
ホンダと日産自動車の経営統合のニュースに、関係する部品メーカーは震え上がっただろう。両社に部品を納入しているサプライヤーにも影響が避けられないからだ。
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系列解体で先行した日産
日本の自動車メーカーで最も早く系列解体に手をつけたのは日産だ。1999年に経営再建のためルノーから送り込まれたカルロス・ゴーン氏が、同出資していた1394社の株式を、わずか4社を残して売却することを決めた。
富士機工、タチエス、市光工業、池田物産、ヨロズ、ナイルス部品、エクセディ、テネックスといった系列大手との資本関係も解消している。系列を問わないオープン調達と部品メーカーの集約による部品価格の引き下げを狙ったもので、その後は各社が同様の取り組みをしている。
脱系列は現在も進行しており、淘汰される部品メーカーも少なくない。東京商工リサーチによると2023年の自動車部品メーカーの倒産は、コロナ禍が解消されたにもかかわらず35件と前年の1.6倍に増加した。過去10年でも2017年の30件を上回り、最多となっている。
負債総額も100億8200万円と、前年の4.3倍に急増した。国内自動車生産台数は回復したが、過去の設備投資に伴う借入金が重荷となって経営破綻する事例が目立つという。
生き残った部品メーカーに再び試練
一方、脱系列を生き残った部品メーカーと自動車メーカーの関係は、むしろ緊密化している。かつては自動車メーカーから渡された設計図通りに作るのが当たり前だったが、新製品開発の初期段階から部品メーカーが関わるケースが増えているからだ。
納入先メーカーの細かい仕様に合わせた特注部品も多い。一時マツダを傘下に入れた米フォード・モーターの経営幹部が「何でネジだけでこんなに種類があるんだ!」と驚いた逸話もある。
とはいえ、経営不振に苦しむ日産の業績を立て直すと共に、ホンダがグローバル競争で勝ち抜くためには、さらなる部品調達コストの引き下げは急務。両社の系列部品メーカーを統合すれば発注量は増え、スケールメリットによるコスト削減が実現できる。両社主導による系列部品メーカーの経営統合や淘汰が進む可能性は高い。
部品メーカーとしては自動車メーカーからの経営統合要請を拒否すれば、取引を失う可能性も出てくるため従わざるを得ないだろう。最悪の場合は経営統合の声すらかからず、取引が縮小または打ち切られることも考えられる。両社の系列部品メーカーにとっては、厳しい決断を迫られることにもなりそうだ。
ベインも注目する自動車部品メーカー
こうした自動車部品メーカーに、投資ファンドが注目している。米ベインキャピタルの末包(すえかね)昌司パートナーは「自動車部品会社は日本の完成車メーカーをしっかりサポートしているが、海外の自動車メーカーとはあまり取引できていない会社が多く、もったいない。素晴らしい技術があり、競争力の高い製品を持っているのに、その製品力や技術力に見合った正当な値づけができていない。フェアな価格で販売できれば、それによって生まれたキャッシュフローで研究開発費の充実などにもつながる」と指摘する。
同社は「本来なら生み出せるはずの収益力が実現できていない会社に関与して、ポテンシャル(潜在能力)を開花させるのが得意技」(末包パートナー)としており、ホンダと日産の経営統合にさらされる系列部品メーカーをターゲットにしたM&Aを実行する可能性もある。
日本車の競争力の源泉が、低コストで高品質の部品にあるのは間違いない。
2024年の自動車部品会社をターゲットにした主要M&A
公表日内 容取引総額(億円)とも3月28日トヨタ紡織<3116>、自動車用内装材子会社のTBカワシマをドイツAUNDEに譲渡35.105月27日トリプルアイズ<5026>、自動車向け機械・ITシステム設計開発のBEXを子会社化35.003月13日
フジプレアム<4237>、自動車部品メーカーの東陽社製作所を子会社化
33.34
3月27日
市光工業<7244>、自動車・オートバイ部品販売のPIAAを宇佐美鉱油に譲渡
9.11
9月25日
イクヨ<7273>、ドイツ自動車部品メーカーVeritasの中国法人を子会社化
6.53
1月25日
岡部<5959>、米国とイタリアでの自動車用バッテリー端子製造事業を譲渡
2月8日
トヨタ紡織<3116>、自動車用シートカバー製造の中国子会社「聖和座套」を香港社に譲渡
9月4日
セレンディップ・ホールディングス<7318>、自動車用金属部品加工のイワヰを子会社化
9月25日
児玉化学工業<4222>、自動車部品製造のメプロホールディングスを子会社化
10月23日
セレンディップ・ホールディングス<7318>、自動車部品ダクトメーカーのエクセル・グループを子会社化
11月19日
SPK<7466>、自動車カスタムパーツ製造・販売のブリッツを子会社化
文:糸永正行編集委員
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