日経平均は足元で大幅に上昇し、4万円を大きく上回る水準となってきています。短期的には過熱感や達成感などに警戒も必要で、とりわけ、出遅れ銘柄への資金シフト余地は大きいと想定されます。

バリュー株優位の可能性も高まり、前回4万円時との比較で株価が大きく調整している高配当利回り銘柄などがその対象と期待されます。


半導体株高が主導する形で、日経平均株価は半年ぶりに4万円大台を回復

 6月(5月30日終値~6月27日終値)の日経平均株価(225種)は5.8%の上昇となりました。売り先行でスタートしたものの、その後は25日移動平均線に沿う形で緩やかに上昇する動きとなり、月末にかけては上昇ピッチを速める展開となっています。6月27日には一時4万0,267円まで上昇し、1月27日以来半年ぶりに4万円の大台乗せを果たしました。


 同日は終値ベースでも1月7日以来の4万円台で取引を終えています。なお、この期間(5月30日~6月27日)のダウ工業株30種平均は3.7%の上昇となり、ナスダック総合指数に至っては6.1%の上昇でした。


 期間中前半は、米トランプ政権による鉄鋼の輸入関税引き上げ表明や、中国の関税合意違反の非難などから、世界的な貿易摩擦への懸念があらためて強まる状況となりました。米国景気の先行き懸念なども重しとなりました。


 その後は、イランとイスラエルの間で有事が勃発し、地政学的リスクが警戒される状況にもなりましたが、米中の通商協議進展期待が高まったことで、株式市場にはリスクオンの流れが優勢となっていきました。とりわけ、エヌビディアが史上最高値を更新して再度時価総額トップに返り咲くなど、米国市場ではハイテク株の強い動きが目立ちました。


 東京市場でも半導体関連株の上昇が全体をけん引していく流れとなってきています。6月最終週にかけては、イランとイスラエルが停戦で合意して中東情勢の緊張が緩和したことや、米連邦準備制度理事会(FRB)メンバーの発言を受けて米国の早期利下げ期待が高まったことなどから、株価上昇に弾みがつく形となっています。


 また、日本銀行の追加利上げ先送りムードが高まったことも、日本株にとっては支援材料となりました。


 6月は半導体関連銘柄が圧倒的に存在感を示しました。 日本マイクロニクス(6871) 、 アドバンテスト(6857) 、 TOWA(6315) 、 レーザーテック(6920) 、 芝浦メカトロニクス(6590) 、 ソシオネクスト(6526) 、 ディスコ(6146) などが軒並み25%以上の上昇となりました。米ナスダック指数の上昇が材料視されて、 ソフトバンクグループ(9984) も30%超の上昇となっています。


 また、政府・自民党が国内の造船業を復活させるための政策パッケージを策定する検討に入ったとも伝わり、 名村造船所(7014) 、 古野電気(6814) 、 三井E&S(7003) 、 中国塗料(4617) などの造船関連銘柄も買い進められました。ヘッジファンド業界の会合において、一部で有望銘柄として取り上げられた ラウンドワン(4680) も急伸しました。


 一方で、 トヨタ自動車(7203) などの自動車株は、米国関税政策の影響が懸念される形で軟調な動きが続きました。 楽天銀行(5838) は日銀の利上げタイミングが遅れるとの見方がネガティブに捉えられています。


 米食品医薬品局(FDA)から輸入警告を受けた オリンパス(7733) も軟調、 日本製鉄(5401) も米USスチール完全子会社化を果たしましたが、コスト負担増に警戒感が先行しました。


短期的な過熱警戒感や達成感から、いったん日本株は調整に向かう可能性も

 6月最終週、日経平均株価の週間上昇幅は年初来で最大となっています。トランプ関税への警戒感が高まる前の水準にまで一気に上昇する中、短期的には過熱警戒感が生じてくる余地もありそうです。


 また、日経平均株価の4万円台回復や、東証株価指数(TOPIX)の年初来高値更新に伴う目先の達成感なども意識されるので、いったん日本株も調整に転じる可能性が高いと判断します。なお、足元での株価上昇が加速した背景には、7月物コールオプションのヘッジに伴う先物買いの動き、6月末配当権利落ち分の再投資による先物買いなど、一時的な需給要因が主導した面も強いと考えられます。


