
絵本画家・いわさきちひろの自宅兼アトリエ跡に建てられたちひろ美術館・東京で、5月16日(金)から7月21日(月・祝)まで、ふたつの展覧会が開催される。
ひとつは、絵本や絵画、版画の制作をはじめ、本の装幀、小説、批評、映像など、幅広いジャンルで活躍する司 修(つかさ おさむ)の初期から近作までの約80点を紹介する企画展。
1936年に群馬県の前橋市で生まれた司は、幼少期を戦争のなかで過ごし、9歳で空襲を体験。戦中戦後に刻まれた生々しい記憶が原動力となり、戦争体験者として、また今を生きる者として、問題意識を抱えながら折々に感じるものを表現し続けてきた。原爆は、その司が長年取り組んできたテーマのひとつだ。展示の核となる『まちんと』は、広島で被爆し、トマトを「もうちょっと」とねだりながら亡くなった少女を主人公にした絵本で、司はこれによりライプチヒ国際図書デザイン展金賞を受賞した。広島・長崎への原爆投下から80年の今、司の作品を通して改めて原爆について考える機会となるだろう。
29歳の司が初めて手がけた絵本・アンデルセン童話『みにくいあひるのこ』の原画が同館に収蔵されたことを記念し、その原画と絵本のために描かれたスケッチなどの展示があるのも、同展の見どころのひとつ。また宮沢賢治の世界を多様に表現してイーハトーブ賞を受賞した司の『注文の多い料理店』や『雁の童子』『銀河鉄道の夜』などを通じ、時期と技法の異なる作品を比べて見られるのも興味深いところだ。

司 修『みにくいあひるのこ』(偕成社)より 1965年 ちひろ美術館蔵
もうひとつの展覧会は、2025年に生誕220年と没後150年を迎えるデンマークの作家ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805-1875)に焦点をあてるもの。いわさきちひろは、アンデルセンの物語を題材に約850点もの作品を描いたという。『絵のない絵本』の原画や貴重な書籍が紹介されるほか、ゆかりの地を訪れたちひろが実感をもって制作に取り組んだ絵本や童話集とともに、アンデルセンの人生を紹介する展示もある。ちひろの絵や言葉を通じて、改めてアンデルセンの魅力にふれてみたい。

いわさきちひろ《窓辺の人魚姫》『にんぎょひめ』(偕成社)より 1967年
<開催概要>
『ヒロシマ・トマト 司 修展/アンデルセン生誕220年 ちひろと見つめるアンデルセン』
会期:2025年5月16日(金)~7月21日(月・祝)
会場:ちひろ美術館・東京
時間:10:00~17:00(入場は16:30まで)
休館日:月曜(7月21日は開館)
料金:一般1,200円、大学・65歳以上900円
公式サイト: https://chihiro.jp/tokyo/