スタートアップは、歴史ある企業と比べて規模や知名度、事業フェーズが大きく異なるため、採用活動においても独自の戦略が求められます。「企業規模や知名度ゆえに応募がなかなか集まらない…」とお悩みの人事・採用担当者もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、スタートアップが採用を成功させるために知っておきたい、採用戦略について解説します。自社で活躍できる人材を採用したい人事・採用担当者の方は、ぜひご一読ください。
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スタートアップとは
スタートアップは、新しいビジネスモデルによって市場を開拓し、短期間での急成長を目標とする企業のことです。社会への新たな価値観の提供や、社会貢献によって事業の価値を短期間で高め、株式上場や事業売却を目指します。
元々は、アメリカのシリコンバレーを中心に「設立されたばかりの企業」の意味でスタートアップという言葉が使われていました。
なお、スタートアップで採用を考えるに当たっては、最大の特徴である「新しいビジネスモデル」でありながら「短期間での急成長を目指す」という点が主にネックとなります。つまり、知名度が低い状態であるにもかかわらず、即戦力となる人材が必要だということです。
スタートアップの採用が難しい3つの理由|知名度不足・人材リソース不足・売り手市場
スタートアップは、大手企業や歴史のある中小企業と比較すると、知名度やリソースの点で不利であるため、採用活動がスムーズに進まない場合があります。特に求人数よりも転職希望者数の方が多い「売り手市場」の昨今では、スタートアップにこそ必要な即戦力となる人材も、大手企業を選ぶことが考えられます。
事業が成長途中であるため、採用活動にあたれる人員が限られており、採用活動にだけ集中することが難しい…といった事情もあるでしょう。
とは言え、スタートアップの採用もポイントを押さえれば、成功する可能性は十分にあります。
スタートアップが採用を成功させる8つのポイント
売り手市場の中で、スタートアップが採用活動を成功させるためには、スタートアップだからこそ意識すべきポイントを押さえることが大切です。以下のポイントを確認し、自社の採用戦略を考えましょう。
スタートアップが採用を成功させるポイント
①スタートアップに合う「採用ペルソナ」を設計する
②転職希望者に響くメッセージを設計する
③採用活動の「量」で差別化を図る
④転職潜在層にアプローチする
⑤採用CX(候補者体験)を重視する
⑥スカウトやDMを活用した攻めの採用をする
⑦採用ブランディング強化にホームページとSNSを活用する
⑧志望度を高めるカジュアル面談を実施する
①スタートアップに合う「採用ペルソナ」を設計する
まずは採用活動の大前提として、採用ペルソナを定めます。例えば、以下のような項目を細かに設定しましょう。
採用ペルソナで考えたい項目の一例
●出身大学
●家族構成
●居住地
●休日の過ごし方
●現職の職種・収入
●転職理由や将来のビジョン
●考え方や性格
なお、採用ペルソナはあくまで、関係者間で具体的なイメージを共有するために設定するものです。そのため、出身大学や家族構成など、仕事と直接関係のない要素で実際の採用を判断してはなりません。
採用ペルソナを考えるに当たって、特にスタートアップの場合は、事業成長のためにPDCAを高速で回せる人材であることが望ましいです。採用ペルソナには「環境の変化をポジティブに捉えられる」「論理的思考力がある」など、スタートアップ適性に直結する要素を取り入れましょう。
(参考:『採用ペルソナとは?設定ノウハウや手順・具体例をまとめて紹介【テンプレート付】』)
②転職希望者に響くメッセージを設計する
求人広告やスカウトメール、面接など、転職希望者に自社の想いを伝える場面はいくつかあります。その際に伝えたいメッセージを明確にすることも大切です。
自社が事業へ込めている想いや社会に貢献したいこと、ビジネスモデルの強み、また競合に勝てる部分などを改めて洗い出しましょう。これらの情報を整理することで、転職希望者に伝えるべきメッセージが浮かび上がります。
(参考:『有名スタートアップ2社の立ち上げ期や創業にも参画。優秀な人事への近道は「縦軸と横軸」のキャリア形成-私のルール【河合聡一郎】』)
③採用活動の「量」で差別化を図る
スタートアップが採用活動で名だたる企業に勝つには、活動量で差をつける、つまり転職希望者に粘り強くアプローチすることが必須といえます。
