仙台市の女性が、自動車の使用を理由に生活保護の支給を停止した市の処分を不服として、2026年1月7日、仙台地裁に提訴した。生活保護受給者の自動車利用をめぐる議論が、いま改めて注目されている。
元裁判官で、津地裁の裁判長として生活保護受給者の自動車利用をめぐる行政処分を「違法」とする2件の判決(それぞれ最高裁、名古屋高裁で判決確定済)を出した竹内浩史弁護士に見解を聞いた。(ライター・佐々木佳)
父の車で通勤し生活保護停止
生活保護受給者の「車通勤」は許されないのか。報道によると、仙台市若林区のパート従業員女性(34)は1月7日、「自動車を処分しないことを理由に生活保護を停止したのは違法」として、市に停止処分決定の取り消しを求める訴えを起こした。女性は3人の小学生の子と暮らすシングルマザーで、2020年から生活保護を受けていた。受給開始当初は子どもたちが未就学で、市は保育園への送迎のために、女性が父親から借りた自動車の使用を認めていた。
子ども3人が小学生になり、2024年7月からは女性も隣の区でパート従業員として働き始めた。職場は自宅から自動車で約20分だが、公共交通機関では約1時間半かかる。その通勤と子どもの通院などに自動車を使用していたところ、市は2025年9月、自動車の処分と運転しないよう求める文書を通知した。女性が応じずにいると、市は12月下旬に生活保護の支給を停止し、提訴に至った。
竹内弁護士は、今回の訴訟には大きく2つのポイントがあると説明する。
1点目は、女性が使用していた自動車が本人の所有ではなく、父親から借りていたものだったことである。
生活保護制度では、受給者が保有する資産は売却し生活費に充てることが求められる。しかし今回のケースでは車は女性の資産ではない。第三者の所有物の処分を行政が求めることは法的にも極めて疑問が大きいという。
「この点だけでも、行政の違法性を判断する重要な要素となり得る」(竹内弁護士)
2点目は、女性が身体障害者ではないことだ。これまで生活保護受給者の自動車利用を禁じる処分が法廷で争われ、違法とされてきた事案の多くは、原告の身体に障害があるケースだった。
だが竹内弁護士は「一般の人は皆、障害者だから車を持っているのか? そんなことは関係ないはずだ」として、障害の有無で自動車利用の是非を考えること自体「おかしい」と主張する。
今回原告となった女性には身体障害はないが、独力で3人の子育てをしながらパートタイムと保護費で生計を立てている。
仙台地裁は審理開始前である3月3日、判決言い渡し後2か月までの支給停止処分の執行停止を認めた。生活保護の停止で生じている女性の損害を考慮し、緊急性を認めた形である。
竹内浩史弁護士(撮影:弁護士JPニュース編集部)
車利用を法的拘束力のない「通達」で制限する運用
そもそも、なぜ生活保護受給者の自動車利用は問題とされるのか。生活保護制度の基本的な考え方は、国が最低限度の生活を保障する代わりに、活用できる資産は生活費に充てるというものである。
しかし、自動車の保有を禁止する法律の規定は存在しない。
竹内弁護士は、制度の根本的問題として「生活保護法そのものが極めて抽象的で、具体的な『最低限度の生活』内容を規定していない」点を指摘する。
たとえば、生活保護受給者が自動車を保有できるかどうか、エアコンの使用や電気代の負担をどう考えるかといった、現実の生活に密接に関わる問題について、法律にはほとんど規定がない。
そこで、実際の運用は、厚生労働省の「通達」によって決められている。通達は行政内部の法解釈の統一性をはかるためのものであり、法的拘束力はない。しかし、行政の現場での運用に対し事実上の拘束力を持っている。それが、現場での柔軟な対応を困難にし、硬直的な対応を招いていることが、行政一般について従前から指摘されてきている。
生活保護法についての通達では、自動車の保有・利用について身体障害者の通院など、一定の条件で認める場合もあるが、それらはあくまでも「例外」で、「原則として認めない」という方針で運用されてきた。
それでも、竹内弁護士はこれまでの経緯から「行政の現場ではある程度柔軟な運用がなされているのではないか」と推測する。たとえば、2022年1月には札幌市が障害を理由に車の保有を認められた生活保護の利用者について、支援団体に「日常生活で(車を)利用することは自立助長の観点から認められる」などと文書で回答していた。
しかし、これに対し厚生労働省は「日常生活に用いることが認められるような考えを示した事例」があったとして注意喚起を行い、札幌市の動きを強くけん制。結局札幌市は、回答を取り下げた。
竹内弁護士は憤る。
「国は現場の柔軟な運用を通達で縛りに縛り、少しでも通達から外れたことをする自治体があると、すぐに叩く。本来は国が責任を持って行う生活保護行政を全て地方に丸投げしておきながら、口だけは出すという通達行政のあり方自体、いかがなものか」
障害がある人だけに車保有を認めればいいのか