 さらに、需給面では、海外投資家が7月から実質下半期に入るため、目先、リバランスの動きが強まる余地もあるといえるでしょう。

加えて、2000年以降の日経平均の月別騰落率では、堅調な6月に対して、7月から9月にかけてパフォーマンスは悪化する傾向がみられ、5、6月の2カ月間で日経平均は4,400円上昇していることから、今年もこうしたアノマリーへの警戒は強まりやすそうです。


 当面の注目点を見ていきます。米国では、7月9日が期限となっているトランプ政権の相互関税の一時停止がさらに延期されるのかが挙げられます。この点では、期限延長が完全に織り込まれている印象があり、仮に延期なく発動された場合はネガティブサプライズにつながるでしょう。


 そのほか、7月3日には米雇用統計が発表されます。雇用者数の減少、失業率の上昇が予想されていますが、その場合、米国の早期利下げの確度を高めさせることになります。平均時給の大幅な上昇がない限りはポジティブに捉えられそうです。


 国内では、7月後半にかけて4-6月期の決算発表がスタートします。ここでは、半導体関連銘柄の決算が期待材料となりそうです。理由として、米国のエヌビディアやマイクロン・テクノロジーが好決算を発表しており、国内関連銘柄への波及効果が期待できるためです。


 足元の日本株上昇のリード役である半導体関連銘柄は、短期的には過熱感が強まっていますが、仮に目先調整に転じるならば、決算発表をにらんだ押し目買いのチャンスとなるでしょう。


 ほか、7月20日には参院選の投開票が行われます。

政権与党の獲得議席数が焦点となりますが、現在の株価の高値水準からみて、ポジティブな結果への反応は鈍く、ネガティブな結果となった場合に株価のマイナス反応が強まりそうです。なお、29~30日には米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されますが、ここは波乱なく通過する可能性が高そうです。


半年前の日経平均4万円局面と比較して株価調整が大きい銘柄に注目

 足元で株価上昇をけん引してきた半導体関連株ですが、短期的な過熱警戒感は否めなくなってきています。海外投資家の下半期入りに合わせて、目先は出遅れ銘柄などに銘柄リバランスの動きが強まることも想定されます。


 そこで、日経平均株価が4万円を付けていた半年前の水準と比較して、株価の出遅れ感が強い銘柄に注目します。リバランスの動きの中で、買い戻しや押し目買いなどが期待できると考えます。


 下表は、日経平均株価が終値ベースで4万円台をつけていた1月7日と比較して、大きく株価が調整している高配当利回り銘柄となります。なお、スクリーニングの要件としては、金融関連株や自動車関連銘柄などは除外しています。


 これは、日本銀行の追加利上げタイミングが想定よりも後ずれする可能性が高まっていること、米国の自動車関税引き下げに向けたハードルは高く、不透明感が長期化するとみられることなどのためです。


(表)株価の出遅れ感が意識される高配当利回り銘柄


コード 銘柄名 配当利回り
(%) 6月27日終値
(円) 時価総額
(億円) 株価騰落率
(%) 営業増益率
(%) 4114 日本触媒 6.09 1,641.0 2,559 ▲15.3 ▲10.8 1928 積水ハウス 4.58 3,143.0 20,838 ▲16.2 9.2 4182 三菱ガス化学 4.53 2,207.5 4,672 ▲20.8 ▲9.5 5991 ニッパツ 4.15 1,591.0 3,676 ▲17.7 ▲9.9 5019 出光興産 4.13 871.4 11,834 ▲15.9 ▲77.2 注1:株価騰落率は1月7日終値比
注2:営業増益率は2026年3月期予想(積水ハウスは2026年1月期予想)
注3:▲はマイナス

銘柄選定の要件

  • 配当利回りが4.0%以上(6月27日時点)
  • 時価総額が2,000億円以上
  • 1月7日終値比で株価下落率が15%以上
  • 輸送用機器、銀行、証券、保険、その他金融セクターを除く
  • 厳選・高配当銘柄(5銘柄)

    1 日本触媒(4114・東証プライム)

     紙おむつに使用される高吸水性樹脂の世界トップ企業です。アクリル酸、酸化エチレンなども主力分野となります。成長事業としては、電池・水素関連材料、ディスプレイ・半導体(レジストなど)材料、中分子原薬受託製造や医薬品開発支援などのライフサイエンス事業も手掛けています。