「スタートアップはリソースに余裕がない」という実情はあるものの、採用を成功させたいのであれば、可能な限りリソースを割きたいものです。なぜなら、スタートアップが行う施策は大手企業も取り組んでいるためです。知名度や資金面で不利なスタートアップが、同じ施策に取り組んでいるライバルに勝つには、「量」でアプローチすることは重要です。
具体的には、「スカウトメールの送信時間や文面でABテストを実施し、勝ちパターンを見つける」「求める条件に合う人材には、妥協せずにスカウトメールを送る」などが挙げられます。粘り強く続けるうちに開封率が高い時間、曜日などの傾向や文面の勝ちパターンなどを見つけられるでしょう。
④転職潜在層にアプローチする
採用活動を行う以上は、すでに転職活動を始めている、いわゆる「転職顕在層」を対象にすると思います。しかし顕在層だけでなく、まだ転職活動を本格的には考えていない「転職潜在層」にもアプローチすることで、一人でも多くの転職希望者と出会えるチャンスが生まれます。
知名度の低いスタートアップは、多くの転職希望者に自社の存在を知ってもらう認知度拡大が必要です。例えば副業として参画してもらうことや、PR活動に注力するなどさまざまな施策で認知してもらうことで、その潜在層が顕在層となったとき、自社の存在を思い出してもらえます。
また、ダイレクト・ソーシングも有効なアプローチ方法の一つです。昨今の傾向として、スカウトメールで良い求人があれば転職しようといった理由で求人サイト等に登録する転職潜在層も増えています。ダイレクト・ソーシングでは、企業が直接転職希望者にアプローチするため、特定のスキルや経験を持つ転職潜在層に対しても効果的にアプローチできます。
⑤採用CX(候補者体験)を重視する
採用活動を行う上では、「採用CX(候補者体験)」というキーワードも意識しましょう。採用CXとは、転職希望者が自社の存在を認知してから、選考を終えるまでの一連の流れを企業が設計することを指します。
この採用CXを考えるにあたり、重要なことは、転職希望者が「この企業の選考を受けて良かった!」と感じられるような内容を設計することです。転職希望者一人ひとりへの手厚いフォローの提供により、選考途中や入社承諾前の辞退を減らせる可能性があります。
(参考:『採用CX(候補者体験)とは?注目される理由や実施する4つのメリット』)
⑥スカウトやDMを活用した攻めの採用をする
採用手法にも着目すると、スタートアップの採用戦略がより確度の高いものとなります。具体的には、ダイレクト・ソーシングのような「攻め」の採用手法を取り入れることがお勧めです。
求人広告を掲載するだけといった一般的な手法では、スタートアップの場合は大手企業の求人広告に埋もれてしまうことが考えられます。そのため、求人広告を上位に表示させるプランの利用や、一定数の転職希望者に自社への興味を抱かせるには、スカウトメールを活用するなど企業からの能動的なアプローチが必要なのです。
(参考:『その求人票やスカウトメールは大丈夫?採用決定のために無料で今すぐできる5つの対策』)
⑦採用ブランディング強化にホームページとSNSを活用する
自社の存在をより多くの転職希望者に知らせ、さらに「魅力的な企業だな」と感じてもらうためには、採用ブランディングも欠かせません。自社のホームページやSNSアカウントでコンテンツを更新し、転職希望者との接点をつくることが大切です。
例えば、社内の日常の光景や先輩社員へのインタビュー、経営者の想いなど、自社の「リアル」が伝わる情報を定期的に発信しましょう。
⑧志望度を高めるカジュアル面談を実施する
1次面接の前に「カジュアル面談」と呼ばれるものを実施すると、自社と転職希望者のミスマッチを減らせる可能性があります。
カジュアル面談とは、企業と転職希望者が相互理解を深めるために行う面談のことです。面接と異なり、選考の合否に関係しないことが一般的で、転職希望者が気になっていることに企業が答えたり、企業が事業内容について説明したり…といったコミュニケーションを取ります。
特に知名度の低さが原因で、転職希望者に魅力が伝わりにくいスタートアップの場合は、カジュアル面談によって転職希望者の志望度を高められることが期待できます。
(参考:『カジュアル面談とは?採用面接との違いや実施するメリット・当日の流れを解説』)
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スタートアップの採用担当者に求められる3つのスキル
スタートアップの採用活動の成功には、人事・採用担当者自身の能力も大きく関わっています。以下で紹介する3つの能力・知識を身に付けましょう。
スタートアップの採用担当者に求められる能力
①調整力
②コミュニケーション力
③採用マーケティングの知識
①社内外と連携して動ける「調整力」
