さまざまな業界・領域で経営戦略や組織体制の変革が求められる中、その担い手となる「エグゼクティブ人材」の招聘(しょうへい)を重要課題とする企業が増えています。ただ、エグゼクティブ人材採用では経営層との信頼関係構築やビジョンの共有、組織との親和性の見極めなど、さまざまなポイントが重要になってきます。
顧客企業のデータ利活用をプロダクトやコンサルティング事業で支援する株式会社primeNumberでは、IPOを見据えた体制強化の一環として、エグゼクティブ人材採用に取り組んでいます。同社では経営トップが自ら採用責任者となり、経営ボードメンバーと候補者が丁寧な対話を重ねるスタイルが根付いているといいます。
同社では、なぜこうしたアプローチが可能となったのでしょうか。エグゼクティブ人材採用を支える人事部門のキーパーソンに、その実践知を聞きました。

経営体制強化に向け、代表自身が「エグゼクティブ人材採用プロジェクト」を主導
──primeNumberがエグゼクティブ人材採用に取り組む背景や狙いをお聞かせください。遠藤氏:当社は、法人顧客のデータ利活用を通じた企業成長を支援するために、プロダクトとコンサルティングの両軸で事業を展開しています。プロダクト面では、データの統合を支援する「TROCCO」(トロッコ)と、データ基盤に蓄積されたデータを可視化・活用する「COMETA」(コメタ)を提供。これらに加え、顧客企業の経験値や知見に応じて、人の手によるコンサルティングにも注力しています。
こうした事業の成長に伴い、現在はIPOを見据えた経営体制の強化も進めており、それをけん引していただける方を求めています。
約1年前にはマーケティング領域のVPを採用し、直近ではCFOを迎え入れました。今後も事業計画が固まるタイミングで、新たなポジションでも採用していく予定です。
──エグゼクティブ人材採用のプロセスでは、メンバー層の採用と比べてどのような違いがあるのでしょうか。石川氏:エグゼクティブ人材採用では代表取締役CEOがプロジェクト責任者となり、人材要件の設定からカジュアル面談、オファー面談、受け入れまで一貫して主導しています。CxOやVPクラスは経営課題に直結するポジションであり、最も俯瞰的に見て最適なミッションを渡せるのは代表だと考えています。
遠藤氏:創業当初は専任の人事・採用担当がいない時代もあり、代表や役員が外部から人材を連れてきて自社の成長につなげていたんです。採用するポジションが経営に近い領域になればなるほど、その文化が今も色濃く残っているように感じます。私たち人事の立場としても、代表がエグゼクティブ人材採用に強力にコミットしてくれるのはとてもありがたいことです。
面談回数に制限なし。「バリュー」を起点に候補者との相互理解を深める
──エグゼクティブ人材採用における具体的な工夫点についてお聞かせください。石川氏:当社のエグゼクティブ人材採用では、「面接」ではなく「面談」を重ねるスタイルを採っています。回数は事前に定めておらず、候補者ごとに最適な面談回数を設定していますね。

遠藤氏:候補者の属性やレイヤーによっては、代表をはじめ、経営ボードメンバー全員が会うケースもあります。また、入社後に密接に関わるマネージャー陣と面談していただくことも多いですね。
石川氏:こうした面談では、当社の経営課題を網羅的に開示しているのも特徴です。
遠藤氏:こうしたプロセスを経ることで、候補者は当社の課題を深く理解し、入社後にどうアプローチすべきかを具体的に考えられるようになります。「この課題を解決すれば、社会にどう貢献できるか」という観点で共感してもらえるかが、最終的な判断軸となっていますね。
──エグゼクティブ人材の採用において、御社は入社承諾率が高いと聞きました。その秘訣はどこにあるのでしょうか。遠藤氏:要因は、当社が「バリュー」を最重要視していることではないかと考えています。企業の多くはミッション・ビジョン・バリューの順で重視しますが、当社はあえてバリューを起点とした経営を行っています。
バリューでは「課題を起点に」など、当社が大切にする価値観を示しており、これらを最も体現しているのが経営ボードメンバーです。選考過程でそのボードメンバーに直接会い、「この人と働きたい」と思っていただけることが、採用上の競争力につながっているのだと思います。
石川氏:バリューを起点にして、挑戦的なビジョンを共有していることもポイントだと考えます。私たちが挑んでいるテーマは非常にスケールが大きく、そうしたチャレンジに向き合えることが、そのまま候補者にとっての自己成長の可能性にもつながり、「自分の力を試してみたい」と思える環境として捉えていただけているのではないでしょうか。
遠藤氏:また、CFOの採用プロセスでは、候補者と代表が長期戦略について議論を深めるような場も設けられました。

