熊谷彩春、10歳のころは「毎日駆け回っていました」NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』で再びノノ役に
熊谷彩春 (撮影:曳野若菜)

子役時代に数々の舞台に立ったのち、2019年『レ・ミゼラブル』コゼット役で本格デビュー。可憐さと力強さを併せ持つ美しいソプラノボイスと朗らかな存在感で、いまやミュージカル界で欠かせない存在となっている熊谷彩春。

彼女が主演する「NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』~ノノとショウと秘密の森~」が今年、3年ぶりに再演される。ゾンビと人間が分断されて暮らす世界で、新米ゾンビの小さな女の子・ノノと人間の男の子・ショウの友情が、ふたつの世界を共存へと導いていく可愛らしい物語を彩るのは、NHK「みんなのうた」の名曲たちだ。登場する劇中歌は「手のひらを太陽に」「コンピューターおばあちゃん」といった昭和期の名曲から、「ベスト・フレンド ~Best Friend~」「WAになっておどろう~イレ アイエ~」などの平成時代の人気曲まで多彩で、どの世代が観ても懐かしさを覚えるに違いないミュージカル。熊谷に意気込みを聞いた。



全世界の人が『リトル・ゾンビガール』を観てくれたら

――「『リトル・ゾンビガール』~ノノとショウと秘密の森~」は2022年に初演されたミュージカルで、今回は3年ぶりの再演です。熊谷さんは前回に続いてノノを演じますが、その前、コロナ禍で全公演中止となってしまった幻の初演である2020年から本作に関わっていらっしゃいますね。どんな思い出がありますか。



2020年に上演されるはずが全公演中止になってしまって、前回の2022年は「満を持して」の気持ちで関わる人全員がとても意気込んでいました。でもまたコロナの影響で日生劇場公演はたった2回のみでクローズしてしまって……。その分、再開後の地方公演のことはとても印象に残っています。来てくれた子どもたちが目をキラキラさせて観てくれて、カーテンコールでは一緒に歌って踊ってくれた。学校の芸術鑑賞会としての上演では「ノノ、後ろ!」といったような声が客席から飛んだりして。もちろん普段の劇場マナーとは違うのですが、きっとミュージカルを初めて見る子が一緒に物語の中に入り込んで素直に反応してくれたんだろうなと嬉しかった。

私はなんて素敵なお仕事をしているのだろうと、自分自身がこのお仕事をしている意義のようなものも感じた公演でした。



先日、2020年公演をご一緒するはずだった上白石萌音ちゃん(熊谷とWキャストでノノを演じる予定だった)にお会いした時に、ようやく落ち着いた状況の中で上演できる、というような話をしたんです。萌音ちゃんも喜んでくれて「私も観に行きたい」と言ってくれました。初演から関わったたくさんの人の思いを背負いながら、今年の公演を良いものにしていきたいと思っています。



熊谷彩春、10歳のころは「毎日駆け回っていました」NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』で再びノノ役に

――「『リトル・ゾンビガール』~ノノとショウと秘密の森~」という物語については、どんな印象をお持ちですか。ファンタジーだけど現代社会が内包する問題にも切り込むような深い話でもあります。



子ども向けのファンタジーとして描かれていますが、現代に生きる私たちにとても重要なメッセージを投げかける話です。ゾンビと人間のあいだの出来事という架空の世界の話として描かれていますが、分断されている世の中というのは今の世界そのもの。子どもは楽しめて、大人にはハッと突き刺さるものがあると思います。戦争といった大きな話でなくても、今の世の中はSNS上などで簡単に分断が起こっていますから。私、全世界の人が『リトル・ゾンビガール』を観てくれたら、平和な世界になるのにな……と思うくらいです。



――その物語の中で、熊谷さんが演じるのは新米ゾンビの女の子・ノノです。

好奇心旺盛、元気な子ですね。



私は本当にノノみたいな子だったんです(笑)。自然の多い土地で育ち、森の中を駆け回って遊んでいた子ども時代でしたし、疑問に思ったことはすぐに「なんで?なんで?」と聞いていました。今でも親に「目に入るものすべてに『なんで?』と聞いてくるから本当に大変だった」と言われます(笑)。最初は10歳の役をどう演じよう……と悩んだのですが、中身は今もあの頃とそんなに変わっていないので、ありのまま演じたらいいのかなと思いながらやっていました。



実は人見知り。友達をつくるために意識していることは?

