所有者不明の不動産(土地・建物)が全国で増えている。公共事業や災害復旧の妨げにもなりかねない、こうした不動産への対策として、国・法務省が昨年4月に相続登記の義務化を始め1年半が経過した。

相続登記の件数は増えているのか、現状を取材した。また、筆者が実際に司法書士等の専門家に頼まず自力で相続登記を行ってみたところ、期間・費用など課題も見えてきた。(ライター・榎園哲哉)

全国の空き家の総数、30年間で約2倍に

筆者が居住する東京都大田区でも、人の住んでいない朽ち果てた空き家が少なからず点在している。
総務省が5年ごとに行っている「住宅・土地統計調査」の令和5年調査結果によると、全国の空き家はおよそ900万戸に上る。総住宅戸数に占める割合=空き家率=は13.8%と、この30年間で約2倍に膨れ上がった。
国は「空き家の発生原因は、半数以上が相続によるもの」(「政府広報オンライン」)などとして2023年12月に「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家特措法)の一部を改正する法律」を施行。昨年4月からは、それまで任意だった相続登記を義務化した。
相続人は「所有権を取得したことを知った日から3年以内」に所有権移転登記を申請しなければならない。相続人が極めて多いなど、申請を行いづらい「正当な理由」がなく、これを怠った場合、「10万円以下の過料」が科される。
また、税制上のデメリットもこうむる。
住宅用地には固定資産税を引き下げる特例(200平方メートル以下の土地は6分の1、それを超える土地は3分の1に減額)が設けられているが、放置すれば倒壊などのおそれのある「特定空家等」、それに至りかねない「管理不全空家等」に指定された場合、特例は解除される。
「特定空家等」などの発生を防ぐためにも、法務省はHPに「相続登記の申請義務化特設ページ」を開設し、相続登記の方法も説明している。

鹿児島市の実家を1か月半かけて…

筆者は今年、母が他界して空き家となっていた鹿児島市内の実家(家屋・土地)の登記名義を母から自身に移転する手続きを行った。
相続人が筆者、弟、おいであり、相続分に関する争いもなくシンプルだったことから、司法書士に頼まず自分で相続登記を行うことにした。

仕事の合間や休日に週2~3日・各1~2時間ほどかけて、母の戸籍謄本など必要なものを取り寄せ、遺産分割協議書などを作成していった。そろえた書類は全部で10通ほどになった。
最も大変だったのはこうした書類の作成だった。書式・書き方がそれぞれ細かく定められ、土地・家屋の面積・評価額等を正確に記さねばならず、時間がかかった。
居住地に近い東京法務局管内の出張所に二度足を運び、記載事項の不備に“赤字”を入れてもらい、完成させていった。
正確に書いたつもりでも、面積の表記や文書中の文言に微妙な違いがあるなどして、「これは違いますね」と職員に淡々と指摘され、修正を行った。
煩雑とも言えるこうした書類の収集・作成作業。筆者はフリーランスで、比較的まとまった時間が取りやすいが、平日勤務が続く会社員・公務員等であれば、司法書士に依頼した方がよいかもしれない。
とはいえ、司法書士に頼めば費用がかかるため、お金をとるか、時間や手間をとるかという二択を突きつけられることになるだろう。
帰省の際に、鹿児島法務局に書類を提出。職員に「これから審査します」と言われ、「審査に落ちることもあるのか?」と一瞬ヒヤリとしたが、書類等の不備を確認するためとのことで、胸をなで下ろした。
それから約2週間後、相続登記が完了した旨のメールが届いた。
準備を始めてから約1か月半が経過していた。

不動産所有者の「住所・名前」変更登記も義務化へ

これほど“面倒”あるいは費用が発生する相続登記だが、法務省民事局担当者によると、「義務化」に伴い、その登記件数は増加しているようだ。
昨年4月の義務化に先立ち2021年頃から「空家特措法」改正に向けた周知等を進めていたこともあり、2021年に123万件だった登記件数は、22年、23年と10%ずつ増加し、昨年(24年)は155万件となった。
一方で、「特定空家等」などに指定され、行政代執行や略式代執行される(行政が代わって措置を行う)ケースもあるという。
東京都住宅政策本部の担当者によると、都では2015~23年度の8年間で7件の行政代執行、4件の略式代執行を行ったそうだ。
さらに現在、空き家と同様、対策が急務となっているのが「所有者不明土地」だ。
都の担当者は「不動産登記簿等を参照しても、所有者がただちに判明しない土地、判明しても所有者と連絡がつかない土地があり、筆数を網羅的に把握することはできない」と頭を抱える。
都はこうした所有者不明土地の発生の主な要因も相続登記の未了が原因である、として「東京住まいの終活ガイドブック」などを通して、啓発を図っている。
また国でも、「特定空家等」や「所有者不明土地」などの発生を防ぐため、2026年4月から、不動産所有者の住所・名前の変更登録も義務化する予定だ。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。
防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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