この記事をまとめると
■1973年式911カレラRSは、マニアから「ナナサンカレラ」と称される特別な911だ■徹底した軽量化が施され、ホモロゲーションモデルとして誕生
■2.7リッター水平対向6気筒の最高出力は210馬力でそれまでの911を大幅に上まわる
ナローポルシェの究極形態ともいえるナナサンカレラ
「ナナサンカレラ」。すなわち1973年式のポルシェ「911カレラRS2.7」は、ポルシェのファンにとってはひとつの夢ともいえるモデルだろう。
1963年に発表されたポルシェ911は、以来さまざまなモータースポーツで好成績を収め、1967年にはレース用のスペシャルモデルともいえる軽量モデルの911Rなども、わずか20台という数であったが送り出されるに至っていた。
ポルシェがこの時代にもっとも積極的に活動したのは、スポーツカー・マニファクチャラーズ選手権だったが、1972年にFIAがその車両規定を3リッター以下に変更されると、ポルシェはそれまでの917から、911をベースとしたGTカテゴリーのグループ4に新たな照準を定めることになる。ちなみにグループ4の車両規定は連続した12か月間に500台を生産するというもの。ポルシェにとってそれは難しい数字ではなく、わずか3カ月足らずで1580台を生産し、グループ4の公認を得ることに成功した。

かくして正式にホモロゲーションモデルとしてデビューを飾ったナナサンカレラ。車名のカレラはスペイン語でレースを意味するもので、現代とは異なり、ポルシェ車のなかでも特別なモデルにしか与えられてはいなかった。それに続くRSは、ドイツ語の「Renn Sport」、つまりレーシング・スポーツの頭文字。ポルシェがいかにこのナナサンカレラに大きな期待を抱いていたのかが良く分かる。

レースへの参加を前提としているため、ポルシェがまず行ったのは徹底した軽量化の作業だった。ボディはワイドな7Jサイズのホイールを装着するためリヤフェンダーがワイド化されているが、このフェンダーのように走行中に直接応力を負わない部分はより薄い鋼板に素材が変更され、FRP製の前後バンパーやダックテールと呼ばれるウイングを備えたリヤフード、薄肉のフロントグラス等々を採用した結果、900kg前後の車重を実現した。

ポルシェのひとつの時代の節目となった特別なモデル
1973年の911カレラRS2.7には3タイプの仕様があった。「レーシング」、「スポーツ」、「ツーリング」の3つがそれで、レーシングは文字通り純粋なレース仕様で、さらなる軽量化とサスペンションの改良を実施。スポーツはいわゆるライトウエイト仕様、装備は大幅に省略され、シートも独自のものに変更されているほか、遮音材やアンダーコート、そして後席も廃止され、ウエイトの低減に貢献している。

「911/83」型と呼ばれ、リヤに搭載されたエンジンは、917譲りのニカシルメッキシリンダーを採用した、2.7リッターの水平対向6気筒。最高出力は210馬力、最大トルクは255Nmとそれまでの911シリーズからそのスペックは大幅に向上した。

ポルシェはさらにそれをベースに、レース仕様の「911カレラRSR」用に2.8リッターエンジン、「911/72」型を308馬力で、また「911カレラRSR3.0」用として、315馬力仕様の「911/74」型エンジンもサーキットに投じている。

ポルシェの歴史は、まさにレースの歴史でもある。その意味でもひとつの時代の節目を作り上げた、ナナサンカレラは、ポルシェのみならずカスタマー、そしてファンにとっても、文化的な遺産として欠かすことのできない存在といえるのではないだろうか。