「商用車のビジネスについてトヨタが日野を支えていくことにも限界がある」-トヨタ自動車<7203>の佐藤恒治社長は、子会社の商用車メーカーである日野自動車<7205>を独ダイムラートラック傘下の三菱ふそうトラック・バスとの経営統合の「本音」を漏らした。
日野とのシナジーなく、商用車の脱炭素化に重い負担
日野は排出ガスや燃費に関する国の認証を不正に取得していた問題で2023年3月期に特別損失約600億円を計上する苦境にあるが、物流インフラを支える中・大型商用車市場から撤退することにもなる。なぜトヨタは日野を手放す決断をしたのか?
今回の経営統合はトヨタとダイムラーが折半出資して設立する持株会社に、日野と三菱ふそうが100%子会社としてぶら下がる構図だ。
佐藤社長は経営統合の記者会見で「ダイムラートラックとトヨタは燃料電池や水素エンジンの技術開発を早くから続けてきた。日野と三菱ふそうの両ブランドの具体的な製品に落とし込む出口の議論もセットで行える。水素の普及に向けた取り組みが加速できる」と、商用車のカーボンニュートラル(脱CO₂)で生き残るための経営統合であることを強調した。
しかし、本音は同会見で口にした「日野のクルマづくりに、トヨタのノウハウを生かしていくことが難しいことも分かってきた」-つまり、両社のシナジー効果が見えなかったことにあるだろう。トヨタは2001年に日野株の過半数を取得して子会社化した。
当時、自動車業界は年間生産台数が400万台を超える「400万台クラブ」入りしないと生き残れないと言われ、2年前の1999年に日産自動車<7201>が仏ルノーの、前年の2000年には三菱自動車工業<7211>が独ダイムラー・クライスラー(現メルセデス・ベンツ・グループ)の傘下に入るなど、活発なグローバル再編が進んでいた。
しかし、トヨタはグルーバル再編には後ろ向きで、商用車の日野、軽自動車を主力とするダイハツ工業を子会社化する「国内再編」で生き残りを図った。2023年3月期の世界販売台数はトヨタが960万9782台、ダイハツが80万3611台、日野が14万4614台の合計1055万8007台。日野のシェアは低く、同社が離れてもトヨタグループは世界販売1000万台を維持できる。
商用車を切り離し、乗用車のカーボンニュートラルにアクセル
乗用車に比べると、商用車の市場規模は小さい。中大型の商用車の年間市場規模は300万~350万台といわれ、乗用車の約8000万台の20分の1未満。それだけに次世代環境車の開発負担は重く、再編が避けられない状況だ。
カーボンニュートラルに対応するため、商用車市場のグローバル再編が加速する可能は極めて高い。乗用車の電気自動車(EV)シフトが進む中、大型の商用車ではEVに加えて水素燃料電池(FCV)や水素エンジン車も有望だ。
選択肢が多いだけに、再編の図式も乗用車市場よりも複雑になるだろう。EVと水素を軸にした「二極再編」も起こりうる。
商用車の時価総額世界ランキング
順位メーカー名時価総額 1 欧ボルボ・グループ 5兆5234億円 2 米パッカー 5兆3319億円 3 独ダイムラートラック 3兆6129億円 4 欧CNHインダストリアル 2兆5756億円 5 独トレイトン 1兆4070億円 6 いすゞ自動車 1兆3400億円 7 中国・シノトラック 5741億円 8 中国・東風汽車集団 5562億円 9 日野自動車 3573億円時価総額で見ると日野は世界9位だが、1兆円を超える上位6社に比べると大きく見劣りし、商用車市場で単独の生き残りは難しい。これまでは世界最大の自動車メーカーであるトヨタが底支えをする図式だったが、同社も乗用車のカーボンニュートラル化への対応で手一杯になりつつある。
商用車世界第3位のダイムラーに日野の経営を委ねることで、トヨタは乗用車のカーボンニュートラル化に専念できるのだ。商用車という「お荷物」を手放すことで、トヨタのエコカー戦略が加速するのは間違いない。
文:M&A Online
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