「墓場まで持っていってね」1000通の“おじさん構文”を送信… 福井県庁、前知事「セクハラ辞職」の裏に潜む闇
「保守王国」とも呼ばれる、福井県。県政は「杉本達治前知事によるセクハラ辞職」という最悪の混乱の中で、福井県知事選挙(1月25日投開票)が告示され審判の時を迎えている。

1月7日に公表された特別調査委員会の報告書は、県民のみならず全国にも強い衝撃を与えた。そこに記されていたのは、知事という絶対的な権力を背景にして長期間にわたって繰り返された、「性的搾取」ともいえるハラスメントの実態だったからだ。
また、杉本氏が受け取った約6000万円の退職金についても、県民からは「民間なら懲戒解雇だ」と厳しい批判が飛んでいる。
本記事では、スキャンダルの背景にある、福井県庁という組織の問題について、県在住のライターが独自取材を行った。(ライター・岩田いく実)

「墓場まで持っていってね」暴かれた1000通の“証拠”

福井県が公表した調査報告書によると、杉本前知事は複数の女性職員に対し、LINE等で合計1000通を超える性的なメッセージを送信していた。「キスしちゃう?」「エッチなことは好き?」といった常軌を逸した文言が執拗(しつよう)に繰り返されていたのだ。
杉本前知事は自身の言動を「雑談の延長」「軽い冗談」と釈明していたが、報告書で示された実態は大きく乖離(かいり)しており、「墓場まで持っていってね」と冗談とも思えない言葉で念を押す様子が見られた。
スカート内に手を入れる、太ももや尻を触るといった身体的接触も認定されており、調査委員会は「不同意わいせつ罪やストーカー規制法に抵触する可能性がある」と極めて厳しい評価を下している。
被害者らは「杉本氏からの謝罪は一切受けたくない、示談もしない、接触を断ちたい、受けた精神的苦痛は一生忘れることが出来ない、二度と会いたくない、恐ろしいので福井から出ていってほしい、どこかで会うかもしれないと思うと不安でならない、絶対に許さない」と痛苦を訴えた。
弁護士であり、福井県議会最大会派に属する山浦光一郎県議(自民党福井県議会)は以下のように語る。
「杉本氏のセクハラは想像を絶する内容で、決して許すことができない。被害に遭った女性職員の方々が味わった屈辱感や苦痛はいかばかりであったか。きちんと対応できなかった県庁の体質・風土を変えていく必要がある。

ハラスメント相談体制の強化や上司による情報共有の義務化、さらに関連する話として、退職金の返還請求も含めた改革が必要ではないか」
また、自治労福井県本部や福井県庁職員組合の特別執行委員として県職員の声に近い野田哲生県議(民主・みらい)は、以下の苦言を呈した。
「加害者がトップである本件のようなケースでは、情報漏洩(ろうえい)や誹謗(ひぼう)中傷への不安から、既存の相談窓口であっても利用しにくかっただろう。
今後は、情報が厳格に守られ加害者に知られることなく相談できる、信頼性の高い外部相談窓口の設置が不可欠だ。被害者を守るためにも、調査終了後にこそ丁寧にフォローできる環境を作る必要がある」

総務省キャリア」による慢性的な統治

杉本前知事のキャリアについても触れておく必要がある。
総務省出身で、福井県副知事を経て知事に就任した。福井県では1987年から2003年までは栗田幸雄・元福井県知事(旧自治庁)、2003年から2019年までは西川一誠・元福井県知事(旧自治省)と、総務省系の官僚が知事の座に就く「指定席」のような状況が続いてきた。
栗田氏から杉本氏まで、いずれも「自治・総務省から副知事として送り込まれ、そのまま知事に昇格する」形が定着している。「エリート官僚の就職先」のような統治の中、福井県庁内では中央官庁への忖度が優先され、県庁内部の風通しが悪化していたのではないか。
今回の調査報告書には「福井県庁という職場には、セクシュアルハラスメントの被害を通報しにくい組織風土があるように思われる」と記載がある。
県庁職員にとって知事は「定期的に中央から送られてくる権力者」であり、本件でも、県庁のコンプライアンス体制が「知事」という聖域には機能していなかったのではないだろうか。

福井県知事選の争点:信頼回復は「刷新」か「継続」か

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掲示板に貼られた県知事候補3名のポスター(撮影・岩田いく実)

現在行われている知事選では、県副知事の経験を持ち元越前市長でもある山田賢一氏、共産党推薦候補の金元幸枝(ゆきえ)氏、若さをアピールする元外務省職員石田嵩人(たかと)氏と、新人3名が激突している。いずれの候補も「ハラスメントの根絶」を掲げているが、県職員や県民が求めているのは、単なる制度の整備ではない。
50代のある県職員は「杉本前知事下の体制では真面目にコツコツやる職員ではなく、ノリが良いタレントのような職員が評価されていた。
今後は知事も含めて県民に尽くし、県庁全体が真面目で実直な風土になることを願っている」と話す。
1月12日、福井市内のショッピングセンターで行われている期日前投票で投票を済ませた40代夫婦は「北陸新幹線など課題は多い。正直、最後まで誰に投票するか悩んだ」と語った。
「知事なら何をしても許される」という特権意識の打破と、総務省キャリアを無批判に受け入れてきた県政からの脱却は可能なのか。被害女性たちが「福井から出ていってほしい」とまで叫ぶこの惨状を、誰がどう総括できるのかは未知数だ。
調査委が指摘したストーカー規制法などでの刑事立件、すなわち「司法のメス」が入る可能性を残したまま、福井県は新しいリーダーを選ばなければならない。今回の選挙は、福井県が「ハラスメントを許さない近代的な自治体」に脱皮できるかどうかの、重大な試金石となっている。
■岩田いく実
損害保険会社、法テラス、一般民事系法律事務所に勤務後、ライターに転身。パラリーガル経験を活かし、年間60人を超える弁護士・税理士を取材。相続や離婚、不動産売却、債務整理、損害保険などのテーマを中心に執筆。第一法規『弁護士のメンタルヘルスケアの心得』で記事執筆、自主出版に『ルポ豊田商事』がある。


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