活況続くM&A、第1四半期は16%増の275件|東芝買収は歴代5位に並ぶ

2023年第1四半期(1~3月)のM&A件数(適時開示ベース)は275件と、前年を38件上回る高水準で推移した。率にして16%増。

国内案件が堅調だったうえ、コロナ禍で落ち込んだ海外案件も年明けから増勢が続いている。

取引金額は前年を4209億円上回る2兆5892億円。東芝の株式非公開化を目的とするTOB(株式公開買い付け)が2兆円規模に達し、突出した。この東芝を除けば、総じて案件規模が小型化している。

年間1000件の大台乗せも

上場企業に義務付けられている適時開示情報のうち経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。

2023年は1月に93件と前年を29件上回るロケットスタートを見せた。2月(77件)は前年を割り込んだものの、3月は105件まで件数が積み上がった。この結果、2022年第2四半期(4~6月)以来、4四半期連続のプラスとなった。

1~3月の総件数275件の内訳は日本企業同士の国内案件221件(前年204件)、国境をまたぐ海外案件54件(同33件)。このうち、海外案件は年初から増勢が続き、コロナ前の2019年1~3月の45件を上回った。海外子会社・事業を中心に日本企業による売却案件の広がりが件数を押し上げた。

前年の年間件数は949件とリーマンショック後の最多を2年連続で記録したが、現状のペースでいけば、今年は年間1000件の大台乗せが見込まれる。

一方、取引金額は1月1300億円、2月2890億円、3月も東芝の2兆円案件を除くと1650億円ほどで、件数の割に金額が伸びていない。

1~3月中、取引金額が1000億円を超える巨額案件は2件にとどまった。東芝以外に、ENEOSホールディングスによる1200億円超の大型売却があるだけで、5件を数えた前年に比べると見劣りした。

活況続くM&A、第1四半期は16%増の275件|東芝買収は歴代5位に並ぶ
適時開示ベース。2023年は第1四半期(1~3月)

東芝、非公開化で株式市場から退場

東芝の経営問題は新たな段階を迎えた。3月下旬、国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)陣営による買収提案を受け入れると発表した。JIP陣営は7月をめどにTOBを始め、全株式の取得を目指す。買付代金は最大1兆9987億円。

TOBを通じた東芝の非公開化は2年前、英国投資ファンドによる買収提案の際に判明し、当時の社長が辞任に追い込まれた。その後、会社の3分割案、2分割案などの経営再建策が浮上したが、日の目を見るはことなく、回りまわって非公開化に行き着いた経緯がある。

非公開化は経営の足かせとされたきた海外のアクティビスト(物言う株主)を排除するのが目的。株式市場からいったん退場し、企業価値を高めたうえで再上場を目論む。

今回の東芝案件は日本企業のM&Aとして歴代5位。東芝は2017年に半導体子会社の東芝メモリ(現キオクシア)を2兆円で売却しており、これに並ぶ。

ちなみに、歴代1位は武田薬品工業によるアイルランド製薬大手シャイアーの6.2兆円買収。2位にソフトバンクグループ(英アーム、3.3兆円)、3位にJT(同英ギャラハー、2.25兆円)、4位にセブン&アイ・ホールディングス(同米スピードウェイ、2.2兆円)と続く(いずれも日本企業が買収した案件)。

動画配信のU-NEXTとParaviが合併

金額2位はENEOSホールディングス。傘下のJX金属がチリに保有するカセロネス銅鉱山の株式51%を、カナダの資源会社ルンディン・マイニングに約1246億円で売却することを決めた。価格変動に左右されることの多い資源事業特有のリスクを抑制し、先端素材などの成長分野に経営資源を集中させる。6月中の売却完了を見込む。

三井物産は金額トップ10の3位、4位にランクインした。一つは700億円を投じて、日米合弁給食大手のエームサービス(東京都港区)を子会社化する案件。もう一つは、東証プライム上場でコールセンター事業などを手がける、りらいあコミュニケーションズの子会社化を目的としたTOBで、買付代金は最大602億円。

りらいあコミュニケーションズについてはTOB後、KDDI子会社のKDDIエボルバとの統合を予定しているが、TOBの開始時期が当初予定の3月から5月にずれ込んでいる。