     リチウムイオン電池の電解質として使われ、電池の長寿命化を実現させる素材「イオネル」など今後の期待製品となります。海外売上比率はアジア、欧州を中心に50%超の水準となっています。


     2025年3月期営業利益は190億円で前期比15.1%増となっています。マテリアルズ製品、ソリューションズ製品の両セグメントとも、販売数量が増加して増益となりました。円安効果や中国子会社の減損損失減少も増益要因になっています。年間配当金は114円で前期比実質66円の減配となります。2026年3月期は170億円で同10.8%減の見通しです。


     米国関税による需要減少、円高や海外市況低迷によるスプレッド縮小、販売管理費の増加などを見込んでいるようです。ドル/円相場の前提は140円としています。年間配当金は前期比14円減の100円を計画しています。


     2026年3月期の減益・減配見通しなどを受けて、4月急落後の株価の戻りは鈍い状況となっています。ただ、会社計画は保守的とみられ、業績の上振れや、それに伴う配当金引き上げの可能性は高いと考えます。


     ちなみに、会社側では2025年3月期から2028年3月期までの4期間において、配当性向100%または株主資本配当率(DOE)2.0%のいずれか大きい金額を目安に配当を実施するとしています。2028年3月期を最終年度とする新中期計画では、営業利益+持分法投資損益は350億円を計画(2025年3月期は約230億円)しており、配当水準はその分切り上がることになるでしょう。


    2 積水ハウス(1928・東証プライム)

     住宅メーカーのトップ企業です。2024年1月末現在、累積建築戸数は266万戸で世界ナンバー1の水準のようです。戸建・賃貸住宅事業が主力で、リフォームや不動産フィーなどストック型事業、マンションや都市開発事業なども手掛けています。


     米国や豪州を中心として、2025年度までに海外の戸建住宅供給戸数1万戸を目指していましたが、2024年4月、米国で住宅事業を手掛けるMDC社を買収しました。これにより、2025年1月期の国際事業の売上構成比は一気に31.5%にまで高まっています。2025年3月、土屋ホールディングスと資本業務提携契約を締結、6%超の株式を取得しています。


     2025年1月期営業利益は602億円で前年同期比15.9%減となりました。開発型ビジネスは前年同期に複数の開発物件の売却があり、その反動で減益となりました。また、国際事業も、顧客の様子見姿勢の継続を受けたインセンティブの増加、のれん償却などの負担により利益率が低下しました。


     通期計画は3,620億円、前期比9.2%増の期初計画を据え置いており、米国戸建市場の年後半からの回復を見込んでいるようです。都市再開発の物件上積みなども想定されます。年間配当金は前期比9円増の144円を計画しています。


     第1四半期決算における米国事業の伸び悩みを嫌気して、足元の株価パフォーマンスは低調となっています。

    ただ、米国では9月にも利下げの実施が見込まれており、そのメリットを大きく享受できる銘柄として今後注目されてくる可能性が高そうです。MDC社の買収効果があらためて高まる公算です。


     会社側では中期的な平均配当性向40%以上を目標としています。2026年1月期は14期連続での増配計画となっており、今後も減配の可能性は低いとみられます。なお、2026年1月期業績の一定程度の下振れは株価に織り込み済みとみられます。


    3 三菱ガス化学(三菱瓦斯化学:4182・東証プライム)

     化学大手の一角となります。メタノール、アンモニアなど天然ガス系化学品や、メタキシレン、MXナイロンなど芳香族化学品を扱うグリーン・エネルギー&ケミカル事業、過酸化水素、半導体洗浄液など機能化学品、プリント配線板用積層材料など特殊機能材を扱う機能化学品事業の2部門で展開しています。


     BT積層板、MXナイロン、脱炭素材、発泡ポリプロピレンなど多くの製品で世界シェアトップを誇り、トップシェア製品の比率は約40%となっています。世界初・国内初の技術も数多いです。メタノール生産を手掛ける持分法適用会社の影響も大きい状況です。


     2025年3月期営業利益は508億円で前期比7.4%増となっています。JSPの持分法適用会社化が減益要因となりましたが、ポリカーボネート・ポリアセタールや、光学材料、メタノールなどの損益改善、円安により増益を確保しました。海外メタノール生産会社の持分法利益が改善したことで、経常利益の増益幅はより大きくなっています。


