原告は、岐阜市が防衛省・自衛隊からの求めに応じ、18歳を迎える市民の個人情報を本人の同意なく提供し、それを基に自衛隊が入隊勧誘のダイレクトメールを送付したことが、憲法13条で保障されたプライバシー権の侵害にあたること等を主張している。
自衛官募集のために自治体から自衛隊へ個人情報を提供することに関する訴訟は、2024年3月に奈良地裁に提起されたものに次いで2件目となる。
市区町村が、自衛隊から入隊適齢者の情報提供を求められた場合、それに応じる形で、適齢者住民(満18歳、満22歳)の個人情報を自衛隊に提供することは、法的観点から許容されることなのか。元総務省自治行政局行政課長、神奈川大学名誉教授で、日弁連の「憲法問題対策本部」の委員を務める幸田雅治弁護士が解説する。(本文:幸田雅治)
閣議決定を受け、防衛省・総務省の自治体への「通知」により運用
そもそも、市区町村による自衛隊への個人情報の提供は、どのような「法的根拠」の下で行われているのか。自衛隊法97条1項は「都道府県知事及び市町村長は、政令で定めるところにより、自衛官の募集に関する事務の一部を行う」と規定している。
また、同法施行令120条は、「防衛大臣は、自衛官の募集に関し必要があると認めるときは、都道府県知事又は市町村長に対し、必要な報告又は資料の提出を求めることができる」と規定している。
2021年12月18日に「令和2年の地方からの提案等に関する対応方針」(以下「2021年閣議決定」という)が閣議決定された。この閣議決定では、「自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要な資料の提出を防衛大臣から求められた場合(自衛隊法97条1項及び同法施行令120条)については、市区町村長が住民基本台帳の一部の写しを提出することが可能であることを明確化し、地方公共団体に令和2年度中に通知する」と定めていた。
そして、2021年閣議決定を受けて、防衛省・総務省は、各都道府県市区町村担当部長宛に「自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について」(2021年2月5日付け)通知を発出した。
同通知の内容は以下の通りである。
1. 自衛官及び自衛官候補生の募集に関し必要となる情報(氏名、住所、生年月日及び性別をいう)に関する資料の提出は、自衛隊法97条1項に基づく市区町村の長の行う自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務として自衛隊法施行令120条の規定に基づき、防衛大臣が市区町村の長に対し求めることができる
2. 上記の規定の募集に関し必要な資料として、住民基本台帳の一部の写しを用いることについて、住民基本台帳法(以下「住基法」という)上、特段の問題を生ずるものではない
「法令の根拠がないこと」の問題(個人情報保護法69条1項)
しかし、この扱いは「法的根拠」に則ったものとは到底言い難い。どういうことなのか、以下、解説する。行政機関の長等が、本来の利用目的以外で個人情報を外部提供できるのは、「法令に基づく場合」のみである(個人情報保護法69条1項参照)。
これは、「国民の権利を制限し義務を課する法規範」については、国会が定めなければならないという「侵害留保原則」(憲法41条参照)を前提としている。
では、個人情報保護法69条1項にてらし、市区町村長による自衛隊への個人情報提供には、どのような「法令」の根拠があるといえるのか。
この点について、2021年閣議決定における政府の見解は、自衛隊法97条1項および同法施行令120条が「法令」に該当すると受け取られかねないものとなっている。
また、個人情報保護法上、適法かどうかに関する個人情報保護委員会(以下「個情委」)の見解も、自衛隊法97条1項および施行令120条は、「個人情報保護法69条1項の法令に基づく場合に該当する」としている。
たしかに、施行令120条の「必要な報告又は資料の提出」の求めに応じることは、一見すると「法令に基づく場合」に該当しそうではある。個人情報保護法69条1項に定める「法令」には法律のみならず政令も含まれるからである。
しかし、この見解は法的に正しいとは言えない。
どういうことかというと、政省令は、法律から委任された事項について、委任の範囲内でしか定めることはできない。また、政令には、法律の委任がない限り、罰則や、国民の権利を制限し、または国民の義務を課するルールを定めることはできない(憲法73条6号、内閣法11条)。
自衛隊法施行令120条の根拠とされる上述の自衛隊法97条1項は、あくまでも事務分掌を定める組織規範であって、個人情報の提供を予定した内容ではない。
そうである以上、施行令120条は、自衛隊の募集に係る各自治体の法定受託事務が円滑に行われているかどうかを確認する目的で定められたにとどまると解するほかはない。
したがって、自衛隊が地方公共団体に個人情報を提供することについて、自衛隊法等に明文で提供を許容する根拠(政省令への委任)がない以上、保有個人情報の提供は「法令」の根拠がなく、許されないはずである。
