時の目線の無駄な動きを抑制。つまり、カーブの連続でも視線が左右に振られにくく、運転がしやすく感じ、結果的に長時間の着座でも疲れにくい、いつまでも座っていたくなる心地よいシートなのだからゴキゲンだ。これなら筆者の体形、体重でも、積極的に本革シートを選びたくなるというものだ。



本革シートは張りが強く、好みじゃない……と思っていた人や、小柄で体重の軽い人も、ぜひノートオーラの本革シートのかけ心地を味わってほしいと思う。万一、ファブリックシートしか試乗できずにレザーセレクションを選択したとしても、心地よいかけ心地はファブリックシートの延長線上にあるから心配無用。本革シート分の価格アップが戦略的に(?)抑えられているのも嬉しい限りである。

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