「出版不況」を乗り越えようとしたM&Aの末に破産… 秀和システムは何を間違った?

自社の業界が低迷した時に「座して死を待つ」のではなく、異業種進出で「新天地での飛躍」を図るのは当然の選択。M&Aはその強力な武器だ。

ただM&Aは「諸刃の剣」。使い方を誤れば深刻なリスクにもなる。中堅出版社の秀和システム(東京都江東区)は、その罠にはまった。なぜ秀和はM&Aで取り返しのつかない失敗をしたのか?

買収に次ぐ買収で成長を目指したが…

2025年7月、秀和は東京地裁から破産開始決定を受けた。1974年に設立し、「はじめてのWindows」「解析マニュアル」シリーズでヒットを生んだ同社は、出版不況を受けたM&Aで反転攻勢を目指したが、それが裏目に出た格好だ。

実は秀和も買収された側の企業だ。2005年9月にPCメーカーのMCJ<6670>が秀和を約40億円で買収し、100%子会社化すると発表したのだ。秀和のパソコン(PC)関連書籍を電子化して販売するなど、MCJのPC販売との相乗効果が見込めると判断した。

しかし、2015年9月にMCJは秀和を出版市場の縮小により事業環境が厳しくなったとして、経営コンサルティングのウエノグループ(東京都千代田区)へ10億3000万円で譲渡すると発表した。この時点で6400万円の営業赤字を計上していたこともあり、買収価格の約4分の1での売却となる。

同12月に秀和の売却が完了し、「脱出版」を目指した経営多角化で業績立て直しを図る。その第一弾として、2021年5月にTOB(株式公開買い付け)を実施して低価格テレビで一世を風靡した船井電機を傘下に収めた。

失地回復を狙ったM&Aが命取りに

だが、中国メーカーとの競争は厳しくなる一方で、船井の業績は好転しなかった。そこで秀和は「脱製造業」で収益改善を図るべく、船井電機を通じて2023年4月に脱毛サロン大手「ミュゼプラチナム(現MPH)」の運営会社を買収した。

秀和はテレビメーカーの買収で成果が上がらなかった埋め合わせに、全くの異業種である美容業界に手を伸ばした格好だ。

ところが、この買収が秀和の命取りになる。同社の破産申立書によると、同8月と2024年3月にミュゼの債権者2社に対して総額で約29億3000万円に及ぶ連帯保証を実行した。その大半はミュゼの未払い広告代金だった。

秀和の2024年3月期における総資産合計は29億1376万円、純資産合計は10億1941万円だったが、ミュゼの保証負担で実質的には債務超過の状態に陥る。同10月に船井電機が破産開始決定を受けたことで、秀和の信用は一気に下落。本業である出版物の返品や取引先の与信見直しが相次いだ。

たまらず秀和は2025年1月に船井電機の持ち株会社であるFUNAI GROUPに対する民事再生法の適用を申請したが、結局は同2月に取り下げて破産する。これを受けて秀和の資金繰りは一層悪化し、それから半年あまりで破産に追い込まれた。

破産手続きに伴い、秀和の出版事業はトゥーヴァージンズ・グループ(東京都千代田区)傘下のウォームアンドビューティフルが承継。社名を秀和システム新社に変更し、社員も引き継がれた。幸いなことに、秀和の祖業であり出版事業だけは事業承継で生き残っている。


秀和の失敗は避けられた

秀和の破綻は成長戦略としての異業種M&Aは、資金的・管理的な耐性が伴わなければ、かえってリスクとなることを証明した。ただ、これは「避けられた失敗」と言える。そもそもの原因は「M&Aで異業種にさえ参入すれば成長できる」という希望的観測に基づく意思決定にあった。

秀和は船井のTOBに関する意見表明で、「経営の方向性を明確に定め、それらを実行するリーダーの登用、及び役職員のインセンティブ報酬の導入や外部からの人財登用を通じた組織の活性化・効率化、コストの見直しによる既存事業における継続的な価格競争力の確保、販売力の強化による収益性向上、既存技術を活用した新規事業の展開とその早期収益化、それらを補完するM&Aの実行などが必要」としている。

だが、いずれも「一般論」だ。船井の事業内容を十分に精査せず、相乗効果の検証も不十分なまま、「買収による経営多角化ありき」で踏み切った可能性が高い。

唯一の具体策である「補完するM&Aの実行」としてミュゼを買収。ミュゼの美容機器の製造や同社店舗で船井製品を販売するなどの相乗効果を狙うとしていた。しかし、船井が取り扱っていたのはテレビ関連の製品がほとんど。美容機器は脱毛とは関係ないネイルアートプリンターのみで、「後づけ理由」と見られても仕方ない。

事実、秀和はこの2社とのシナジーを実現できないまま破産した。しかも、ミュゼには広告の未払金という大きな問題があった。

これを把握していなかったとすれば、秀和のデューデリジェンス(買収監査)は機能していなかったことになる。一方で認識していたとするなら、あまりに無謀なM&Aを仕かけたことになる。いずれにせよ、十分に避けられたはずの失敗だ。

出版業界に限らず、M&Aは経営の大きな選択肢である一方、失敗すれば会社そのものを揺るがしかねない。秀和の事例は、「攻めの姿勢」と「慎重なリスク管理」のバランスの重要性を改めて示すものとなった。

文:糸永正行編集委員

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