――ちなみに熊谷さんはノノやショウの年頃、10歳のころは何をしていましたか?



毎日駆け回っていましたね……。あとは歌って踊るのが大好きだったので、友だちを集めてミュージカルごっこをしていました! もともとある演目ではありますが、自分たちで脚本を書いて。下駄箱のスペースでリハーサルをしていたらだんだん人が集まってきて、「私もやりたい」という子がどんどん増えていきました。楽しかったなあ。その子たちはミュージカルを好きになってくれて、今でも私が出演する舞台に観に来てくれるんですよ。



――素敵ですね。

少し作品から離れて、熊谷さんご自身のことを伺わせてください。最近ハマっているものは何かありますか?



熊谷彩春、10歳のころは「毎日駆け回っていました」NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』で再びノノ役に

最近は銭湯によく行きます。今お稽古している作品(ミュージカル『キンキーブーツ』)は13センチの高いヒールをずっと履いている役なので、一日終わると足がパンパンになるんです。さらに体力も必要なので、稽古後にジムに行って、走りながらセリフを覚え(笑)、その足で銭湯に行くというルーティンになっています。



――舞台の楽屋に欠かせない必需品は?



複数人の楽屋だとやりませんが、香りフェチなので、ひとりの楽屋だとアロマを置いています。落ち着く香りに包まれるといいパフォーマンスができる気がします。あとはマッサージガンなどのマッサージ器具は欠かさず持っていきます。それと、大量の漢方やのど飴も。喉の薬なんて薬局かのように大量に楽屋に置いてありますし、共演者の方もそれを知っているので「あの漢方持ってる?」と訪ねて来たりします(笑)。たぶん私はコレクション癖があるんです。先日はアメリカで、あちらの歌手の方が使っているというのど飴を大量に買ってきたので、さっそくコレクションの仲間入りを果たしました。



――ノノはどんどん新しいお友だちを作っていく子ですが、ちょうど新学期になり、新しい環境になじめず悩んでいる人もいるかもしれません。

そんな人にアドバイスを贈るとしたら。



私は実はけっこう人見知りで、新しい作品のお稽古が始まる前日の夜は緊張するし「怖いな」「知らない人ばかりの中に行きたくないな」と思っちゃうタイプです。でも徐々に、自分がオープンマインドでいればまわりの方もオープンでいてくれると気付いてきたので、最近では変な部分もぜんぶ知ってもらおうと自分を開放することを意識しています。素を晒すと、お友だちが増えます! ……とはいえ未だに毎回、稽古初日前は緊張するんですが。そして終わる頃には「終わりたくない、みんなと別れたくない」と思うんです(笑)。母親にも「毎回同じこと言ってるね!」と言われています。



――最後に改めて、「『リトル・ゾンビガール』~ノノとショウと秘密の森~」のオススメポイントを教えてください!



熊谷彩春、10歳のころは「毎日駆け回っていました」NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』で再びノノ役に

もちろん「みんなのうた」の楽曲の強さもありますし、こんなにも「みんなのうた」がぴったりハマるんだと思う脚本も素敵です。それは大前提として、キャラクターも個性豊かで面白い。子どもが見ていても飽きないし、きっと終演時には観た方ごとに「このゾンビが好き」「この子どもが可愛い」と、お気に入りのキャラクターができていると思います! また、衣裳も素敵です。ゾンビの衣裳は全員“植物”がモチーフで、ノノだと襟がお花の形になっていてスカートにはツタがあしらわれていたりしてとても可愛いんです。しかもベースのピンクのグラデーションは手染めですし、襟の刺繍も手縫いです。ほかのキャラクターの衣裳もそれぞれに細部までこだわって作られています。

どんな方も楽しんでいただける作品だと思うので、ぜひ劇場に足を運んでくださったら嬉しいです。



取材・文:平野祥恵 撮影:曳野若菜



<公演情報>
日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2025
NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』
~ノノとショウと秘密の森~



脚本:徳野有美
作曲・音楽監督:八幡 茂
演出:鈴木ひがし
ほか



出演:
ノノ   熊谷彩春
ショウ  南野巴那



親分   コング桑田
ハル   石田佳名子
クルス  丸山泰右



リリィ  大和悠河
ほか



2025年8月23日(土)・24日(日)
会場:東京・日生劇場



チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2500229(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2500229&afid=P66)



公式サイト:
https://famifes.nissaytheatre.or.jp/2025himitsunomori/



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