この記事をまとめると
■シンクロのないMT車でスムースな変速をするための必須テクニック「ダブルクラッチ」■1回のシフトチェンジで2度クラッチペダルを踏むためこう呼ばれる
■現在のMT車には優秀なシンクロが備わるため必要のないテクニックとなってしまった
「シンクロないからダブルクラッチ」、これってどういう意味?
「ダブルクラッチ」は、MT車のトランスミッションにまだシンクロナイザーが普及していなかった頃に、スムースなシフトチェンジを可能にするために行なわれた今は昔のテクニック。
シフトチェンジの際、クラッチを切り(1回目)、シフトレバーをニュートラルの位置に動かし、そこでいったんクラッチをつないでアクセルをひと吹かしして回転を合わせ、それから再度クラッチを踏んで(2回目)ギヤを入れクラッチをつなぐ。つまり、1回のシフトチェンジで2回クラッチペダルを踏むので「ダブルクラッチ」という。
なぜ通常1回で済むクラッチワークをわざわざ2回も行なったのかというと、シンクロの弱ったクルマや、シンクロが入っていない古いクルマは、これをやらないとギヤチェンジのたびに“ジョン”とギヤが泣いて、シフトが入りづらかったから。

意外に知られていないかもしれないが、MT車のギヤはつねに噛み合っている常時噛合式が一般的。つまり、ギヤそのものは最初から合わさっているので、ギヤが入らないということはあり得ない。シンクロの問題で入らないのは、シフトレバーに連動して動くスリーブの方だ。
いまや必要のない忘れ去られたテクニックに
その理由を説明しよう。
MT車のトランスミッションには3本のシャフトが通っている。1本はエンジンからクラッチを経てミッションケースにつながるインプットシャフト。2本目はミッションからプロペラシャフト、ドライブシャフト、デフにつながっているアウトプットシャフト。そして最後がインプットシャフトとアウトプットシャフトの間にあるカウンターシャフトだ。

走行中のミッションの内部は、スリーブが入ったギヤだけ固定され、インプットシャフトとアウトプットシャフトはカウンターシャフトを介してつながっていて、あとのギヤはフリーの状態になっている。
ギヤチェンジのとき、インプットシャフトとカウンターシャフト、アウトプットシャフトの回転数が合っていれば、スリーブはスコスコ気持ちよく入るのだが、同じ車速でもギヤが違えばエンジンの回転数が違うのはご存じのとおり。

シンクロナイザーが入っていれば、クラッチを切ったときに慣性だけで回っているカウンターシャフトの回転をアウトプットシャフトの回転に同調させ、スリーブがスッと入る手助けをしてくれるが、シンクロレスあるいはシンクロが弱いとこの同期が上手くいかない……。

そこでシフトチェンジの際、クラッチを切り、シフトレバーをニュートラルまで動かし、そこで一旦クラッチをつなぎ、アクセルをふかしてカウンターシャフトの回転を上げて、アウトプットシャフトの回転に任意で同期させてギヤ泣きを防ぎ、ストレスなくスリーブが入る下準備をして、それから再度クラッチを切って変速するというのが、ダブルクラッチの骨法(カウンターシャフトはクラッチがつながっていると、エンジンの回転に合わせて回っている。ニュートラルではカウンターシャフトとアウトプットシャフトの回転はフリーな関係)。
還暦以上の先輩方は、このダブルクラッチで素早くギヤを泣かせないシフトワークができて一人前と思っていた節があるが、MTだって時代とともに進化し続け、いまやダブルコーンシンクロやトリプルコーンシンクロが当たり前。オートブリッピングだって珍しくないので、ダブルクラッチはおろか、そのうちヒール&トゥだって忘れ去られるかも!?

その前に、MT車が消滅してしまう可能性も大きいが……。