富裕層が多く暮らす高級住宅街として知られる東京都港区。一方で、生活に苦しむ1人親世帯や貧困層も多く存在していることはあまり知られていません。

本記事では、Aさんの事例とともにシングルマザーの実態と住まいについて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。

港区在住の貧困シングルマザー

A子さんは東京都港区の区営住宅に住む、3歳の子供を抱えた31歳のシングルマザーです。出身は東京から離れた田舎ですが、地元の短大を卒業後に上京して就職し、その数年後に会社経営者と結婚しました。

シングルマザーとなった理由は、新型コロナの影響で夫が経営していた会社が倒産。経済的に問題がおき、夫婦仲も悪くなって離婚に至ったとのことです。

夫自身も生活していくことがやっとになり、養育費ももらうことができず、A子さんは区役所に相談して、区営住宅を紹介してもらい、生活保護を受けながら子どもと2人の生活に入りました。実家ではA子さんの兄の家族が両親と同居しており、簡単に頼ることもできない状況です。

実家の兄嫁や友達からは「シングルマザーで東京の港区に住んでいるなんて贅沢じゃないの。もっと物価の安いところに移ればいいのにねぇ」と言われているため、なおさら田舎に顔も出せず、最近は絶縁状態になっています。

シングルマザーの実態と住まい

厚生労働省が発表した、「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果」(おおむね5年ごとに実施)によると、

・母子世帯数 119万5,000世帯(前回123万2,000世帯)・父子世帯数 14万9,000世帯(前回18万7,000世帯)

となっており、平均年間収入(母または父自身の収入)は、

・母子世帯 272万円(前回243万円)・父子世帯 518万円(前回420万円)

です。児童手当や養育費なども含めた世帯の平均年間収入は、

・母子世帯 373万円(前回348万円)・父子世帯 606万円(前回573万円)

という結果でした。離婚後にシングルマザーになる女性は、新しく住む場所に対しても不安を感じることが多いと思います。特に賃貸物件は、収入面の制約から住む環境が大きく変わってしまうかもしれませんし、そもそも、賃貸物件を借りることができるのかどうか、不安になる人も多いでしょう。

実際はシングルマザーや離婚歴を理由に、入居審査のときに簡単に落とされることはありません。

入居審査の基準を満たしていれば、賃貸物件は契約することができます。

賃貸物件の入居審査のポイント

やはり、貸す側からすると、「家賃をきちんと支払い続けてくれるかどうか」が一番の重要ポイントです。そのため、「年収がどのくらいか」という点がまず見られるポイントですが、ほかにも次のような点がチェックされます。

・職業/勤務先・保証人/保証会社の有無・子どもの年齢・入居者の人柄

賃貸物件の家賃の目安は、一般的に月収の3分の1といわれています。上述の平均年間収入を考慮し、お子さんを抱えながらの生活を考えると、シングルマザーの生活は決して豊かなものではないケースも多いでしょう。希望の物件に入居できるのも難しいこともあります。

賃貸物件を借りる際の初期費用の目安は、家賃のおよそ5ヵ月分といわれています。

つまり、6万円の物件を借りる場合に不動産会社へ支払う初期費用の目安は約30万円になります。しかしほかにも、引越し費用や保証会社への保証料などがかかります。そうなると、40~50万円はかかると見積もって準備する必要があるでしょう。

シングルマザーにお勧めの物件

以上のように、シングルマザーには一般の賃貸住宅を借りるにはハードルが高い場合があります。シングルマザーには家賃や初期費用が低い下記のような物件もお勧めです。

1.公営住宅

公営住宅は、地方公共団体が建設・運営している賃貸住宅です。低所得者層向けの住宅ですから、家賃が低いことが最大のメリットになります。居住者にはファミリー世帯も多いため、シングルマザーには心の支えになる環境にあるのも魅力でしょう。

ですが、公営住宅は抽選で入居が決定するため、抽選に当たらなければ入居できる物件ではありません。

2.UR賃貸住宅

UR賃貸住宅は、都市再生機構(UR都市機構)という独立行政法人が管理している賃貸住宅のことです。昔ながらの団地をリノベーションして貸し出していますから室内は綺麗です。

敷金はかかりますが、入居時に必要な礼金・仲介手数料・更新料・保証人が不要なので、初期費用を抑えたい人向けになります。

3.公社賃貸住宅

公社賃貸住宅は、地方自治体の出資によって設立した住宅供給公社(JKK)が管理している住宅です。

こちらも礼金・仲介手数料・更新料が不要で初期費用が大幅に抑えられますが、入居の際には連帯保証人を立てる、もしくは保証会社と契約をする必要があります。敷金は賃料の1~3ヵ月分と、賃貸物件によって異なります。18歳未満の子供がいる家庭やシニアの方がいる家庭などは優先的に申し込みが可能です。

UR賃貸住宅も公社賃貸住宅も、初期費用は抑えられますが、家賃は安いとはいえませんし、収入基準などの審査も容易ではありませんので、事前にホームページ等で確認しておきましょう。

「港区」イメージの勘違い

さて、A子さんは離婚したときに母親からは田舎に帰るように言われ、一度実家の近くにアパートを探そうとも思いましたが、生活保護を受けるような暮らしですから、引っ越しなどに使えるお金もありませんし、田舎ですから車がないと買い物や仕事に行くのも不便です。

「母親がそばにいると心強いのですが、余裕がないので引っ越しはできません。車を買うお金なんて当然ありませんから田舎には住めません」と、A子さんは言います。つまり、A子さんは、いまの住居から動くことができないのです。

さらにA子さんは続けます。

「都内とか港区というと、物価が高いとかお金持ちだ、と思われる人が本当に多いですが、実際は違います。たしかに離婚前に住んでいた場所はそれなりの家賃で毎月の生活も贅沢な方だったと思います。ですが、港区でもいろいろあるんですよ。港区の住まいは高級住宅街や高層マンションがイメージされますが、ボロボロのアパートだってけっこうありますよ。スーパーも高級なスーパーだけではないんですよ。実家の近くのスーパーと値段もほとんど変わらない所もありますし、商店街や100円ショップだって普通にあります。本当に色んな建物があるし、いろんな人が住んでいる所です」

港区は大企業も多く集まり、お金持ちも多く住む町ですから税収も大きくなります。そのため、福祉も手厚くなります※。

全国には1,718の市区町村があります(令和5年1月1日現在)が、人口減少や都市部への人口流出によって、2040年には全国の自治体の半数が消滅の危機であると言われています。もちろん、感じ方は人それぞれでしょうが、A子さんのように港区などの都心のほうが、ひとり親世帯にはいいかもしれませんね。

<参考>

「シングルママ・シングルパパ 暮らし応援ナビ 港区の支援一覧」サイト

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表