スーパー「大再編時代」へ④ 「黒船」コストコは日本でM&Aを実施するのか?

米国発の会員制倉庫型スーパーのコストコホールセール(ワシントン州)が日本でじわりと存在感を増している。幹線道路沿いの広大な駐車場を持ち、広域から大勢の消費者を集めるコストコを誘致しようする自治体も。

久々の流通業界の「黒船」は国内スーパー業界再編に影響を与えるのか?

続々と日本に上陸した小売業の「黒船」

「黒船」の再来──。同社が展開する「コストコホールセール」の存在感が、日本の流通業界に波紋を広げている。現在は国内で37店舗にすぎないが、どの店舗も週末は駐車場が満杯になり、広い店内も買い物客でごったがえす。国内に漂う「スーパー冬の時代」の閉塞(へいそく)感など、どこ吹く風だ。

かつて日本にはスーパー業界の「黒船」が、2度にわたってやって来た。最初の「黒船」だった仏スーパー大手のカルフールは2000年に千葉市で「カルフール幕張」をオープンして初上陸したが、業績不振で2005年にイオンへ売却された。

2度目の「黒船」は2002年に旧セゾングループの西友を買収した小売業世界最大の米ウォルマートだ。一からの新規出店だったカルフールとは違い、すでに長い歴史と確固とした商圏を持つスーパーチェーンの買収による参入だったため、国内スーパー各社を震え上がらせた。

しかし、低価格戦略の徹底といったウォルマートによる経営改善策を打ったにもかかわらず西友の業績低迷が続く。2020年にはウォルマートは完全子会社だった西友の株式のうち、65%を米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、20%を楽天グループに売却。事実上、日本市場から撤退した。

その後、2023年に楽天は西友株をKKRに売却。2025年7月にはKKRとウォルマートが全保有株式をトライアルホールディングスへ売却する。

「第2の黒船」ウォルマートの上陸と撤退が、国内スーパー大再編の引き金となったわけだ。

なぜコストコは「黒船」とされなかったか?

実はコストコの日本上陸はカルフールやウォルマートよりも早い。1999年に福岡県久山町に第1号店となる「久山 倉庫店」をオープンしている。

にもかかわらずコストコが「黒船」と認識されなかったのは、最初の10年間は年に1店程度と店舗展開が遅かったのに加え、有料会員制やパンで数十個、肉で数㎏、飲料で箱買いといった大容量販売といった「米国流」を貫くコストコの店舗スタイルが日本人の消費行動に合わないと考えられていたためだ。

当時、コストコよりも知名度が高く、事業規模も大きいカルフールとウォルマートが全く違うアプローチで日本市場に進出したものの、いずれも撤退に追い込まれたこともコストコに対する警戒感が高まらなかった一因だった。要はコストコを「いずれ撤退するだろう」と見くびっていたのだ。

ところがコストコは米国を中心にグローバルで急成長する。2024年のコストコの売上高は2496億ドル(約35兆6000億円)、純利益は74億ドル(約1兆1000億円)。これは国内スーパー最大手イオンの売上高約10兆500億円、純利益287億円をはるかに凌駕(りょうが)する。売上高純利益率はコストコが2.96%と、イオンの0.28%の10倍以上だ。

倉庫型店舗による徹底したローコストオペレーションと、大量仕入れによるスケールメリット。卸会社を通さずサプライヤーと直接取引することで中間マージンを省き、高収益を実現している。

さらに年会費制を支払ってでも買い物をする「固定客」の存在も大きい。

日本では約800万人の会員を抱え、1店舗あたりの来客数・購入単価ともに高水準を維持している。

世界4位のコストコ大国・日本

日本でのコストコ商品は、ガソリンなど一部商品を除けば、国内スーパーに比べて決して安くない。確かに1個当たりの価格は多少安いが、例えばペット飲料などでは箱単位の「まとめ売り」をしているため。

コストコは少なくとも日本では安売りで顧客を確保しようとはしていない。コストコの利用客も価格よりは、味を含めた品質や米国で買い物をしているかのような「異国体験」を求めている。イオンの大型ショッピングセンターのようなレジャー感覚を楽しむ場なのだ。

そのため、米国ではコストコで販売した家電商品などが30日以内に値下がりした場合の差額払い戻し制度が日本では適用されないなど、本国ほど「低価格戦略」をセールスポイントにしていない。それだけ利益率も高いと思われる。

