ホンダ28年ぶり首位 逆輸入車から見るインド自動車産業の実力
ホンダ車初、インド製を日本に

ホンダ車初、インド製を日本に

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3月22日、ホンダはインドで生産するSUV(スポーツ用多目的車)「WR-V」(インドでは別の車名)を日本で発売した。アメリカや中国などから逆輸入するホンダ車はこれまであったが、インド製は初めてとなる。

発売から1カ月の受注台数は約13,000台で、販売計画台数(月3,000台)の4倍超と好調な立ち上がりとなった。

ほぼ同じサイズのSUV「ヴェゼル」と比べ、50万円ほど価格帯を低くしたことが消費者の購買意欲を刺激している。

既存部品流用でコスト低減

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既存部品流用でコスト低減

強い価格競争力を支えているのは、ほかでもない、インド製であることだ。現地の部品を多く採用することでコストを抑えた。現地で販売している別の車種と同じシートを流用するなど既存部品も多く採用している。

インドでは昨年9月から販売しており、日本は遅れての投入となるが、もとからインドで生産しインド国内だけでなく日本でも販売することを前提に開発された。一般に、新興国産の逆輸入車は、販売国日本よりも生産国のニーズに合わせた仕様になりやすく、低コスト感が前面に出てしまうこともあって、成功しにくいとされる。WR-Vの開発では日印両市場のニーズをにらみながら、コストを抑えつつも、低コスト感が出ないよう腐心したという。

最新鋭の現地工場で生産

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最新鋭の現地工場で生産

「国産志向が強い日本市場では、インド製の車というのはネガティブに作用するのでは」という新聞記者の質問に対し、開発責任者の金子宗嗣氏はこう答えている。

「ホンダの工場はどの国も同じ品質を確保している。しかも、新型車は(国内では最も新しい)寄居工場(埼玉県大里郡)よりも後に立ち上げたホンダ最新鋭の工場で作っている。量産化に向けては、鈴鹿製作所(三重県鈴鹿市)の品質関連チームが現場で支援した。日本で納車前整備の体制も整えた。綿密に準備をしてきたモデルで、自信を持って提供する」

綿密な準備のかいあって、計画比4倍超の好発進となったようだ。インドのモノ作りが力をつけている様子がうかがえる。

日本初は8年前のスズキ「バレーノ」

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日本初は8年前のスズキ「バレーノ」

インドで車といえば、スズキである。スズキは1982年、他社に先駆けてインドに進出。インド自動車産業の黎明期から産業発展とともに成長を遂げ、今でもインド乗用車市場シェア4割の最大手である。

インド製乗用車の逆輸入で先行したのもスズキだ。2016年、インドで生産する小型車「バレーノ」を日本で発売した。タイ製の日産自動車「マーチ」、三菱自動車「ミラージュ」など、新興国産の逆輸入車が広まるなか、日本初のインド製が日本市場で受け入れられるか、世間の耳目が集まっていた。

当時、日刊工業新聞の記者だった筆者は「バレーノ」新車発表会を取材した。

鈴木修会長(当時)が「インドでの生産開始から33年。ようやく日本と同じ品質レベルに達した」と感慨深げに話していた様子を覚えている。

新車発表会場には、スズキが長年かけて築き上げたインドの自動車サプライチェーンから生み出された「バレーノ」の実車が展示されていた。それにじかに触れ、内外装の品質は日本製と比べてそれほど遜色はない、インド製の車が日本で出回る日も遠くないのではと感じた記憶もある。

しかし、わずか4年後に日本向けバレーノの生産は終了した。当初販売目標台数は年6,000台だったのに対し、総販売台数は約2,500台と伸び悩んだ。

教訓生かしEVで再挑戦

スズキは24年度以降、電気自動車(EV)を含めインド製の逆輸入車に再挑戦するようだ。バレーノの教訓が生かされよう。インドを一大生産拠点とするスズキにとって、インド製品のコスト競争力は大きな武器であり、インド国外にも活用しない手はない。

インドの自動車産業は、22年の新車販売で約472万台となり、日本を抜いて、中国、アメリカに次ぐ世界3位の市場に成長。モディ政権による製造業振興策も追い風に内外の投資を引き付け生産台数も拡大、国際競争力は着実に向上している。

文献

日刊自動車新聞24/01/10 〈開発車インタビュー〉ホンダ「WR-V」 開発責任者 金子 宗嗣氏/商品企画担当者 佐藤 大輔氏
NIKKEI Mobility24/04/23 スズキ、インド産SUV3種を逆輸入
日刊工業新聞16/3/10 スズキ、インド生産車「バレーノ」を国内投入