【11月M&Aサマリー】12件増の89件|「そごう・西武」2000億円超で米ファンドに売却

2022年11月のM&A件数(適時開示ベース)は89件と前年同月を12件上回り、4カ月連続で増加した。1~11月累計は865件で、前年を62件上回るハイペースで推移している。

14年半ぶりに100件の大台に乗せた9月以降さらに勢いを増しており、年間件数は前年(877件)に記録にしたリーマン・ショック(2008年)後の最多を更新することが確実となった。

一方、11月の取引金額(公表分を集計)は5234億円。セブン&アイ・ホールディングスが傘下の百貨店「そごう・西武」(東京都豊島区)を米投資ファンドに2000億円超で売却する案件が最も大きかった。

また、金額は非公表ながら、オリックスが化粧品・健康食品大手のディーエイチシー(DHC、東京都港区)を買収する案件は3000億円規模とみられ、こちらも一般消費者の関心を呼んだ。

89件中、海外案件は12件

上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

11月のM&A89件は9月の105件、3月の93件に次ぐ今年3番目の水準で、10月の83件を超えた。内訳は買収77件、売却12件(買収側、売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。

89件中、国境をまたぐ海外案件は12件だった。

【11月M&Aサマリー】12件増の89件|「そごう・西武」2000億円超で米ファンドに売却
2022年M&A:月別の件数・金額推移

1~11月累計をみると、国内案件は前年比75件増の727件、海外案件は同13件減の138件。コロナ禍で大きく落ち込んだ海外案件は回復の足取りが鈍く、国内案件が牽引する構図が浮き彫りになっている。

しかも、海外案件については日本企業が買い手となるアウトバウンド取引の伸び悩みに対し、外国企業が買い手となるインバウンド取引が高止まりしたまま。1~11月累計はアウトバウンド取引77件(前年83件)、インバウンド取引61件(同68件)と両者が接近している。

セブン&アイ、百貨店事業と決別

11月の金額首位はセブン&アイの案件。傘下の百貨店「そごう・西武」の全株式を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに来年2月に売却する。

売却金額は企業価値2500億円をもとに有利子負債などを調整したうえで確定するが、2000億円超とみられている。セブン&アイは2021年7月に策定した中期経営計画で事業構造改革の完遂を掲げ、成長性の乏しい事業は売却する方針を打ち出していた。

セブン&アイは2006年にミレニアムホールディングス(現そごう・西武)を傘下に収めた。グループのコンビニ・スーパー事業と百貨店事業の相乗効果を狙ったが、ネット販売の広がりや少子高齢化で業績が振るわず、ここ数年はコロナ禍が加わり、赤字経営が続いていた。

譲渡先のフォートレスは家電量販店大手のヨドバシホールディングスと組むことにしており、西武池袋本店(東京都豊島区)などの大型店にヨドバシが出店する見込みだ。

【11月M&Aサマリー】12件増の89件|「そごう・西武」2000億円超で米ファンドに売却
売却が決まった西武池袋本店(東京・池袋)

米投資ファンドのカーライル・グループはオンライン経済ニュース「NewsPicks」運営のユーザベースにTOB(株式公開買い付け)を行い、非公開化する。

約614億円を投じ、完全子会社化する。ユーザベースは2008年設立で、「NewsPicks」のほか、企業財務や株価、各種統計に関するデータベースサービス「SPEEDA」で知られる。

ユーザベースは2018年に米国企業を買収し、現地でニュース事業に進出した。しかし、コロナ禍と重なり、広告出稿が振るわず、2020年11月に米国事業から撤退した。ファンドの傘下で事業再構築に取り組む。

カーライルは古河電気工業傘下の東京特殊電線を同じくTOBで非公開化する。

取得金額は最大381億円に上る。

TOB関連ではほかに、第一生命ホールディングスがペット保険大手のアイペットホールディングスを子会社化する。非生命保険分野の事業拡大の一環で、取得金額は最大390億円。第一生命は11月末に、ニュージーランドの生命保険大手パートナーズ・グループを約850億円で買収したばかり。