本国から遠く離れた日本が、米国(617店舗)、カナダ(109店舗)、メキシコ(41店舗)に次ぐ世界4位の出店国なのも当然かもしれない。

2020年以降だけでも木更津倉庫店(千葉県木更津市)や熊本御船倉庫店(熊本県御船町)、石狩倉庫店(北海道石狩市)、守山倉庫店(名古屋市)、壬生倉庫店(栃木県壬生町)、明和倉庫店(群馬県明和町)、門真倉庫店(大阪府門真市)、沖縄南城倉庫店(沖縄県南城市)、東近江倉庫店(滋賀県東近江市)、小郡倉庫店(福岡県小郡市)、南アルプス倉庫店(山梨県南アルプス市)と、地方都市での新店舗開業が相次ぐ。

日本法人のコストコホールセールジャパン(千葉県木更津市)は、2030年までに60店舗の展開を目指す。5年間で20店舗以上、年間4店舗以上のハイペース出店になる。

コストコは日本でM&Aを実施するか?

実はコストコは米国で2件の大型M&Aを実施している。1993年に、同業で同規模のプライス・クラブと合併し「プライスコストコ」に社名変更した。

2020年には宅配事業を手がける米イノベル・ソリューションズ(I旧シアーズ・ロジスティクス)を10億ドル(1430億円)で買収している。

コストコが出店を加速するために、日本でM&Aを実施する可能性はないのか?国内でスーパー業界では買収により店舗網を拡大する戦略が見受けられる。しかし、コストコは、そうした買収はやらないだろう。

最大の理由は日本のスーパーとは店舗形態が全く異なること。同社ホームページ上で新規出店条件を公表し、物件情報を求めている。それによると①半径10kmの人口が概ね50万人以上②企業が多い地域③敷地面積1万5000坪(約5万㎡)以上④建築面積約4500坪(約1万5000㎡)⑤駐車場収容台数800台以上で自動車でのアクセスが良いこと-などを掲げている。

これらの条件を満たすとなるとイオンの大型ショッピングモールしかないが、天井高など倉庫店としての転用が難しい。さらにコストコは、出店先に困ってはいない。地方自治体がコストコの誘致合戦を繰り広げているからだ。

流通団地や工業団地で広大な空き地がある地方自治体が、コストコに秋波を送っているのだ。山梨県南アルプス市は経営破綻した旧完熟農園跡地に約22憶円を投じて整備し、約6haの用地に南アルプス倉庫店を誘致した。

コストコ誘致に成功した群馬県明和町では町民を対象に年会費の一部となる3000円を助成したほか、ふるさと納税の返礼品としてコストコ明和倉庫店で利用できる年会費クーポンを提供するなど、誘致後もコストコへの支援を続けている。

人口減少などにより小売業が衰退して「買い物難民」が発生している自治体では既存小売業からの反発が少なく、コストコの集客力を当て込んだ小売や外食、サービスの新規立地が見込めるほか、買い物ついでの観光客などの交流人口の増加が見込めるからだ。

「人材確保のためのM&A」はありうる

だが、全くM&Aの可能性がないとは言い切れない。それは人材確保だ。コストコは最低時給1500円でパート・アルバイトを募集している。沖縄県南城市では「最低賃金の約2倍で、地元企業が優秀な人材を雇用できなくなった」との悲鳴があがる。

それでも少子高齢化が進む地方都市では人材確保には苦労しているようで、パート・アルバイトの募集を続けている。人材確保のための買収は十分に考えられる。新規出店ローカルスーパーを買収し、人材を移籍させるやり方だ。

店舗スタッフだけではない。コストコは一部商品で自社配送網を構築しており、ドライバー確保のために本国でのイノベル・ソリューションズのように日本の物流業者を買収する可能性は高い。今後、出店が加速して物流網を強化する必要に迫られるからだ。

現時点では業態が違いすぎるため、コストコの動きが国内大手スーパーの脅威になるリスクは低い。

しかし、人材確保や物流網維持のためのM&Aは国内大手スーパーも実施している。すでに過熱している「売り手争奪戦」にコストコが参入すれば、強力な競合相手になるのは間違いない。国内大手スーパーにとっては、大きな脅威だ。

文・写真:糸永正行編集委員

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