そうであるにもかかわらず、市町村が、「法令に定めがある」と間違った解釈をして保有個人情報を提供することは違法な対応と言わざるを得ない。
「個人情報保護法ガイドライン」とも矛盾
個情委は、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(行政機関等編)」(2022年4月改訂)において、「具体的な情報の利用又は提供に着目せず行政機関等の包括的な権能を定めている規定がある場合に当該規定のみに基づいて行う個人情報の取扱いは、『法令に基づく場合』には当たらない」(5-5-1)と説明している(※)。先に述べた個情委自身の見解は、この説明と矛盾すると言わざるを得ない。※個人情報保護法ガイドライン(行政機関等編)P.29参照
日弁連は、「個人情報保護委員会に関する個人情報保護法の改正及び運用の改善を求める意見書」(2025年2月20日)において、自治体の自衛隊への個人情報の提供に関して、「個情委の個人情報保護法の解釈は場当たり的になっている疑いがある」と批判している。
さらに、個情委の間違った見解を前提した場合でも、個人情報保護法との関係で、個人情報の提供が違法にならないということにとどまり、各地方公共団体の判断として提供に応じるかどうかは自主的に決めることができる。
自治体による自衛隊への名簿提供に関して、個情委から、この点についての言及はされておらず、個人情報の保護を第一の任務とする個情委の見解として明らかにバランスを欠く不当かつ不適切なものである。
本来強制力のない提供要請であるにもかかわらず、地方公共団体が提供を拒否しにくい状況になりつつあることは、大変懸念される事態である。
「プライバシー侵害、思想・良心の自由の侵害」の問題(個人情報保護法69条2項)
上述した個人情報保護法69条1項の例外として、「本人の同意があるとき」には個人情報を目的外で利用・提供することが許される(同法69条2項1号)。自治体が保有個人情報を提供することができるとしたら、その根拠は、この規定に基づく「本人の同意」以外にはないと考えるべきである。
そうすると、同意を得ないで自衛隊に対して個人情報を提供することは、「プライバシーに係る情報」を侵害し得ることになり(最高裁平成15年(2003年)9月12日判決参照)、思想・良心の自由の侵害にもつながり得るものと言える。
この点について、大阪府交野市、岡山県岡山市など一部の地方公共団体では、ホームページ上で、自衛隊への情報提供を希望しない者は「除外申請」できるとしている。
この方式(オプトアウト方式(※))では、本人の同意を得たことにはなり得ない。そもそも行政機関等に対する規律には、個人情報取扱事業者のようなオプトアウトを許容する規定(法27条2項参照)がない。それに加え、除外申請をした者の思想信条を推知する材料として使われることにもなりかねない。
※本人の明確な同意がなくても、本人が拒否しないうちは、個人情報の外部提供を可能とする方式
あるいは、広報誌で、除外申請できることを周知している自治体もある。しかし、HPをいつも見ている住民が少数であるのと同様に、自治体の広報誌を細部までしっかりと読んでいる住民も少数である。
それ以前に、そもそも、ホームページや広報誌で周知したからといって、本人の同意(黙示の同意)を得たということにはまったくならないのは自明の理である。
保有個人情報の自衛隊への提供を「本人の同意」によって行おうとするのであれば、本人たる住民一人ひとりに適切な説明が与えられ、能動的な同意が得られた上でなければならない。このことを自治体は十分に理解する必要がある。
「自治体による違法行為」が国民に正しく認識されていない
自治体による自衛隊への名簿提供について、法的観点からの問題点を考察してきた。侵害留保原則に反し、個人情報保護が蔑ろにされ、個人のプライバシーが侵害されること、思想信条の自由を侵害しかねないことなど、重要な法的問題があることが明確になったかと思う。個人情報を自衛隊に提供していない自治体は問題ないが、自衛隊に個人情報を提供している自治体の対応は、幾重にも違法であると言える。
折しも、北海道弁護士連合会は3月26日、「自衛隊への個人情報提供に関する意見書」を公表し、自治体に対して、個人情報の提供について、個別に本人の同意を得ることなく行わないよう求めた。自治体自身が、誤った対応を即座に改めることを求めたい。
現在、全国的にこのような違法行為が行われていることについて必ずしも国民に正しく認識されていない。しかし、正しい理解が国民に広がり、早急に取扱いが改善されることを期待したい。
■幸田 雅治(こうだ まさはる)/神奈川大学名誉教授、弁護士
1979年東京大学法学部卒業後、自治省(現総務省)入省。以後、内閣官房内閣審議官、総務省自治行政局行政課長、総務省消防庁国民保護・防災部長等を歴任。2014年から2026年まで神奈川大学法学部教授。2013年に弁護士登録。日本弁護士連合会自治体等連携センター委員ほか。主な編著書に、『地方自治論』(法律文化社、2018年)、『「地方自治の本旨」を侵害する補充的指示権』(日本評論社、2026年)

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