オリックス、DHCを買収へ

化粧品・健康食品大手のDHCはオリックスの傘下に入ることになった。オリックスはDHC創業者で大株主の吉田嘉明会長兼社長から発行済み株式の過半を取得する契約を結んだ。他の株主からも株式を取得し、完全子会社化を目指す方向。

取得金額は現時点で非公表だが、総額3000億円規模とみられている。株式取得は2023年3月期中を予定する。

DHCは積極的なテレビ宣伝や通信販売を通じて高い知名度を持つ。直営店に加え、コンビニ、ドラッグストアなど通販以外にも販路を持つ。

【11月M&Aサマリー】12件増の89件|「そごう・西武」2000億円超で米ファンドに売却

ブランド名のDHCは「大学翻訳センター」の頭文字から命名。創業者の吉田氏が大学卒業後の1972年に大学の研究室向けに翻訳業務サービスの会社を立ち上げたことに始まる。

その後、1980年に天然成分にこだわった基礎化粧品の製造に進出し、通販主体に業績を伸ばした。健康食品、ダイエット、ファッション分野なども展開。通販会員数は約1570万人。

オリックスはDHCの円滑な事業承継を後押しする狙いもある。創業以来トップを務めてきた吉田氏はオリックスの子会社化が完了した段階で退任する予定。

日本電産は1年ぶりにM&Aを発表

日本電産は1年ぶりにM&Aを発表した。買収するのはイタリアの工作機械メーカーPAMA。2021年に参入した工作機械事業の成長加速を狙いとしている。

傘下の日本電産マシンツール(旧三菱重工工作機械)、ニデックオーケーケー(旧OKK)の既存2社と製品補完や工作機械事業の海外展開につなげる。取得金額は非公表。PAMAは1926年に創業し、100年近い業歴を持つ名門。金属に穴あけ加工する横中ぐり盤を主力とし、直近売上高は172億円。

◎11月M&A:金額10億円以上

1 セブン&アイ・ホールディングス 傘下の百貨店「そごう・西武」を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに譲渡 2500億円※ 2 ユーザベース 米投資ファンドのカーライル・グループがオンライン経済ニュース「NewsPicks」運営のユーザベースをTOBで子会社化 614億円 3 メディパルホールディングス 食品素材・食品添加物製造の住友ファーマフード&ケミカルを子会社化 434億円※ 4 第一生命ホールディングス ペット保険大手のアイペットホールディングスをTOBで子会社化 390億円 5 東京特殊電線 米投資ファンドのカーライル・グループが古河電気工業傘下の東京特殊電線をTOBで子会社化 381億円 6 日本特殊陶業 医療機器メーカーの米国MGC Diagnosticsを子会社化 236億円 7 日医工 国内投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(東京都千代田区)の傘下に。第三者割当増資を実施 200億円 8 住友商事 住友精密工業をTOBで子会社化 139億円 9 センコーグループホールディングス 三菱商事傘下の中央化学をTOBで子会社化 70.4億円 10エイベックス映像配信サービス子会社のエイベックス放送通信(東京都港区)をNTTドコモに譲渡51.2億円 11 ササクラ MBO(経営陣による買収)で株式を非公開化 50.7億円 12穴吹興産不動産賃貸・管理の三和住宅(大阪市)を子会社化50.4億円 13 日本ビジネスシステムズ ITサービス企業のネクストスケープ(東京都新宿区)を子会社化 30.4億円 14 ギークス IT人材サービスのオーストラリアLaunchを子会社化 19.1億円 15 ライフドリンクカンパニー 日東紡傘下で清涼飲料水製造のニットービバレッジ(富山県朝日町)を子会社化 16億円

※企業価値で表示。今後調整したえで、取得金額を確定する予定