薬局の「零売」めぐる国賠訴訟、結審のはずが…裁判官が“全員交代”でまた延期 「本当に大丈夫か?」原告は困惑
処方せんがない患者にも医薬品を薬局で販売する「零売(れいばい)」が法律の根拠なく「通知」だけで規制されていることは違憲・違法であるとして、薬局が国を相手取り、地位の確認や損害賠償を求めて提訴した訴訟の第6回口頭弁論期日が4月22日に開かれた(東京地裁)。
原告側によると、本来、今回の期日で結審の予定だった。
しかし裁判所の合議体を構成する3人の裁判官が全員、直前に交代したことから、改めて意見陳述を行うに至った。
昨年5月に成立した改正薬機法には、零売を原則的に禁止する内容が含まれており、この内容は来年5月までに施行される。判決を急ぐ原告側は、異例の事態に「困惑している」と語った。

処方せんがなくても医薬品を購入できる「零売」制度

医師の診察を受けたうえで処方される「医療用医薬品」は「処方せん医薬品」と「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」に分けられており、前者については薬機法(※)により「薬局などの販売業者は、医師から処方せんの交付を受けた者以外に対しては正当な理由なく販売してはならない」とされている。
※医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
一方で「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」の販売については、現時点では法律による規制はない。しかし、厚労省は「通知」を出すことで、これらの医薬品の販売や広告に対する具体的な規制を実施してきた。冒頭で述べた改正薬機法の内容は、これを法律に基づく正式な禁止とするものだ。
現在、ほとんどの薬局は、処方せんがない場合には「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」を販売していない。しかし、一部の薬局は処方せんがない場合にも販売する、「零売(れいばい)」と呼ばれる行為をしている。
本訴訟は、零売を行う薬局の運営に関わる三社が、法律ではなく通知によって零売が規制されているのは違憲・違法であるとして、国に対し、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」の販売等ができる地位の確認、および損害賠償を請求したもの。

当初から延期が続く…「国は裁判を遅延させるつもりではないか」

そもそも、本訴訟は昨年1月に提訴された。そして第1回期日は4か月後の5月に開かれたが、この期間の長さは異例だという。
そして提訴から第1回期日の間に、国会では改正薬機法が成立してしまっている。原告側弁護団長の西浦善彦弁護士は昨年5月の時点で「国は改正薬機法が実際に施行されるまで裁判を遅延させるつもりではないか」と疑っていた。

くわえて、今回のように結審の直前で裁判官が3人とも交代するのは、弁護士としての経験が17年間にわたる西浦弁護士としても初めての事態だという。
「裁判官の間で、引き継ぎというものはほとんど行われない。裁判を通じて培ってきた議論や心証も、引き継がれない。
(それでも)新しい裁判官たちには、あえて期待したい。私たちの主張を慎重に見たうえで、改めて検討したいから、新しい裁判官たちは時間をかけているのだと、期待したい」(西浦弁護士)
原告の一人である、「長澤薬品」代表の長澤育弘氏は以下のように語った。
「最初の審議(期日)が始まるまでにも時間がかかったのに、やっと結審するかと思ったら裁判官が全員変わる。『本当に大丈夫か?』と思ってしまう。
原告としても、異例なこと尽くしのこの裁判には、だいぶ困惑している。
とはいえ、今日の意見陳述で、新しい裁判官は私たちの目を見て話してくれた。期待したい」(長澤氏)
薬局の「零売」めぐる国賠訴訟、結審のはずが…裁判官が“全員交...の画像はこちら >>

医薬品について説明を行う長澤氏(左)、山下氏(右)(4月22日都内/弁護士JPニュース編集部)

「必要としている人々のために零売を続けたい」

原告の一人である「まゆみ薬局株式会社」代表の山下吉彦氏は、意見陳述で以下のように訴えた。
「『仕事が忙しくて病院に行く時間がなく、もう何日も頭痛を我慢していた』と駆け込んでくる会社員の方。『子供が急に熱を出したが、夜間でどこも開いていない』と不安に震えるお母さん。
『パートが終わってから病院に行こうと思っても診察時間が終了している。かと言ってパートを休んで行くこともできない』(という)一人親家庭のお母さん。
私たちは、そんな彼ら一人ひとりの話に耳を傾け、薬歴を確認し、リスクを説明したうえで、必要最小限の薬をお渡しします。(…中略…)
正直に申し上げますと、零売は、決して楽に儲かるビジネスではありません。医療用医薬品の仕入れ価格は高騰していますし、保険診療のような調剤報酬もつきません。在庫リスクを抱え、極めて薄い利益の中で、それでも店舗を維持しています。
なぜそこまでして続けるのか。それは、私たちが『必要とされている』と肌で感じているからです。既存の医療システムからこぼれ落ちてしまう人々を、最後の一線で支えているという自負があるからです。
もし零売が否定されれば、私たちのような小規模な薬局は立ち行かなくなるでしょう。しかし、それ以上に問題になるのは、私たちの薬局を頼りにしてくれている地域の方々の行き場がなくなることです。
私たちは、医師と対立したいわけでも、医療制度を壊したいわけでもありません。
ただ、目の前で困っている人に、薬剤師としての職能を使って手を差し伸べたい。その一心で、今日まで歯を食いしばってやってきました。
どうか、現場の薬剤師が抱くこの使命感と、零売薬局を頼りにしている患者様の切実な声を、判決に反映していただきたいのです。私たちは、地域医療の一員として、胸を張って続けたいのです」(山下氏の意見陳述書から)
原告側は、零売規制は憲法における「職業選択の自由」や「表現の自由」に違反すると主張している。もし訴訟の結果、違憲と認められた場合には、改正薬機法による規制も正当化されず、同法の施行後にも零売が改めて合法となる可能性がある。
次回の期日は6月。次で結審となるかどうかも、未定だという。


編集部おすすめ