スタートアップの人事・採用担当者には、「調整力」つまり関係者間の意見やスケジュールを適切に調整し、採用活動を円滑に進める能力が欠かせません。なぜなら、スタートアップは小規模故に採用に割けるリソースに限りがあるためです。
時には、人事・採用担当者だけでなく、経営陣や現場の社員との連携や協力関係の構築が必要な場合もあります。
そのようなときも、スムーズに採用活動を進めるため、人事・採用担当者には調整力が必要なのです。
②自社の想いや事業を伝える「コミュニケーション力」
もちろん、コミュニケーション力も必須です。カジュアル面談や採用面接で転職希望者の本音を引き出し、価値観を見極めるには、コミュニケーション力が何よりも大切です。
また同時に、転職希望者一人ひとりに自社の想いや事業内容を適切に伝えることも求められます。
③採用成果を最大化する「採用マーケティング」の視点
採用活動の場で、「採用マーケティング」と呼ばれる新しい概念が台頭していることをご存じでしょうか。採用マーケティングとは、顧客による商品・サービスの購入をゴールとしたマーケティングの考えを、採用活動に取り入れたものです。
スタートアップの採用でも、この採用マーケティングが非常に重要となります。
マーケティングの過程では、顧客の心理や行動を理解した上で、商品・サービスの魅力を伝える方法を考えます。採用活動でも同様の考え方を取り入れることで、自社の認知を獲得し、転職希望者の志望度を高められるのです。
(参考:『採用マーケティングとは|得られるメリット・実践のためのステップを紹介』)
スタートアップに適した7つの採用手法
もし、すでに採用活動を始めているものの、思うような結果が得られていないのであれば、スタートアップに適した手法に切り替えると良いかもしれません。以下で紹介する手法のうち、自社で取り組みやすいものを選びましょう。
スタートアップに適した採用手法
①スクラム採用
②リファラル採用
③ダイレクト・ソーシング
④ソーシャルリクルーティング
⑤オウンドメディア採用
⑥求人広告
⑦人材紹介サービス
全社巻き込み型の「スクラム採用」
人事・採用担当者だけでなく、現場の社員も採用プロセスに携わり、全社的に採用に取り組む手法を「スクラム採用」といいます。スタートアップは社員数が少ない企業も多いため、スクラム採用に取り組むことで、人事・採用担当者一人に負担が集中することを防げます。
(参考:『スクラム採用とは|リファラル採用との違いやメリット・デメリットを解説』)
社員紹介を活用する「リファラル採用」
すでに自社ではたらいている社員に、知り合いの転職希望者を紹介してもらう「リファラル採用」もスタートアップに向いている採用手法です。リファラル採用は、ほかの採用手法と比べて費用がかからない上、転職希望者のスキルや実績を確認しやすいというメリットがあります。
ただし当然ながら、「そもそも社員の知り合いに転職希望者がいて、なおかつ自社の求める人材像と一致するか」は確約されていません。また、ほかの採用手法と比較するとアプローチできる人数が少ないという点には注意が必要です。
(参考:『リファラル採用とは?導入のメリット・デメリット、運用のポイントを紹介』)
スキルマッチ度を高める「ダイレクト・ソーシング」
先ほど、「スタートアップが採用を成功させる8つのポイント」の章で、スタートアップの採用戦略では、企業側から転職希望者にアプローチする「攻め」の採用手法が良い、と解説しました。希望条件に一致する転職希望者にスカウトメールを送り、企業から接触するダイレクト・ソーシングは、まさにスタートアップにうってつけの「攻め」の採用手法です。
あらかじめ対象の転職希望者を絞り込み、自社からアプローチすることで、採用活動を効率的に進められます。
(参考:『攻めの採用「ダイレクト・ソーシング(ダイレクトリクルーティング)」とは?』)
SNSで自社の魅力を届ける「ソーシャルリクルーティング」
SNSを通じて採用広報を行ったり、転職希望者とコンタクトを取ったりする「ソーシャルリクルーティング(SNS採用)」も、スタートアップの採用活動にお勧めです。
SNSのアカウント作成や投稿は基本的に無料なので、費用を抑えて採用活動を進められます。また、自社の存在を知らなかった転職希望者にも、自社の文化や事業内容などを届けて、興味を持ってもらえる可能性がある点も大きな強みです。
(参考:『ダイレクトリクルーティングとは?人材紹介サービスとの違いや導入のメリット』)
情報発信で差別化する「オウンドメディア採用」
インターネットを通じた採用ブランディングという点では、自社のオウンドメディアを活用する手法も挙げられます。
