
現在、若年層を中心にブームになっている「CBD(カンナビジオール)」。通販サイトを中心にCBDを使用した商品の取り扱いが増え、市場規模は年々拡大している。
近年流行中のCBDってどんな成分?
ここ数年若者を中心にブームとなっているCBD。これはカンナビジオールの略称で、麻の植物などに含まれるカンナビノイドと呼ばれる成分の一種だ。大麻取締法第一条では「大麻」とは、大麻草そのものと大麻草から作られた製品のことを指すが、大麻草の成熟した茎とその製品、そして大麻草の種子とその製品を除くと明記されており、大麻草の成熟した茎や種子のみから抽出・製造されるCBDは法律上の大麻に当たらないため、合法的に売買されている。
矢野経済研究所が2022年に行ったCBD製品市場に関する調査では、2021年の国内CBD製品市場規模は小売金額ベースで前年比185.9%の185億4100万円、2022年は前年比139.9%の259億3600万円を見込んでいる。
ブームの背景には、2020年のコロナ禍以降に健康への関心が高まったことだと同研究所は推測している。健康維持や増進の目的はもちろん、精神的な落ち着きを求めて製品が使用されることも多く、急激な市場の拡大につながった。
CBDには免疫や神経伝達、自律神経などの恒常性を維持するためのリラックス効果も期待されているのが特徴だ。また、Green Zone Japanと日本臨床カンナビノイド学会の研究チームは、CBD使用経験者へのオンラインアンケートで、CBDの用途はリラクゼーションや睡眠改善、不安軽減、健康増進、抑うつ軽減であることを明らかにしている。このように、利用者がCBDに求めている効果の多くはリラクゼーションや精神安定がほとんどだ。
しかし、「マリファナマーチ東京2023」を主催するなど、大麻関連に詳しい根岸浩和さんは、昨今のCBDの人気や期待される効果に疑問を抱いている。
「違法とされている大麻成分のTHC(テトラヒドロカンナビノール)はハイになる作用がありますが、CBDは副交感神経を優位にする作用があるとされているため、病気を患っている人でないと効果が感じられにくいという特徴があり、健康な人が使ってもあまり意味はありません。
1日で60件もの業者申請も。広がるCBD市場
今や通販をはじめ、さまざまなところで見かけるCBDだが、使用や輸入ができるようになったのは2012年。当時は今に比べて濃度が低く本物の大麻より効果が薄いため、利用者の期待に応えられるようなものではなかったそうだ。そのため、試しに買ってみたものの期待外れで使用をすぐやめてしまったという利用者が続出した。
その後、CBDを取り扱う業者のなかで、濃度を上げたり化学反応をさせたりして販売する人たちが徐々に増えていき、そこから多種多様なカンナビノイドが次から次へと販売されてくという状態に。そのなかでもCBDに比べてTHCの効果により近いカンナビノイドが登場し、厚労省が危険ドラッグとして規制対象に含むかどうかを検討するより前に「合法」として出回るという事態も起こっている。いわば、2010年代に日本で流行した「脱法ハーブ」で行われていたような、取り締まる側と製造・販売する側での「いたちごっこ」の状態が続いているという。
「これまでは何社かの大手業者がCBD市場を牛耳っていましたが、徐々にCBD がブームになっていったことでCBD事業に手を出す人が増えました。ピーク時では1日に60件くらいのCBD業者の申請があると聞きます。
また、100kg単位で輸入をしている大元が存在し、OEMの形式で末端の業者に卸しているとのことです。このようにしてCBD市場が形成されています」
また、37の州と首都ワシントンで医療用大麻が合法、そして18州とワシントンで嗜好用大麻が合法となっているアメリカでも、同じようにCBD由来の商品は販売されている。しかし、そうしたなかでもCBD利用者は限られていて、その利用者は大麻でハイになることを嫌うか、状況的にハイになれない人かのどちらかだという。
根岸さんは「医療目的においては、THCを含めた大麻のすべての成分を一緒に摂取(全草利用)した方がいい」と話す。
「現在販売されているCBD商品は原材料が見えず、製造過程も明らかではないものが多いです。もちろん検査がされているわけでもないので、なんでもありという状態なのが一番の問題です。いわば、家庭で作られた糠漬けのような状態ですね。そのため、売る方は非常に売りやすい状況になっていて、なかにはCBDが0%なのに、CBDと謳って売っている業者もいるほどです」
「CBN」に「HHC」と続々登場。過激化するカンナビノイド市場
現在のCBDを取り巻く状況で、根岸さんが最も憂慮しているのは「CBDの商品には何が入っているかわからない」ということ。販売されているCBD商品には、正規に検査された成分表や含有量表示がないものが多く、手にする人にとって本当に安全かどうかがわからない。
何がどれくらい入っているかが検査しないとわからないという状態が続いている。そしてCBDと明記されていながら、さらに強い成分のもの、そして違法であるTHCが混入している可能性もあるという。
「2021年の秋ごろにCBN(カンナビノール)というTHCから抽出されるカンナビノイド(大麻に含まれる炭素数21の化合物群)がオイルとして市販されました。こちらにはハイになる成分が含まれているので、これまでにTHCのような効果を期待してCBDを試した人たちがCBNに流れてしまいました。もともとは健康効果を謳っていたものでしたが、ハイになりたい人がこれを求めたため、次第に遊び道具のようになってしまいました」
そして、2022年に入ってからは「HHC(ヘキサヒドロカンナビノール)」という半合成カンナビノイドが登場。
「HHCが出てきてからはCBDやCBNが売れなくなったため、CBN業者がCBN商品のパッケージにHHCと書いて売り出して、在庫を処分したりしていました。CBNやHHCが売れる理由は合法かつTHCと効果が同じという触れ込みのためです。
ですが、中身だけ違うものをHHCとして販売していた2021年12月~2022年3月あたりが一番グレーでした。フリマアプリなどで普通に売られていたほどですからね」
大麻の生涯経験率1.4%という情弱な日本
そして、このHHCのマーケットに参入してきたのがブラックマーケットでTHCを販売している業者だった。THCという非合法なものを闇ルートで売るよりも、HHCと称してメルカリなどで"合法的に"売る方が効率的かつ儲けが大きかったとことも理由だ。
「HHCはTHCと効果が同じ」と言われていること、そして日本は大麻の生涯経験率が1.4%(2017年、厚生労働省調べ)と使用者数が非常に少ないこともあって、HHCとTHCの効果の違いがわからないために、HHCと称してTHCを売るという闇ビジネスが横行した。
これを受けて厚生労働省は、2022年3月7日に「人の身体に保健衛生上の危害が生じる恐れがある」として新たな指定薬物に加え、3月17日に規制を開始するという、前例がないスピード対策で取り締まりを行った。
「カンナビノイドの商品は今後もどんどん規制されていき、処方箋なしでは使用できなくなると思います。そうなれば悪徳業者が淘汰されていくのではないでしょうか。今必要なことは粗悪品を除外していくことと、ちゃんとした情報を提供していくことです。
実際に病気で苦しんでいて大麻を必要とする人のなかには、藁にもすがる思いで効果の期待できないCBDを購入する人も少なくありません。
「CBDによって大麻に対する裾野が広がった」と話す根岸さん。
CBDを皮切りに大麻を知ることとなった若者が増えた今、必要とされるのは大麻の正しい情報を伝えていくことだ。世界的に医療用大麻が続々と合法化されるなか、CBDをはじめとしたカンナビノイド市場は今後どのような動きを見せていくのだろうか。
取材・文・撮影/越前与