
ワールドシネマ・ドラマチック・コンペティション部門の監督賞を受賞した『The Things You Kill』は、アリレザ・ハータミーによる異色のサスペンス映画。
主人公は、トルコの大学教授。
その究極の出来事の直後から、映画は観客をかなり混乱させる。さらにラスト近くになって、もう一度混乱が待っている。ハータミーはもちろんわかってやっていること。上映後のQ&Aでも、多くの観客は「今何を見せられたのだ?」と思うはずだと語っている。
それがしばらく頭に残り、何日か後に「もしかしてこういうことか」と思ってもらうのがねらいだ。「その後、もう一度見直すと、仕掛けがあちこちに隠されていることに気づいてもらえるはず」とも、ハータミー。事実、筆者もわけがわからないと思ったが、このQ&Aで誰かがデビッド・リンチと比較したことで、とたんに納得がいった。たしかに、そこがわかるともう一度見直したくなる映画だ。
アメリカに住んだことがあり、現代の西洋の価値観をよく知っているハータミーは、保守的な文化になお残る間違いを発見しつつも、自分もまたその間違いの一部なのだとも認識したと語っている。主演はトルコの名優エキン・コチ。
文=猿渡由紀