     年間配当金は前期比15円増の95円としています。2026年3月期は460億円で同9.5%減の見通しです。成長投資に伴う減価償却費および研究開発費の増加、円高の影響などが減益要因となるようです。年間配当金は前期比5円増の100円を計画しています。


     ハイテク主導の株価上昇の流れには乗り切れず、2026年3月期の減益見通しもあって、株価の戻りは鈍い状況が続いています。ただ、同社のBT積層材は半導体パッケージ用基板でシェアトップとされており、半導体市況好転によるメリットは大きいとみられます。


     ちなみに、超純過酸化水素もシリコンウェハの洗浄に使用されています。為替前提が1ドル=140円など、業績上振れの余地もあると考えられます。累進配当方針を採用していることも安心感につながるでしょう。


    4 ニッパツ(日本発条:5991・東証プライム)

     ばねやシートを手掛ける独立系の自動車部品メーカーです。世界の車の5台に1台は同社のばねやシートが使用されているとみられます。


     また、データセンター向けHDDの構成部品や半導体の製造装置用・検査装置用の各種キーパーツなど情報通信関連部品も手掛けています。世界の約半分のHDドライブに同社のばねが採用されているほか、パワーデバイス用金属基板でも世界トップシェアを占めているようです。


     半導体製造装置メーカー世界トップ5のうち3社と取引しています。インドで自動車部品の新工場を建設計画、2027年の生産開始を目指しています。


     2025年3月期営業利益は521億円で前期比50.5%増となっています。ばねやシートなどの自動車部品は国内外の自動車生産台数減少で減益となりましたが、モーターコアやHDD用機構部品が好調で、HDD用サスペンションの売上数量も大幅に拡大、情報通信関連部品がけん引役となりました。


     年間配当金は前期比27円増の69円となっています。2026年3月期営業利益は470億円で同9.9%減の見通しです。自動車部品の売上が伸び悩む見通しであるほか、人件費を含めた将来投資による固定費増、円高による利益の押し下げなどを想定しています。年間配当金は前期比3円減の66円を計画しています。


     株価は5月中旬以降もみ合いが続いており、足元の全体相場上昇の流れには乗り切れていません。ただ、足元で業績をけん引しているHDDサスペンションは、データセンター向け高容量HDDの需要回復を主導する状況にあります。光ファイバー関連銘柄などのように、データセンター関連株として今後関心を高めていく余地は大きいと考えます。


     同分野では、サンコールの同事業撤退によるシェア増加なども想定されるところです。なお、会社側の為替前提は1ドル=145円で、1円の変動は3億円の営業利益増減要因となります。


    5 出光興産(5019・東証プライム)

     石油元売り業界で第2位の位置づけです。2019年4月に昭和シェル石油と合併して、現在の体制となっています。国内燃料油販売量は年間で3,400万キロリットル、海外では3,800万キロリットルで、国内でのサービスステーション(SS)数は約6,000カ所あります。


     また、エチレン生産量は年間で約100万トン、国内第2位の生産量となっています。有機EL材料、エンジニアリングプラスチックなどの機能材料も手掛けています。代替エネルギー候補として注目されているアンモニア、EV普及の鍵を握るとされる全固体電池の材料である「固体電解質」なども開発を進めています。


     2025年3月期経常利益は2,147億円で前期比44.3%減となりました。在庫の影響が823億円ほどの減益要因となりましたが、在庫影響を除いたベースでも959億円の減益となっています。販売数量減やマージン悪化で基礎化学品が大幅減益となり、石炭の市況下落の影響も大きく響きました。


     年間配当金は前期比実質4円増の36円としています。2026年3月期経常利益は560億円で同73.9%減の見通しです。在庫の影響が700億円程度の悪化要因になるとみています。在庫の影響を除いたベースでも677億円の悪化を見込んでおり、燃料油のマージン縮小、石炭の市況悪化を主な減益要因とみています。年間配当金は前期比横ばいの36円を計画しています。


     想定以上の大幅減益見通しを発表したことで、セクター内でも足元の株価パフォーマンスはやや低調です。2027年3月期の業績回復を織り込むにはまだ早く、大幅な水準訂正には原油価格の上昇などが必要とされそうですが、業績予想は保守的な面も強く、下値リスクは限定的といえるでしょう。


     なお、原油価格が10ドル/バレル変動で680億円、ドル/円相場が5円/ドル変動で180億円の収益変動要因(在庫影響込みのベース)となるようです。


    (佐藤 勝己)

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