2023年3月のM&A件数(適時開示ベース)は105件と前年を12件上回った。昨年9月(105件)に2008年3月(111件)以来14年半ぶりに月間100件の大台に乗せたが、今度は半年のタイムラグで実現した。
取引金額(公表分を集計)は2兆1646億円。東芝の非公開化を目的とするTOB(株式公開買い付け)が2兆円規模に達し、金額が跳ね上がった。ただ、東芝案件を除けば、年初来、件数の割に金額が伸び悩む傾向が続いている。
上場企業に義務付けられている適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。
「海外」件数、コロナ前を上回る
3月は年度末ということから、例年、件数が積み上がり、年間で1位、2位を争う。前月(2月)は7カ月ぶりに前年を下回ったが、大きく反転して100件台に乗せた。
3月のM&A105件の内訳は買収85件、売却20件(買収側と売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち国境をまたぐ海外案件は22件で、日本企業が買い手のアウトバウンド取引13件、外国企業が買い手のインバウンド取引9件だった。
1~3月累計の海外案件は前年比21件増の54件(アウトバウンド30件、インバウンド24件)。総件数はコロナ前の2019年45件を上回り、回復ぶりが顕著となった。ただ、この間、海外子会社・事業を中心に日本企業による売却の動きが加速した結果、2019年に20%だったインバウンド比率は44%に急上昇している。

東芝、JIPの買収提案を受け入れ
3月のハイライトは東芝の非公開化。東芝は国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP、東京都千代田区)陣営による買収提案を受け入れると発表した。JIP陣営は7月下旬をめどにTOBを始め、東芝の全株式を取得する。買付代金は最大1兆9987億円。
非公開化は経営再建の足かせとされる物言う株主(アクティビスト)を排除することを目的としており、迷走が続いていた東芝の経営問題は新たな段階を迎える。2兆円近い買収資金は国内企業17社の出資や主力銀行による融資で賄う。
東芝は不正会計問題や米原子力事業の巨額損失などで経営危機に陥り、2017年3月期に最終赤字が1兆円に拡大し、債務超過に転落した。債務超過の解消に向けて2017年末に増資で約6000億円を調達したが、この増資の引き受けをきっかけに海外の物言う株主が影響力を増し、経営の介入を招いた経緯がある。株式市場からいったん退場し、企業価値を高めたうえで、再上場を目指す。
ENEOSホールディングスは、傘下のJX金属がチリに保有するカセロネス銅鉱山の株式51%を、カナダの資源会社ルンディン・マイニングに約1246億円(9億5000万ドル)で売却することを決めた。価格変動に左右されることの多い資源事業のリスクを抑制し、先端金属素材など成長分野に経営資源を集中させる。6月中の売却完了を見込む。資源高でカセロネス銅鉱山の業績は好転しているものの、過去の赤字がたたり、1000億円を超える債務超過状態にある。
金額3位はインバウンド案件。英国SHLが最大148億円を投じて日本エス・エイチ・エルを子会社化するもので、現在、TOBが進行中。日本エス・エイチ・エルはSHLとのライセンス契約に基づき、「適性テスト」などの人事評価ツールを国内で事業展開しているが、両社の資本関係は2007年に解消していた。
3月のM&Aは100件を超える活況にもかかわらず、取引金額が100億円を上回る案件は3件にとどまったうえ、金額を公表した案件数も極端に減った。全件中、金額公表の割合は通常4割前後であるのに対し、3月は27件と4分の1に過ぎず、個人を取引相手とする中小規模の案件が多かったことをうかがわせる。
ENEOS、日本海洋掘削を子会社化
3月は金額非公表ながら、注目される大型M&Aが2件あった。
その一つは日本海洋掘削を買収するENEOS。傘下のJX金属を通じて、投資会社のアスパラントグループ(東京都港区)が保有する日本海洋掘削の全株式を4月下旬にも取得する。
日本海洋掘削は海底の石油や天然ガス田の掘削を行う国内唯一の海洋掘削専門会社で、元東証1部上場。しかし、原油安を受けた掘削需要の低迷などで業績が悪化し、2018年6月に経営破綻(負債総額約860億円)した。昨年9月に東京地裁から更生手続き終結決定を受けている。
ENEOSは2040年度までに自社の温暖化ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの取り組みを推進中。具体的な手立てとして二酸化炭素(CO2)を回収して地下に圧入・貯留する方式などが検討されているが、その場合、井戸の掘削が重要な技術要素となる。
日本貨物航空はANAの傘下へ
もう一つは日本郵船子会社で国際航空貨物輸送の日本貨物航空(NCA)を買収するANAホールディングス。将来的にANAグループの貨物事業会社ANA Cargoとの統合・再編を視野に入れている。10月にも全株式を取得する。
両社合わせて世界での輸送重量規模は9位(2021年、ANA13位、NCA42位)に浮上する。また、ANAは中国・アジア便、NCAは北米・欧州便を主力とし、ネットワークの拡充に向けて補完関係が期待できる。一方、日本郵船にとって債務超過のNCAは連結業績の重荷となっていた。
NCAは1978年に日本郵船など海運4社とANAが共同出資で設立。日本郵船は2005年にNCAを連結子会社化し、2010年に完全子会社化した。ANAは資本関係の解消後も、貨物便の共同運航(コードシェア)などで協力関係を続けてきた。
一般にも身近な外食・フードサービスでもいくつかM&Aがあった。カレー専門店を全国展開する壱番屋は、ラーメン・つけ麺の「麺屋たけ井」を京都・大阪で9店舗運営する竹井(京都府城陽市)を3月末に子会社化した。
また、ホルモン焼き専門店「野毛ホルモンセンター」など直営19店舗を展開するニュールック(横浜市)を子会社化するのは焼肉チェーン大手のあみやき亭。横浜エリアでの営業基盤の強化や商品開発面での相乗効果を見込む。
◎3月M&A:金額上位(10億円以上)
文:M&A Online
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