動画配信サービスでは大型のM&Aがあった。U-NEXTと「Paravi(パラビ)」を運営するプレミアム・プラットフォーム・ジャパンが3月31日付で合併した。

存続会社のU-NEXTは、USEN‐NEXT HOLDINGSの子会社。

一方の「Paravi」の運営会社はTBSホールディングスを筆頭株主とし、日本経済新聞社、テレビ東京ホールディングスなどが大株主。合併により、有料会員数は370万人を超え、動画配信市場で国内勢最大手となる。現在、日本市場でトップに立つ米国発のネットフリックスを追撃する。

動画配信サービスはコロナ禍による「巣ごもり需要」で市場のすそ野が一気に広がった。外資勢を軸に、国内勢もテレビ系、通信系、ネット系などに分かれ、主要プレーヤーだけで20社近くがひしめく、いわば“戦国時代”にある。今回の合併が業界再編の引き金になる可能性もある。

活況続くM&A、第1四半期は16%増の275件|東芝買収は歴代5位に並ぶ
トップ10の3位、4位にランクインした三井物産の本社ビル(東京・大手町)

ANA、日本貨物航空を傘下に

金額非公表ながら、注目された案件も少なくない。

ENEOSホールディングスは元東証1部上場の日本海洋掘削を買収することを決めた。日本海洋掘削は海底の石油や天然ガス田の掘削を行う国内唯一の海洋掘削専門会社だが、2018年6月に経営破綻。昨年9月に東京地裁から更生手続き終結決定を受けている。

また、日本貨物航空(NCA)を買収するのはANAホールディングスで、親会社の日本郵船から全株式を取得する。将来的に傘下の国際航空貨物会社、ANAカーゴとの統合・再編を青写真に描いている。

両社合わせて世界での輸送重量規模は9位(ANA13位、NCA42位。2021年時点)に浮上する。

◎2023年1~3月:M&A金額上位20

社名内容金額 1 東芝 国内投資ファンドの日本産業パートナーズの買収提案を受け入れ、TOBで非公開化 1兆9987億円 2 ENEOSホールディングス チリに保有する銅鉱山カセロネス銅鉱山の株式51%をカナダLundinに譲渡 1246億円 3 三井物産 日米合弁給食大手のエームサービス(東京都港区)を子会社化 700億円 4 三井物産 りらいあコミュニケーションズをTOBで子会社化 602億円 5 オリンパス 消化器用金属製ステント開発・製造の韓国Taewoong Medicalを子会社化 333億円 6 岩崎電気 米投資ファンドのカーライル・グループと組んで、MBOで株式を非公開化 327億円 7 イハラサイエンス MBOで株式を非公開化 323億円 8 出光興産 オーストラリア「エンシャム石炭鉱山」の全保有権益を現地Sungelaに譲渡 310億円 9 日本エスコン 不動産賃貸の四条大宮ビル(京都市)を子会社化 300億円 10 インパクトホールディングス MBOで株式を非公開化 272億円 11 メタップス MBOで株式を非公開化 149億円 12 日本エス・エイチ・エル 英国SHLグループが日本エス・エイチ・エルをTOBで子会社化 146億円 13 日医工 ジェネリック医薬品製造の北米2子会社をシンガポールEllimistに譲渡 136億円 14 アステラス製薬 抗真菌剤「ファンガード」製造販売権をスイス製薬企業のサンドに譲渡 97.6億円 15 コンコルディア・フィナンシャルグループ 傘下の横浜銀行が神奈川銀行をTOBで子会社化 82.3億円 16 WOW WORLD GROUP 日本成長投資アライアンスがWOW WORLD GROUPにTOBを行い、株式を非公開化 74.6億円 17 三井化学 旭化成からフォトマスク用ペリクル事業を取得 74億円 18 ジーニー 広告プラットフォーム事業の米国Zeltoに追加取得し子会社化 57.6億円 19 Macbee Planet ネット広告事業のネットマーケティングを子会社化 54億円 20 プロネクサス 映像サービスのシネ・ホールディングス(東京都千代田区)を子会社化 52.1億円

文:M&A Online

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