例えば、プロダクトへのこだわりや、自社ならではのカルチャーを紹介するコンテンツを蓄積することで、転職希望者に詳細な情報を届けられるでしょう。長期的に運用を続ければ、SEO(検索エンジン最適化)も強化され、検索経由でのユーザーの流入も期待できます。
ただし、本格的なオウンドメディアの立ち上げ・運用には一定の時間と労力を要します。そのため、オウンドメディアの運用は長期的なプロジェクトとして取り組みつつ、ほかの採用手法と組み合わせると良いでしょう。
媒体選びが重要な「求人広告」
一般的な採用手法として知られる、求人広告の活用もスタートアップの採用戦略として挙げられます。ただし、スタートアップが求人広告を検討するのであれば、媒体選びが非常に重要です。
特にスタートアップの場合は、自社の文化や特性に興味を持つ転職希望者が利用している媒体を選ぶことがポイントです。自社にマッチした人材に対して、広告を出すことで、より効率的に応募を集めることができます。また、経営陣クラスのスキルのある人材を招聘(しょうへい)したい場合はハイクラス人材向けの媒体を選ぶなど、転職希望者に求めるスキルやポジションによって媒体を選ぶこともお勧めです。
(参考:『知っておきたい求人広告のメリット・デメリットと費用対効果を高める方法』)
マッチング精度が高い「人材紹介サービス」
人材業界のプロに、自社に合う転職希望者を紹介してもらえる「人材紹介サービス」もスタートアップの採用に向いています。
人材紹介サービスを活用する際は、単に条件を伝えるだけでなく、自社の文化やビジョン、成長性などを明確に伝えることが重要です。こうした情報を提供することで、自社にマッチした転職希望者を紹介してもらいやすくなり、求める人材の採用につながります。
また、担当者が転職希望者に対し、第三者の視点で自社の魅力を伝えてくれるというメリットもあります。これにより、知名度の低いスタートアップであっても転職希望者に「この会社なら入ってみたい!」という気持ちを抱かせることが期待できます。
(参考:『人材紹介サービスとは?人材派遣との違いや手数料をわかりやすく解説』)
スタートアップが採用すべき人材の3つの条件
最後に、スタートアップが採用すべき人材の条件をお伝えします。成長途上の組織だからこそ、以下の条件に当てはまる転職希望者を採用したいところです。
スタートアップが採用すべき人材
①成長意欲の高い人
②自分で意思決定できる人
③企業の理念に共感してくれる人
成長意欲の高い人
まず求めたい条件は、「ビジネスパーソンとしてもっと成長したい!」という想いを抱いている、成長意欲の高い人材であることです。
スタートアップはその性質上、企業として短期間での急成長を目指しています。そこで働く社員もまた、高い視座を持ち、常に上を目指す人材であることが望ましいです。
自分で意思決定できる人
自分で意思決定する勇気があり、なおかつ素早く判断できる人材もまた、スタートアップで採用すると良いでしょう。
ほかの企業と比べると、スタートアップは企業として途上段階であるため、「上司や先輩に判断を仰ぐ」といった一般的なフローが構築されていない場合があります。また、新たな市場の開拓にチャレンジしている以上、前例のないことを判断しなければならない場面も多いでしょう。
そのような環境下で、迅速な意思決定を下せる人材を採用できれば、事業の成長をより加速させられます。
企業の理念に共感してくれる人
スタートアップの採用では、自社の掲げるミッションやビジョンに共感してくれる人材であることも求めたいところです。
ミッション・ビジョンに共感していることで、日々の業務を自分ゴト化として捉えられます。また、イレギュラーな状況や何らかのトラブルが発生した場合も、ミッション・ビジョンに共感しており、会社への帰属意識があれば、「会社のために、この状況を何とか乗り越えよう」という気持ちで向き合ってくれるはずです。
特に、環境が変化する機会が多く、イレギュラーもまた多いスタートアップでは、このような人材が求められます。
スタートアップ採用は「攻めの姿勢」と「戦略的手法」が大切
今回は、スタートアップの採用戦略を考えるにあたり大切なポイントをお伝えしました。
スタートアップは即戦力人材を求める一方で、知名度やリソースの面で大手企業に埋もれやすいという課題を抱えています。そのため、頻度の高いアプローチや「攻め」の採用手法など、能動的な戦略を取ることが採用成功の鍵となります。
さらに、自社のフェーズやリソースに合った採用手法を選定することも重要です。本記事を参考に、スタートアップならではの強みを活かした採用戦略を構築していきましょう。
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(制作協力/株式会社eclore、編集/d’s JOURNAL編集部)