なぜ経営者は「演出家」であるべきなのか?~ジョンソン・エンド・ジョンソンに見る成功事例~
演出の経験を持つ経営者たち

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ヒロセ電機(2025年3月期業績:売上高1,894億円、営業利益426億円、以下同じ)の中興の祖・酒井秀樹氏は、高校時代に演劇部の部長を務めていました。さらに、巨人・パナソニックを相手にひけをとらない未来工業(451億円、69億円)の創業者山田昭男氏も、劇団の主宰者・演出家としての経験があります(演劇では食べていけないと考え、創業)。ローム(4,485億円、▲401億円※主にEV用の半導体への巨額投資の負担が重く、現在は再建中)の創業者・佐藤研一郎氏は、オーケストラのバイオリニストで時に指揮者を務めた、父親(ご自身はピアニスト)の働く姿を見るなかで、「人を演出すること」の重要性を感じていたと発言しています。

演出家の経験は、企業経営者には有利な側面があるのかもしれません。

企業の「内」だけでなく「外」も重要 ~ 外部の知との連携

演出の対象を、企業の「内」だけでなく「外」に拡張することも重要だと言えます。

1905年の特殊相対性理論に続き、1915~1916年の一般相対性理論と、アインシュタインはほぼ独力で人類史上最も美しい理論を完成させました(もちろん、あまたの優れた物理学者・数学者が構築した理論の上にですが)。

一方、100年のときが流れ、2017年のノーベル賞を受賞した重力波の観測の論文には1,000人の学者の名前が記載されています(ノーベル賞の受賞者は最大3名と決まっており、レイナー・ワイス氏、バリー・バリッシュ氏、キップ・ソーン氏が共同受賞)。

これに象徴されるように、理論や技術、産業も高度化・細分化しており、「一人で」もしくは「一社で」すべてを完結させるのは容易ではありません。すなわち、外部の知と連携することの重要性が高まっているのです。
その好事例を以下に紹介します。

【事例】
ジョンソン・エンド・ジョンソンによる「内+外の演出」

なぜ経営者は「演出家」であるべきなのか?~ジョンソン・エンド・ジョンソンに見る成功事例~
【事例】ジョンソン・エンド・ジョンソンによる「内+外の演出」

垂涎(すいぜん)の76期連続増収が象徴するように、世界的なヘルスケアカンパニーであるジョンソン・エンド・ジョンソンでは、発展し続けるために、以下の四つを常に求められるそうです。

  • 現事業の自然成長
  • (おもに新技術の開発による)新事業
  • アライアンスおよびライセンス供与
  • 企業買収
  • 研究開発には、なんと売上高の10%程度が継続的に投資されています。研究開発の定義にもよりますが、この規模、この比率で投資を続けている企業は稀有(けう)ではないでしょうか。

    ただ、自社組織による研究開発は、その規模・内容は別としてどの企業も行うことでしょう。特徴的なのは、3と4、すなわち外部活用の貪欲さです。

    3のアライアンスとは、例えば、良い技術や製品を持ってはいるものの資本などの制約で海外展開できない企業の製品をジョンソン・エンド・ジョンソンが世界で販売するといった取り組みです。一方のライセンスは、ジョンソン・エンド・ジョンソンの持つ技術を外部の企業に供与してその対価を得るもので、それぞれ逆方向の外部活用と言えます。

    これらを支える組織や仕組みも極めて充実しています。具体的には、Innovation CenterとJ&J Laboratoriesです。前者は学術機関、ベンチャー企業などとともに技術開発を担う総合的な技術開発施設であり、後者は審査を通過したベンチャー企業を格安の費用で入居させて支援を行う施設です。

    日本企業でも、過去10年ほどの間に、いわゆるオープンイノベーション施設を開設する企業が多く見られました。ジョンソン・エンド・ジョンソンは、時期的にも内容的にもそれらに大きく先行しているように見えます。

    使い捨てコンタクトレンズ事業はどのように創出されたか?

    なぜ経営者は「演出家」であるべきなのか?~ジョンソン・エンド・ジョンソンに見る成功事例~
    使い捨てコンタクトレンズ事業はどのように創出されたか?

    ジョンソン・エンド・ジョンソンが世界一のシェアを誇り、かつ高収益であると推定されるのが、使い捨てコンタクトレンズ事業です。

    同事業の始まりは、1981年に米国の小さなコンタクトレンズ企業を買収したときにさかのぼります。最初は、医師が患者にあわせて1枚ずつ削る製品で、量産技術の確立が必須でした。

    筆者は、コンタクトレンズの製造は、清潔さという点では特殊ですが、一般的な樹脂成型でできるものと思っていました。しかし実はそんなに単純ではなく、成型した後に水分を含有させる工程が必要になるなど、使い捨てを実現するだけの価格を実現できなかったのです。

    技術を探索する日々のなか、ベルギーのグループ企業から有益な情報がもたらされました。デンマークの企業が、水分を含んだまま成型できる技術を持っているというのです。

    幹部はすぐさまデンマークに飛び、その技術を買い取ったそうです。そして、1987年に米国国内において世界で初めて最長1週間で取り換えるコンタクトレンズを発売しています。

    1995年には日米で1日使い捨てコンタクトレンズを発売しています(日本では30枚4,050円)。当時、通常のコンタクトレンズは1枚2~3万円でしたので100倍もの生産性を実現したことになります。劇的な価格の低下すなわち生産性の向上には、コンタクトレンズとは全く関係のない、ある日本企業の連続生産ライン技術が貢献しています。

    このように、同事業の成功は、4の買収(米国企業の買収、デンマーク企業の技術買収)と、3のアライアンス(日本企業の技術導入)を実施し、自社の優れた組織能力によって新しい高収益事業を育成した結果でありであり、内外の知を連携させた好事例と言えます。

    すなわち、
    使い捨てコンタクトレンズ事業=米国の医師+デンマーク企業+日本企業+ジョンソン・エンド・ジョンソン
    による功績なのです。

    まさに経営者が全体を見渡し、シナリオを描きながら多様な要素を組み合わせて「演出」した結果と言えるでしょう。

    以上のジョンソン・エンド・ジョンソンの内外の知の連携の仕組みについては、日本経済新聞出版『超利益経営――圧倒的に稼ぐ9賢人の哲学と実践』で詳述しました。
    https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/24/12/11/01769/

    追伸:
    村松友視氏(直木賞受賞)、井上荒野氏(直木賞受賞)、清原康正氏(日本ペンクラブ会員)が審査員を務める第20回「深大寺恋物語」において、拙作が最終選考作品に選ばれました。
    「アイリーンに捧ぐ」著者:村田朋博 – 【公式】深大寺短編恋愛小説 深大寺恋物語

    ■公式ホームページ
    【公式】深大寺恋物語 – 深大寺地域を舞台にした、4,000字で綴る短編恋愛小説の公募事業

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