こうした国の通達に基づいた運用は、国民生活の実情と必ずしも一致しているとは言い難い。大都市圏の中心部といったごく限られた地域を除けば、自動車は生活の必需品になっているためだ。多くの住民が日常生活で車を利用している地域において、生活保護受給者だけ車を使えないとすれば、就労や通院、買い物なども大幅に制約される。
「現在の生活保護法は、戦後間もない1950年に制定されたもので、制定当時、車と言えば進駐軍のジープくらいだっただろうが、社会は大きく変わった。それでも東京都心の霞が関で働く人の基準で運用が続けられ、地方も唯々諾々と受け入れてきた。
自動車利用を禁じている原則は国のさじ加減に過ぎないとも言えるが、その重みは現場の事務を担う地方自治体にとって『金科玉条』のような重みを持っている」(竹内弁護士)
これまで生活保護受給者と自動車利用を巡る裁判は、特定の地域でのみ繰り返し起こされてきた。竹内弁護士が担当し津地裁裁判長として「違法」とする判決を行った2件の裁判も、ともに三重県鈴鹿市の処分を巡り、提訴されたものだった。
竹内弁護士は「一部の地域でのみ裁判が起きているということは、他の多くの自治体では実情に合わせ、例外を認めた柔軟な運用がなされている可能性が高い。裁判が起きている地域の担当職員の個別対応に問題があるのではないか」と話す。
「たとえば鈴鹿市は自動車関連産業が盛ん。鉄道や市内を移動するバス、タクシーの利便性も決して高いとは言えず、車社会だ。約20万人が暮らし、生活保護受給者も相当数いると考えられるが、裁判当時鈴鹿市では原告となった2世帯のうち1世帯しか車保有そのものを許されていなかった。これは異常な運用としか言いようがない」
一方、今回の裁判の舞台となっている仙台市は人口109万人を擁する東北最大の都市である。仙台駅周辺のにぎわいを見れば、自動車がなくても十分に生活できそうな地域だと思われるかもしれない。
だが、原告の住む若林区の自家用車保有率は2017年の時点で1世帯あたり1台を上回り、全市平均も同様である。それだけ、生活のあらゆる場面において自動車の必要性が高く、就業先や医療機関、商業施設といった都市機能も、市民の自動車保有を前提として郊外へと拡散してきた。
仙台都市圏では、自家用車を保有していない世帯は約2割に過ぎない。仙台市よりも人口規模の小さな都市、さらに農山漁村部の状況は説明するまでもないだろう。
仙台市宮城野区にある複合商業施設の駐車場の様子(撮影:佐々木佳)
竹内弁護士は、全国的に公共交通機関の減便や廃止が進んでいる現状を踏まえ、こう強調する。
「これまで裁判では、身体障害がある人に車を認めないのはあまりにも酷いという形で争われることが多かった。しかし本質はそこではない。
本来は裁判ではなく国会で議論を
もっとも、竹内弁護士はこの問題を「本来は裁判で解決するべきものではない」とも語る。生活保護と自動車の関係は、制度全体に関わる問題であるからだ。竹内弁護士は、札幌市の対応をけん制したケースのように、国民生活に直結する問題を国が通達でコントロールしようとする現状に疑問を呈し、こう語る。
「生活に直結する問題は、本来ならば国会で議論し、法律として定めるべきだ」
日本弁護士連合会も生活保護法の全面的な見直しを提言している。新たな「生活保障法」のような制度として作り直すべきだという議論もある。自動車利用に関しても、議論すべきテーマとしてたびたび問題提起が行われてきた。
「国会には地方選出の議員も多い。地方の実情を知っていれば、そう簡単に生活保護受給者だからといって『自動車を使ってはいけない』とは断じられないはずだ」と竹内弁護士は話す。
それでも、新たな制度を設けるハードルは低くない。現実には行政の運用に対して個々の裁判で争うしかない状況が続いている。
竹内弁護士は、今回の仙台地裁の訴訟について「裁判所が常識的な判断をすれば原告は救済される可能性は高い」と見る。
生活保護制度は憲法25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活」を支える仕組みである。だが、制定から70年以上を経て、社会は大きく変化した。規定が現実の生活に合わなくなっているのであれば、制度は見直されるべきだ。
自動車を使えるかどうかという問題には、現代における「最低限度の生活」とは何か?という根本的な問いが横たわっているのである。
■佐々木佳
1990年宮城県仙台市出身、在住。フリーのライター、インタビュアー。金沢大学地域創造学類卒業、東北大学公共政策大学院修了後、「岩手日報」記者、社会福祉法人の広報職などを経て独立。東北地方をはじめとする地方圏の社会、経済、カルチャーなどを取材。地域経済を支える企業などの情報発信も手掛ける。主な執筆媒体は『仙台経済界』『ウラロジ仙台』など。

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