候補者・人事・経営層・人材紹介サービス担当者で「マインドと温度感をシンクロさせる」
──こうした採用プロセスを実践していく上で、人事・採用担当者として重要視していることは。遠藤氏:前述の通り、当社におけるエグゼクティブ人材採用のプロセスとは「経営ボードメンバーと候補者が対話する場の積み重ね」です。人事としては、そのための最適な場づくりに貢献したいと考え、双方が最も良い状態でありのまま会話できるように調整しています。
たとえば、1次面談で盛り上がって「もっと話したい」と思っていただいても、次の面談機会が1カ月半後では機会損失になってしまうかもしれません。できる限り早く次の接点をつくるよう心がけています。
石川氏:採用に関わる社内関係者への情報共有も重要です。ただ日程調整をして「お願いします」ではなく、「候補者は何に魅力を感じていて、どこに懸念があるか」などを丁寧に共有し、仮説を持って面談に臨んでもらうようにしています。
人事・採用担当者が面談に同席しない場合でも詳細な状況確認は欠かしません。面接というリアルな場所でも、面接後に状況をテキストなどで共有されるときであっても、採用に関わる人同士の考えや想いを共有し、合わせていくことが重要なんです。これは難度の高い仕事ですが、だからこそ候補者に常に関わり続けることを大切にしています。
──人材紹介サービス担当者との連携では、どのような点を重視していますか?
石川氏:採用に関する情報だけでなく、経営課題や事業課題も積極的にシェアしていますね。一緒に課題を解決していくために、「採用という手段」をどう活用するかを話し合っています。
遠藤氏:信頼関係を築いている人材紹介サービス担当者とは、頻繁に会話し、2週間に1回の定例打ち合わせも行っています。ポジションに動きがないときでも、事業の最新状況を常に共有し、アップデートしてもらうようにしていますね。こうしたやりとりを重ねることで、いざ採用に動くときには準備万全の状態でスタートできます。
人材紹介サービス担当者は社外の方ですが、私たちにとっては本当に重要なパートナーです。経営課題や事業課題への理解が一致し、一体感を持って互いにタイムラグなく動けることが大切だと考えています。
「火をともせる人」が加わり、チーム全体に活気が生まれた
──エグゼクティブ人材を招聘することで、組織にはどのような変化がもたらされましたか?遠藤氏:選考中のやりとりを通じて、経営ボードメンバーの視座や議論のレベルは確実に高まってきていると感じています。たとえば前述したCFOのケースでは、ファイナンスだけでなく、事業成長にも強みを持つ方を迎えることができました。その結果、売上の伸ばし方や、それを支える組織の在り方といった議題が活発に出るようになり、意思決定も迅速になりました。
石川氏:マネージャー以下の社員にも変化が出ています。部門のトップが変わると、チーム全体の空気が変わるんです。豊富な実績を持つ方が加わることで、現場にも「これならやれそうだ」という実行力への自信が生まれてきていると感じます。こうした組織全体の士気を高めるような「火をともせる人」の存在は本当に大きいですね。
石川氏:採用活動のスタンスは今後も変えず、どれだけ組織が大きくなっても、候補者と誠実に向き合う姿勢を貫きたいと考えています。人こそが企業成長のキードライバーですし、そこにはこれからもコミットしていきたいです。現時点では代表がエグゼクティブ人材採用の責任者を担っていますが、将来的には経営ボードメンバーそれぞれが次世代の採用において責任を持ち、動いていけるよう支えていきたいと思います。
遠藤氏:新たなエグゼクティブ人材が加わることで、会社は事業面でも組織面でも次のステージに移行します。そうなると「次に必要なエグゼクティブはどんな人か」という議論も生まれます。これからは、次世代のリーダー候補も必要になるでしょう。今のエグゼクティブ人材の背中を見て、「自分も社会やユーザーにこんな価値を届けたい」と思える人材が育つ土壌をつくっていきたいと考えています。

取材後記
取材の中で印象的だったのは、遠藤さんや石川さんが経営層と目線を合わせるための努力も重ねていることでした。人事部門の立場では、経営層と直接対話する時間がなかなか取れずに悩んでいる人もいるかもしれません。お二人からは「わからないことを聞くのをためらわず、経営層との会話量を増やすことが大切」「事業部のミーティングに出たり議事録を読んだりと、社内には学ぶ手段がたくさんあるはず」というアドバイスも。こうした取り組みがあるからこそ、人事と経営層、ひいては人材紹介サービスが効果的に連動し、候補者を惹き付けられるのだと感じました。
企画・編集/森田大樹、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/宮本七生
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